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本編
別れと馬車
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さらに数日後、終業式も終えた聖学で。
「そんじゃ、また今度。次会うのは……半月後か」
「だね。また同じ班になれるといいな」
寮に残るリーザとクアイちゃんに一言言ってからアーネの家が用意した馬車に乗る。
「………ラウクム、最後まで見なかったな」
一度俺のお見舞いに来てくれてから、ラウクムくんを見ていない。
退学となってしまった彼は、今日までに寮の荷物を完璧に片付け、部屋の掃除と退寮手続きと退学手続きをして聖学から出ていかなくてはならない。
「でもギリギリまで学校にはいるつもりだよ。部屋もそう片付かないだろうしね」
そう言っていたのを覚えている。
確かにあの汚部屋を片付けるのは骨だろうが、その後授業でも食堂でも姿を見ていない。
もう…出てしまった後なのだろうか。
一言ぐらい言ってもよかったろうに。
ガラガラと馬車が動き始め、すぐに加速、トップスピードに乗る。
しかし、身体が治ったと思ったらすぐに馬車か。こりゃ身体がなまりそうだ。
窓から見える雲が右から左へと次々流れていき、それだけの風景に見飽きた俺は、視線を馬車の中へと向ける。
「……今度は荷物少ねぇんだな」
「えぇ、貴重品を持って行くだけですもの」
アーネが持ち込んだバッグをちらりと見ると、多少の手荷物だけ。
残りの荷物はほとんど部屋に置いてきたらしい。夏季休暇程長い休みではないため今回は置いてきてもいいと言われたから置いてきたのだろう。
まぁ、俺の荷物はほぼ全部持ってこなくちゃならんのだが。
シエルは冬の時に幾らか服を向こうに残してきたらしいから少し持っていけばいいが、俺はそんなもの無い。というか、荷物のほとんどが元から服だしな、俺。
「貴重品かぁ…そういや使いきれなかった金、どうするかな…」
半年前に換金した金貨や銀貨が大量に余ったまま部屋の一部分を占領している。正直聖学での使い道はちょっとした賭け事に使うぐらいで、それでも金貨は邪魔で仕方ない。
ゼランバで幾らか吐き出さないとなぁ……
「お金は使い切るものじゃありませんわよ…」
呆れるアーネに「そうか?」と言ってまた視線を外にさまよわせる。
と。
鱗がビッシリと生える手が窓枠にかけられた。
もちろん外側から。
「のぅわっ!?」
「どうしたんですの?魔獣ですの?」
「いや、窓枠に手が…」
コンコン、と窓がノックされ、銀剣を手に開く。顔合わせる前にぶん殴ってやる。
リザードマンのような顔がヌッと覗いた瞬間、銀剣をその鼻っ面に叩き込む。
「オラぁ!!」
「やぁレィアさん」
その瞬間、トカゲ顔が流暢なヒトの言葉を話した。
「っ!?」
髪で剣先を掴み、強引に止めてその顔を見る。
「…お前、ラウクムか?」
「そうだよ。お別れを言おうと思ってね。まさかもう出ちゃっているとは思ってなかった。あわてて走ってきたよ」
走ってきたということは、何かの肉を食べてラウクムくんのスキルを使って身体を強化して来たのだろう。この外見はそういう事か。
「お、おう。またどこかで会えるといいな。家に戻るのか?」
「いや、僕はあの家には戻らない。代わりに、ちょっと親戚に呼び出されててね。しばらくはそこに厄介になるつもりなんだ」
親戚か。槌人種の分家か何かだろうか。それなら悪いようにはならないだろう。少し安心した。
「そうか、またいつかメッセージでも送ってくれよ」
「うん、ありがとうね。レィアさん」
そろそろ限界だから。そう言ってラウクムはゆっくり馬車から離れていく。
その顔は聖学から退学にされたことを嘆いてはいなかった。
「…ラウクムさんでしたの?」
「あぁ。あいつも元気でやってくってさ」
ガラガラと馬車が走る。
俺は少し幸福な気分になって目をつむった。
「そんじゃ、また今度。次会うのは……半月後か」
「だね。また同じ班になれるといいな」
寮に残るリーザとクアイちゃんに一言言ってからアーネの家が用意した馬車に乗る。
「………ラウクム、最後まで見なかったな」
一度俺のお見舞いに来てくれてから、ラウクムくんを見ていない。
退学となってしまった彼は、今日までに寮の荷物を完璧に片付け、部屋の掃除と退寮手続きと退学手続きをして聖学から出ていかなくてはならない。
「でもギリギリまで学校にはいるつもりだよ。部屋もそう片付かないだろうしね」
そう言っていたのを覚えている。
確かにあの汚部屋を片付けるのは骨だろうが、その後授業でも食堂でも姿を見ていない。
もう…出てしまった後なのだろうか。
一言ぐらい言ってもよかったろうに。
ガラガラと馬車が動き始め、すぐに加速、トップスピードに乗る。
しかし、身体が治ったと思ったらすぐに馬車か。こりゃ身体がなまりそうだ。
窓から見える雲が右から左へと次々流れていき、それだけの風景に見飽きた俺は、視線を馬車の中へと向ける。
「……今度は荷物少ねぇんだな」
「えぇ、貴重品を持って行くだけですもの」
アーネが持ち込んだバッグをちらりと見ると、多少の手荷物だけ。
残りの荷物はほとんど部屋に置いてきたらしい。夏季休暇程長い休みではないため今回は置いてきてもいいと言われたから置いてきたのだろう。
まぁ、俺の荷物はほぼ全部持ってこなくちゃならんのだが。
シエルは冬の時に幾らか服を向こうに残してきたらしいから少し持っていけばいいが、俺はそんなもの無い。というか、荷物のほとんどが元から服だしな、俺。
「貴重品かぁ…そういや使いきれなかった金、どうするかな…」
半年前に換金した金貨や銀貨が大量に余ったまま部屋の一部分を占領している。正直聖学での使い道はちょっとした賭け事に使うぐらいで、それでも金貨は邪魔で仕方ない。
ゼランバで幾らか吐き出さないとなぁ……
「お金は使い切るものじゃありませんわよ…」
呆れるアーネに「そうか?」と言ってまた視線を外にさまよわせる。
と。
鱗がビッシリと生える手が窓枠にかけられた。
もちろん外側から。
「のぅわっ!?」
「どうしたんですの?魔獣ですの?」
「いや、窓枠に手が…」
コンコン、と窓がノックされ、銀剣を手に開く。顔合わせる前にぶん殴ってやる。
リザードマンのような顔がヌッと覗いた瞬間、銀剣をその鼻っ面に叩き込む。
「オラぁ!!」
「やぁレィアさん」
その瞬間、トカゲ顔が流暢なヒトの言葉を話した。
「っ!?」
髪で剣先を掴み、強引に止めてその顔を見る。
「…お前、ラウクムか?」
「そうだよ。お別れを言おうと思ってね。まさかもう出ちゃっているとは思ってなかった。あわてて走ってきたよ」
走ってきたということは、何かの肉を食べてラウクムくんのスキルを使って身体を強化して来たのだろう。この外見はそういう事か。
「お、おう。またどこかで会えるといいな。家に戻るのか?」
「いや、僕はあの家には戻らない。代わりに、ちょっと親戚に呼び出されててね。しばらくはそこに厄介になるつもりなんだ」
親戚か。槌人種の分家か何かだろうか。それなら悪いようにはならないだろう。少し安心した。
「そうか、またいつかメッセージでも送ってくれよ」
「うん、ありがとうね。レィアさん」
そろそろ限界だから。そう言ってラウクムはゆっくり馬車から離れていく。
その顔は聖学から退学にされたことを嘆いてはいなかった。
「…ラウクムさんでしたの?」
「あぁ。あいつも元気でやってくってさ」
ガラガラと馬車が走る。
俺は少し幸福な気分になって目をつむった。
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