大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

緋眼騎士の鎧と鴉の爪 終

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『おいレィア!起きろ!意識を飛ばすなよ!?』
おうシャル、大丈夫だよ。
『気絶するなよ!?ここでオチたら終わりだぞ!!』
わかってるよ。
現実に戻った途端、身体中を覆う疲労感と脱力感、そして胸に突き刺さった異物感が俺を襲う。
もしも痛覚切断をしていなければ激痛にのたうち回っていただろう。
目の前のヴォルテール君は喜悦に歪んだ表情をしていて、その手応えを味わっているようだ。
薄く目を開け、しばしなされるがままとなる。
「どんな気持ちだ?ん?声も出ねぇか?」
ズッ!と一息で短剣を引き抜くヴォルテール君。
「違うか!!出ねぇのか!!ははっ!ざまみろ!!」
哄笑共にそっくり同じ短剣をもう一本取り出して何かしらの構えをとる。
「あばよ」
「いけません《クロウ》様!それ以上は事故の範疇を越え──」
笛吹男がそう叫ぶが、血よりも赤い朱の輝きを宿した戦技アーツは止まる気配が一切無い。
なるほど、事故という建前で俺を殺すつもりだったのか。
『起動します・マスター・指示を』
「なんっ」
『敵の無力化だ。そのためなら多少好きにやってもいいぞ』
『了解しました』
「貴様意識が!」
その時、ズチャリと音を立てながら俺の胸元から何かが飛び出した。
それはよく見れば、血に濡れた小さな《千変》の欠片。
恐らく、これが無ければ俺の心臓に短剣が深々と付きたっていたのだろう。
飛んだ破片は眼前の《鴉》の額を撃ち抜き、額から僅かに血を流させる。
『生憎、俺の身体は限界なんでな』
今は立っているだけで精一杯。
早く止血しないと大変なことになりそうだ。
『だから──』
『行動・開始します』
《千変》から無機質な声が響き、俺が意識をせずともそれらが自由に動き始める。
俺が固めて使っていた《千変》の塊三つを分解し、小さな小さな破片に。
『もう一人の俺に任せることにした』
『拡散』
二が四に。
四が十六に。
十六が二百五十六に。
二百五十六が──無数に。
俺が数えられたのはそこまで。
「な…何だこれはあぁあぁあぁあぁあぁあぁ!?」
《鴉》は異常事態を察した瞬間、戦技アーツの予備動作を強制中断し、その場から飛びずさる。
しかし──。
「くっ!?」
それ以上に分裂した欠片は空の星よりも多く、この場を埋め尽くさんばかりに広がる。
当然逃げ場などどこにもない。
そして。
『収束』
ゴバッ、と。
空気が爆発するような音と共に《千変》が一箇所に集中して炸裂する。
巻き上がる砂埃、そしてそこから飛び抜ける人影。
辛うじて避けたらしい《鴉》は、しかし身体中に血を纏いながら爆心地から飛び出る。
だがそれを俺は逃さない。
『追撃』
細かな破片は止まることなく《鴉》を追いかけ、その手足に食らいついた。
「があああっ!?」
手足から血が吹き出、受け身も取れずに地面に墜落する《鴉》。あれではもう戦うことは出来まい。
「《鴉》様!」
笛吹男も同じ事を思ったらしく、慌てて彼を抱えてこの場を去っていく。
『任務遂行しました・どうしますか?』
『ナイスだ。待機してていいぞ──あー…なんて呼ぼうか』
『了解しました』
勝手に腰に戻ってきた《千変》を眺めつつそう独りごちる。
正式名称はクソ長いから却下だし…。
『おい今代の』
あ?何だ?
『後から事情説明してもらうからな』
後から?いや別に今言っても──。
その瞬間、くらっと来た。
身体が膝から崩れ落ち、本格的に立てなくなる。
不味い、血が足りな──。
薄れゆく意識の中、俺はこちらへと来る人影を見、安心して意識を手放した。
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