大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
722 / 2,028
本編

休憩と質問

しおりを挟む
そんな訳で、しばらく生まれたての小鹿のようになっていた聖女サマをおぶりながらあちこちを回ったりしていた。
その間、二回ほど人だかりが出来たが上手いこと脱出を繰り返した。
で、結局戻って来たのは広場の方。
比較的どうでもいい話だが、広場の周りの出店は聖学祭関係者俺達なら無料らしい。どうやって判別してるのかは知らんが、俺も聖女サマも無料だったが、その後ろのオッサンからは金とってたし。
「これ、おいひぃですね」
真っ青にしていた顔を幸せで真っ赤にしながら聖女サマがそう言う。
座ったベンチで足をプラプラとさせるその仕草は、年相応の少女ではなく、もっと幼いように見えた。
つーか…なんてーか、聖女とかってもっと上品に飯食ったりするんじゃねぇのか…?そんなハムスターみたいに頬張ってちゃ威厳も糞も無いんだが。
じっと聖女サマの頬を見つつそんな事を考え…。
………。
「………。」
「…な、なんですか、レィアさん。くすぐったいです」
「…いや、何でもない」
『何してんだお前』
特に意味もなく聖女サマ頬をつついてみた。
なんかあの頬袋、幸せ詰まってそうだよな。
それからしばらく、聖女サマが幸せそうに手に持った食べ物…太めの串に小麦っぽい物を芳ばしく焼いた肉と共に巻いてあるそれを、はむはむと食べる音だけが俺達の間に流れた。
辺りの喧騒や楽しそうな声、時たま聞こえてくる悲鳴にも似た叫び声も飛び交っていたが、俺達の間にあったのはそれだけだった。
ふと、少し前から気になっていた事を聞こうと思って口を開いた。
「なぁ──」「あの──」
向こうも何か言おうとしたらしく、俺と聖女サマのセリフが被る。
「あー、先言う?」
「い、いえ!レィアさん先にどうぞ!」
被ったのが恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして俯く聖女サマ。
「そか、なら遠慮なく」
少し考えて、少しだけ遠回りに言ってみる。
「聖女ってどんな生活してんだ?」
「えっ…と、ですね」
まだ少し赤い顔をなんとか上げ、たとえば昨日でしたら、と言ってから一つ一つ思い出すように言っていく。
「朝四時に起きて結界の維持を六時頃まで。その後七時頃まで朝食、その後は神に祈りを捧げ、再び結界の維持、十二時から一時まで昼食の後、六時まで結界の維持、そして軽食を食べてからレィアさんの所に行きましたね。あとは…はい、修行をしてから寝ました。ベッドに入ったのは一時頃…だったと思います」
「修行ねぇ。聖女の?大変だな」
「えぇまぁ。けど、前よりもかなり楽になったんですよ?」
これでもか。
こうして聞いてみると、やはり聖女というのはかなり大変な役なのだと再確認させられる。
「他にも結界周辺の魔獣狩りや、各地の教会を回ったりと、色々な事することもありますが、基本はそんな感じです」
「それで──」
聞こうと思った言葉が少し、つかえた。
それでも押し出す。
「それで辛い、とかキツい、とか、あるいは辞めたい、って思った事はないのか?」
「それは──」
何かを言いかけ、急に止まる聖女サマ。
そして緩く頭を横に振る。
「いいえ、言っても意味の無い事です。私は四代目聖女で、それは変わることの無い事実ですから」
「…そうか」
本当にそうだろうか。
「それよりレィアさん、私も聞きたいことが──」
「あ、レィアさーん!!」
このタイミングで来たのはラウクムくん。
そしてその大声に釣られる周りの生徒達。
「あのバカ…!逃げるぞ」
「えっ、その」
返事を聞かずに俺は聖女サマを抱き抱え、そのまま逃げた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

カードで戦うダンジョン配信者、社長令嬢と出会う。〜どんなダンジョンでもクリアする天才配信者の無双ストーリー〜

ニゲル
ファンタジー
ダンジョン配信×変身ヒーロー×学園ラブコメで送る物語! 低身長であることにコンプレックスを抱える少年寄元生人はヒーローに憧れていた。 ダンジョン配信というコンテンツで活躍しながら人気を得て、みんなのヒーローになるべく日々配信をする。 そんな中でダンジョンオブザーバー、通称DOという正義の組織に所属してダンジョンから現れる異形の怪物サタンを倒すことを任せられる。 そこで社長令嬢である峰山寧々と出会い、共に学園に通いたくさんの時間を共にしていくこととなる。 数多の欲望が渦巻きその中でヒーローなるべく、主人公生人の戦いは幕を開け始める……!!

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました!

氷河期ホームレスの異世界転生 ~俺が失ったものを取り戻すまで~

おひとりキャラバン隊
ファンタジー
2035年、就職氷河期世代の吉田は、東京の池袋でホームレスをしていた。 第三次世界大戦の終結から10年。日雇いのアルバイトで生計を立てていた吉田は、夜中に偶然訪れた公園で、一冊の不思議な本に出合う。 その本を開いた事がきっかけで、吉田は「意識を向けたモノの情報が分かる力」を手に入れる事に。 「情報津波」と名付けたその力で、世の中の理不尽が人為的に作られた事を知り、それを住処にしていたネットカフェで小説として執筆し、WEB小説のサイトに投稿した。 その夜、怪しい二人組の男がネットカフェに現れ、眠っている吉田に薬を嗅がせた。 そうして息を引き取った吉田だったが、再び目覚めたと思ったら、そこは見た事も無い様な異世界だった。 地球とは比べ物にならない程の未来的な技術に満たされた星で、吉田は「ショーエン・ヨシュア」として成長する。 やがて「惑星開拓団」を目指して学園に入学する事に決め… 異世界、SF、ファンタジー、恋愛。 様々な要素が詰め込まれた濃密で壮大なストーリー。 是非お楽しみ下さい!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

ボッチ英雄譚

3匹の子猫
ファンタジー
辺境の村で生まれ育ったロンは15才の成人の儀で「ボッチ」という聞いたこともないジョブを神様から授けられました。 ボッチのジョブはメリットも大きいですが、デメリットも大きかったのです。 彼には3人の幼馴染みと共に冒険者になるという約束がありましたが、ボッチの特性上、共にパーティーを組むことが難しそうです。彼は選択しました。 王都でソロ冒険者になることを!! この物語はトラブルに巻き込まれやすい体質の少年ロンが、それらを乗り越え、いつの日か英雄と呼ばれるようになるまでを描いた物語です。 ロンの活躍を応援していきましょう!!

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

処理中です...