781 / 2,028
本編
騒ぎと憧れ
しおりを挟む
時間もちょうど良かったので、ユーリアをおぶっていつもより一段も二段も騒がしい食堂へと入ってひと騒ぎ。
その後、疲れたユーリアをアーネの提案で俺達の部屋の風呂へ招待した際、ルーシェも入れさせろとひと騒ぎ。
何故か部屋に入るなとキツく言われ、未だ喧騒の真っ只中の食堂、その隅っこで何となく時間を潰していると──。
『マスター・メッ』
「《逆鱗》?」
『はい』
「繋げ」
やれやれ、今度は何用かね。
「よぉルト先輩。こちらレィア。食堂で楽しい楽しい打ち上げ騒ぎの真っ最中。何なら先輩も来たらどうだ?今ならまだご馳走がたんまりと残ってるぜ?」
『第一訓練所へ来い』
──。
『切れました』
「辛気臭ぇ声で一言呼び出しですか、そうですかそうですか…っと」
カタリ、と椅子を鳴らして食堂を出、そのままゆっくりとした足取りで夜の訓練所へと足を運ぶ。
「なぁシャル」
『なんだ今代の』
ふと思いついた事を見えない相棒に訊ねてみる。
「いたかどうか知らねぇけど、仮にいたとして、お前が憧れてた人が、誰かの手でお前の知らないヤツに変えられたとしたら──お前はどう思う?」
『質問が曖昧すぎるぞ。知らないヤツってどう知らないヤツになるんだ。それにどう思う、って何がどうだ。まったく容量を得ん話だな』
んー…なんつーか。
「お前が憧れている人が、お前が思っている『こう行動するはずだ!』って行動から外れた時、かな?」
『なんじゃそりゃ。そんなの、人の勝手だろうに』
「それが、その人に憧れてる理由に大きく関わるとしてもか?」
『それなら尚更だな。こっちが勝手に憧れて、こっちが勝手に落胆してるだけだ。どういう理由で憧れたかは知らねぇが、俺なら憧れるのを辞めるさ。もしくは──』
「もしくは?」
『それがあんまりにも気に食わなかったら、俺の知ってる奴じゃない、なんて言って──自分で殺しちまうかもな』
「おぉ怖い怖い」
おどけてみるが、あいつはそれに近いところにいるんだろうな。
『《逆鱗》…ルト・ゼヴァルナアークか?』
「あぁ」
『ちなみに、お前がそうなったらどうする?』
そうなったら、ってのは憧れが変わってしまったら、って話か?
『もちろん。それ以外に何がある』
「そうだなぁ…」
憧れ、か…そう言われて真っ先に思い浮かぶのはナナキ。未だに彼女の背中を追いかけ続けているような気がする。
「多分、だが…そんな事は無いな」
『ほう?』
「アイツは絶対に変わらない。そんな確信があったし、今はもう死んじまったしな…けどもし、万が一、また会えた時に変わっていたら」
訓練所の前で足を止め、少しだけ押してみる。鍵は開いているようだ。
──普通なら諦める方がいいのかもしれない。
あるいはシャルのように、それが認められず、壊してしまうのかもしれない。
それでも、それでも彼女に憧れを抱き続けたいのならば。
「その時は多分、俺が変わる番だ」
俺は扉を思いっきり押した。
その後、疲れたユーリアをアーネの提案で俺達の部屋の風呂へ招待した際、ルーシェも入れさせろとひと騒ぎ。
何故か部屋に入るなとキツく言われ、未だ喧騒の真っ只中の食堂、その隅っこで何となく時間を潰していると──。
『マスター・メッ』
「《逆鱗》?」
『はい』
「繋げ」
やれやれ、今度は何用かね。
「よぉルト先輩。こちらレィア。食堂で楽しい楽しい打ち上げ騒ぎの真っ最中。何なら先輩も来たらどうだ?今ならまだご馳走がたんまりと残ってるぜ?」
『第一訓練所へ来い』
──。
『切れました』
「辛気臭ぇ声で一言呼び出しですか、そうですかそうですか…っと」
カタリ、と椅子を鳴らして食堂を出、そのままゆっくりとした足取りで夜の訓練所へと足を運ぶ。
「なぁシャル」
『なんだ今代の』
ふと思いついた事を見えない相棒に訊ねてみる。
「いたかどうか知らねぇけど、仮にいたとして、お前が憧れてた人が、誰かの手でお前の知らないヤツに変えられたとしたら──お前はどう思う?」
『質問が曖昧すぎるぞ。知らないヤツってどう知らないヤツになるんだ。それにどう思う、って何がどうだ。まったく容量を得ん話だな』
んー…なんつーか。
「お前が憧れている人が、お前が思っている『こう行動するはずだ!』って行動から外れた時、かな?」
『なんじゃそりゃ。そんなの、人の勝手だろうに』
「それが、その人に憧れてる理由に大きく関わるとしてもか?」
『それなら尚更だな。こっちが勝手に憧れて、こっちが勝手に落胆してるだけだ。どういう理由で憧れたかは知らねぇが、俺なら憧れるのを辞めるさ。もしくは──』
「もしくは?」
『それがあんまりにも気に食わなかったら、俺の知ってる奴じゃない、なんて言って──自分で殺しちまうかもな』
「おぉ怖い怖い」
おどけてみるが、あいつはそれに近いところにいるんだろうな。
『《逆鱗》…ルト・ゼヴァルナアークか?』
「あぁ」
『ちなみに、お前がそうなったらどうする?』
そうなったら、ってのは憧れが変わってしまったら、って話か?
『もちろん。それ以外に何がある』
「そうだなぁ…」
憧れ、か…そう言われて真っ先に思い浮かぶのはナナキ。未だに彼女の背中を追いかけ続けているような気がする。
「多分、だが…そんな事は無いな」
『ほう?』
「アイツは絶対に変わらない。そんな確信があったし、今はもう死んじまったしな…けどもし、万が一、また会えた時に変わっていたら」
訓練所の前で足を止め、少しだけ押してみる。鍵は開いているようだ。
──普通なら諦める方がいいのかもしれない。
あるいはシャルのように、それが認められず、壊してしまうのかもしれない。
それでも、それでも彼女に憧れを抱き続けたいのならば。
「その時は多分、俺が変わる番だ」
俺は扉を思いっきり押した。
0
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説
おっす、わしロマ爺。ぴっちぴちの新米教皇~もう辞めさせとくれっ!?~
月白ヤトヒコ
ファンタジー
教皇ロマンシス。歴代教皇の中でも八十九歳という最高齢で就任。
前任の教皇が急逝後、教皇選定の儀にて有力候補二名が不慮の死を遂げ、混乱に陥った教会で年功序列の精神に従い、選出された教皇。
元からの候補ではなく、支持者もおらず、穏健派であることと健康であることから選ばれた。故に、就任直後はぽっと出教皇や漁夫の利教皇と揶揄されることもあった。
しかし、教皇就任後に教会内でも声を上げることなく、密やかにその資格を有していた聖者や聖女を見抜き、要職へと抜擢。
教皇ロマンシスの時代は歴代の教皇のどの時代よりも数多くの聖者、聖女の聖人が在籍し、世の安寧に尽力したと言われ、豊作の時代とされている。
また、教皇ロマンシスの口癖は「わしよりも教皇の座に相応しいものがおる」と、非常に謙虚な人柄であった。口の悪い子供に「徘徊老人」などと言われても、「よいよい、元気な子じゃのぅ」と笑って済ませるなど、穏やかな好々爺であったとも言われている。
その実態は……「わしゃ、さっさと隠居して子供達と戯れたいんじゃ~っ!?」という、ロマ爺の日常。
短編『わし、八十九歳。ぴっちぴちの新米教皇。もう辞めたい……』を連載してみました。不定期更新。
異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
カードで戦うダンジョン配信者、社長令嬢と出会う。〜どんなダンジョンでもクリアする天才配信者の無双ストーリー〜
ニゲル
ファンタジー
ダンジョン配信×変身ヒーロー×学園ラブコメで送る物語!
低身長であることにコンプレックスを抱える少年寄元生人はヒーローに憧れていた。
ダンジョン配信というコンテンツで活躍しながら人気を得て、みんなのヒーローになるべく日々配信をする。
そんな中でダンジョンオブザーバー、通称DOという正義の組織に所属してダンジョンから現れる異形の怪物サタンを倒すことを任せられる。
そこで社長令嬢である峰山寧々と出会い、共に学園に通いたくさんの時間を共にしていくこととなる。
数多の欲望が渦巻きその中でヒーローなるべく、主人公生人の戦いは幕を開け始める……!!
もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜
雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。
しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。
英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。
顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。
ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。
誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。
ルークに会いたくて会いたくて。
その願いは。。。。。
とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。
他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。
本編完結しました!
ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
ボッチ英雄譚
3匹の子猫
ファンタジー
辺境の村で生まれ育ったロンは15才の成人の儀で「ボッチ」という聞いたこともないジョブを神様から授けられました。
ボッチのジョブはメリットも大きいですが、デメリットも大きかったのです。
彼には3人の幼馴染みと共に冒険者になるという約束がありましたが、ボッチの特性上、共にパーティーを組むことが難しそうです。彼は選択しました。
王都でソロ冒険者になることを!!
この物語はトラブルに巻き込まれやすい体質の少年ロンが、それらを乗り越え、いつの日か英雄と呼ばれるようになるまでを描いた物語です。
ロンの活躍を応援していきましょう!!
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる