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本編
捜索と逃走
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「っ、せい!」
右手につけた杭打機の形をした銀腕が壁を一撃で破砕、俺が余裕でくぐり抜けられるぐらいの穴が出来る。
ぴゅう、と吹いた風はかなり強く、冬らしい寒さも伴って俺の身体を縮み上がらせる。
眼下に広がるのは整然と並んだ街並み。そして空には真っ白な月と地上より何倍も強い輝きを発する星の空。
それに負けじと輝きを放つ夜の魔族の街が広がっていた。
『ほら急げ。いくらズタボロになって落ちて行ったとはいえ、相手が三大魔候だってことには変わりない。当然その力はただの魔族とはダンチだぞ』
「わぁってるよ!」
俺が今すべき事は三つ。
一つはどこかに囚われているはずのアーネ、彼女の救出。これは絶対だ。じゃなきゃアーネはスキルを抜き取られて死に、強力なスキルを手にいれた魔族が結界を破って進行してくるだろう。
二つ目は俺の袋。あれがないと帰れない。タイマーの裏に刻まれた紋がないと結界に入れないし、仮にどうやってか入ることが出来たとしても、このままでは聖学で進級できないのはほぼ間違いないだろう。
そして三つ目、脱出方法を探す事だ。
笑えない事にこの天空都市、空の上数千キロを飛んでおり、天空都市の上を大規模な魔法で地上と大差ない環境にととのえているらしい。ちなみに見抜いたのはマキナ。建物の配置そのものが魔法陣を組む一要素になっているんだとか。
つまりこの天空都市は空飛ぶ巨大な魔法陣と変わらないという事だ。そしてその魔法陣の要がこのデカい豪邸だとか。魔族らしいと言えば魔族らしい方法だ。
何が言いたいかと言うと、俺がしたように荷物に紛れ込んで降りるか、ポータルとかいう所定の場所から降りるしかないのだが、そのどちらも難しいという事だ。その理由はまた後で言おう。
まずは最優先でやらなければならないのは──アーネの救出。
『音で探れないか?』
「音が多すぎる。それに、範囲を広くすればするほど俺の負担が大きくなるから、今はあんまりやりたくないかな」
そう言ってマキナを小ぶりなナイフに形を変えさせ、ピタリと手首の少し下にあてがう。
『おい、何を──』
ぴっ、とひと息で切り裂いた手首から血が溢れ、《千変》の上を血が伝う。
『馬鹿、血界を使う訳でも無いのに血を出すんじゃねぇ!』
「阿呆、好き好んで手首切ってる訳じゃねえまよ。マキナ、これで足りるか?」
『少々過剰です』
少ないよりかはマシだ。
意識をすれば既に血はほとんど流れなくなるが、念の為二、三度髪を巻いておく。
『幾つまで・許可されますか』
「…前に試しにやった時は二万まで大丈夫だったな?なら三万出せ」
『宜しいですか・マスターの領域を・二割程お借りしますが』
「かまわん、やれ」
『了解しました』
『お、おい何を──』
言った途端、マキナが分裂を始める。
二が四に、四が八に、八が十六に、十六が三十二に──猛烈な勢いで分裂し、その数に反比例してサイズは小さくなる。
「探してこい」
声も姿も聞こえないし見えない。しかしマキナの気配は消えた。都市中に飛び散り、アーネと俺の袋を探しに行ったのだろう。
さて、俺は今のうちに──産獣師から離れるか。
そう思い、少なくとも高さ二十メートルはありそうなこの部屋から飛び降りた。
右手につけた杭打機の形をした銀腕が壁を一撃で破砕、俺が余裕でくぐり抜けられるぐらいの穴が出来る。
ぴゅう、と吹いた風はかなり強く、冬らしい寒さも伴って俺の身体を縮み上がらせる。
眼下に広がるのは整然と並んだ街並み。そして空には真っ白な月と地上より何倍も強い輝きを発する星の空。
それに負けじと輝きを放つ夜の魔族の街が広がっていた。
『ほら急げ。いくらズタボロになって落ちて行ったとはいえ、相手が三大魔候だってことには変わりない。当然その力はただの魔族とはダンチだぞ』
「わぁってるよ!」
俺が今すべき事は三つ。
一つはどこかに囚われているはずのアーネ、彼女の救出。これは絶対だ。じゃなきゃアーネはスキルを抜き取られて死に、強力なスキルを手にいれた魔族が結界を破って進行してくるだろう。
二つ目は俺の袋。あれがないと帰れない。タイマーの裏に刻まれた紋がないと結界に入れないし、仮にどうやってか入ることが出来たとしても、このままでは聖学で進級できないのはほぼ間違いないだろう。
そして三つ目、脱出方法を探す事だ。
笑えない事にこの天空都市、空の上数千キロを飛んでおり、天空都市の上を大規模な魔法で地上と大差ない環境にととのえているらしい。ちなみに見抜いたのはマキナ。建物の配置そのものが魔法陣を組む一要素になっているんだとか。
つまりこの天空都市は空飛ぶ巨大な魔法陣と変わらないという事だ。そしてその魔法陣の要がこのデカい豪邸だとか。魔族らしいと言えば魔族らしい方法だ。
何が言いたいかと言うと、俺がしたように荷物に紛れ込んで降りるか、ポータルとかいう所定の場所から降りるしかないのだが、そのどちらも難しいという事だ。その理由はまた後で言おう。
まずは最優先でやらなければならないのは──アーネの救出。
『音で探れないか?』
「音が多すぎる。それに、範囲を広くすればするほど俺の負担が大きくなるから、今はあんまりやりたくないかな」
そう言ってマキナを小ぶりなナイフに形を変えさせ、ピタリと手首の少し下にあてがう。
『おい、何を──』
ぴっ、とひと息で切り裂いた手首から血が溢れ、《千変》の上を血が伝う。
『馬鹿、血界を使う訳でも無いのに血を出すんじゃねぇ!』
「阿呆、好き好んで手首切ってる訳じゃねえまよ。マキナ、これで足りるか?」
『少々過剰です』
少ないよりかはマシだ。
意識をすれば既に血はほとんど流れなくなるが、念の為二、三度髪を巻いておく。
『幾つまで・許可されますか』
「…前に試しにやった時は二万まで大丈夫だったな?なら三万出せ」
『宜しいですか・マスターの領域を・二割程お借りしますが』
「かまわん、やれ」
『了解しました』
『お、おい何を──』
言った途端、マキナが分裂を始める。
二が四に、四が八に、八が十六に、十六が三十二に──猛烈な勢いで分裂し、その数に反比例してサイズは小さくなる。
「探してこい」
声も姿も聞こえないし見えない。しかしマキナの気配は消えた。都市中に飛び散り、アーネと俺の袋を探しに行ったのだろう。
さて、俺は今のうちに──産獣師から離れるか。
そう思い、少なくとも高さ二十メートルはありそうなこの部屋から飛び降りた。
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