672 / 2,028
本編
群衆と笛吹男
しおりを挟む
どよめく場外は、ようやく俺の意図を理解したらしい。
俺が《雷光》の代わりに戦う、という事が。
「ふ…ふざけるなあっ!!」
外から一際大きな声が俺に向かって発される。
声がした方を見るが、人が多すぎてよく見えない。
「大体貴様はどこの誰なんだっ!!何の権限を持ってこの場にいる!これは聖学の二つ名持ちと西学の生徒達がこの場所を取り合う戦いだぞ!貴様のような部外者がこの場を荒らしていいものではないっ!!」
それでも尚探してみると──いた。
グレーの髪に同じ色の瞳、男にしては小柄なそいつはその小さな肩を精いっぱい怒らせて俺にそう叫んでいた。
まぁ、男からしたらそう見えるのだろう。
それに。
必死に巡らされた作戦を、たった一人の闖入者に壊されるのかもしれないのだ。それは阻止したいに決まっている。
でもな。
俺達だって。
三日かけて用意してきたんだよ。
忙しいクラスとの合間をぬって。
それを──こんなにも簡単に潰されそうになって。
『………。』
怒らない訳が無いよな?
だから俺はそれに答える。
簡単に。
こつ、こつ、と。
自分の額とこめかみの間、そこを軽く左手で叩く。
俺の反応はそれだけ。
しかし答えはそれで充分なはずだ。
「白い狼の……面?」
男がポツリと呟くのが辛うじて聞こえた。
そしてその声が、水面に落とした石が描く波紋の如く、ゆっくりと──しかし確実に伝わり、どよめきが消えてゆく。
俺がつけているのは、初日の大戦の時に貰った仮面。それが偶然残っていたので、そのまま使わせてもらった。
そして次はひそひそと、小さな小さな声たちが一つの塊に──一つの単語を口々に零す。
すなわち──《緋眼騎士》の名を。
「う…狼狽えるなっ!」
灰色の目を揺らしながら男が叫ぶ。そして司令官のような人影へと一度視線を向け、頷いた後にそのまま群衆の方へと向く。
「相手は変わらず二つ名だが、一人だけなのも変わっていない!それに、私のスキルで視た限り──」
男は俺の方を指差す。
「相手もまた手傷を負っている!倒せない事は無い!」
チッ、バレたか。
その情報は隠しておきたかったんだがな…面倒なスキルだ。司書さんの視覚版か。
『あの男…《笛吹男》だな』
ハーメルン?
『戦いにおいて…と言うより群衆に対して、都合のいいように事が運ぶように扇動する奴のことだ。こういう時のハーメルンは手練の戦士よりも面倒だ』
…なるほど。
確かに向こうはやる気を出している。面倒な事になりそうだ。
「変わらず五人一組で隙を突け!見ろ!お前達はあの《雷光》を倒したのだ!やれない事は無い!!」
俺が《雷光》の代わりに戦う、という事が。
「ふ…ふざけるなあっ!!」
外から一際大きな声が俺に向かって発される。
声がした方を見るが、人が多すぎてよく見えない。
「大体貴様はどこの誰なんだっ!!何の権限を持ってこの場にいる!これは聖学の二つ名持ちと西学の生徒達がこの場所を取り合う戦いだぞ!貴様のような部外者がこの場を荒らしていいものではないっ!!」
それでも尚探してみると──いた。
グレーの髪に同じ色の瞳、男にしては小柄なそいつはその小さな肩を精いっぱい怒らせて俺にそう叫んでいた。
まぁ、男からしたらそう見えるのだろう。
それに。
必死に巡らされた作戦を、たった一人の闖入者に壊されるのかもしれないのだ。それは阻止したいに決まっている。
でもな。
俺達だって。
三日かけて用意してきたんだよ。
忙しいクラスとの合間をぬって。
それを──こんなにも簡単に潰されそうになって。
『………。』
怒らない訳が無いよな?
だから俺はそれに答える。
簡単に。
こつ、こつ、と。
自分の額とこめかみの間、そこを軽く左手で叩く。
俺の反応はそれだけ。
しかし答えはそれで充分なはずだ。
「白い狼の……面?」
男がポツリと呟くのが辛うじて聞こえた。
そしてその声が、水面に落とした石が描く波紋の如く、ゆっくりと──しかし確実に伝わり、どよめきが消えてゆく。
俺がつけているのは、初日の大戦の時に貰った仮面。それが偶然残っていたので、そのまま使わせてもらった。
そして次はひそひそと、小さな小さな声たちが一つの塊に──一つの単語を口々に零す。
すなわち──《緋眼騎士》の名を。
「う…狼狽えるなっ!」
灰色の目を揺らしながら男が叫ぶ。そして司令官のような人影へと一度視線を向け、頷いた後にそのまま群衆の方へと向く。
「相手は変わらず二つ名だが、一人だけなのも変わっていない!それに、私のスキルで視た限り──」
男は俺の方を指差す。
「相手もまた手傷を負っている!倒せない事は無い!」
チッ、バレたか。
その情報は隠しておきたかったんだがな…面倒なスキルだ。司書さんの視覚版か。
『あの男…《笛吹男》だな』
ハーメルン?
『戦いにおいて…と言うより群衆に対して、都合のいいように事が運ぶように扇動する奴のことだ。こういう時のハーメルンは手練の戦士よりも面倒だ』
…なるほど。
確かに向こうはやる気を出している。面倒な事になりそうだ。
「変わらず五人一組で隙を突け!見ろ!お前達はあの《雷光》を倒したのだ!やれない事は無い!!」
0
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説
異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜
雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。
しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。
英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。
顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。
ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。
誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。
ルークに会いたくて会いたくて。
その願いは。。。。。
とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。
他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。
本編完結しました!
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
ボッチ英雄譚
3匹の子猫
ファンタジー
辺境の村で生まれ育ったロンは15才の成人の儀で「ボッチ」という聞いたこともないジョブを神様から授けられました。
ボッチのジョブはメリットも大きいですが、デメリットも大きかったのです。
彼には3人の幼馴染みと共に冒険者になるという約束がありましたが、ボッチの特性上、共にパーティーを組むことが難しそうです。彼は選択しました。
王都でソロ冒険者になることを!!
この物語はトラブルに巻き込まれやすい体質の少年ロンが、それらを乗り越え、いつの日か英雄と呼ばれるようになるまでを描いた物語です。
ロンの活躍を応援していきましょう!!
どこにでもある異世界転移~第三部 俺のハーレム・パーティはやっぱりおかしい/ラッキースケベは終了しました!
ダメ人間共同体
ファンタジー
第三部 今最後の戦いが始る!!・・・・と思う。 すべてのなぞが解決される・・・・・と思う。 碧たちは現代に帰ることが出来るのか? 茜は碧に会うことが出来るのか? 適当な物語の最終章が今始る。
第二部完結 お兄ちゃんが異世界転移へ巻き込まれてしまった!! なら、私が助けに行くしか無いじゃ無い!! 女神様にお願いして究極の力を手に入れた妹の雑な英雄譚。今ここに始る。
第一部完結 修学旅行中、事故に合ったところを女神様に救われクラスメイトと異世界へ転移することになった。優しい女神様は俺たちにチート?を授けてくれた。ある者は職業を選択。ある者はアイテムを選択。俺が選んだのは『とても便利なキッチンセット【オマケ付き】』 魔王やモンスター、悪人のいる異世界で生き残ることは出来るのか?現代に戻ることは出来るのか?
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる