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本編
魔法と魔族
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常時パスが繋がっているのなら、そこから遡り、大本である術者へと到達する手段は多くある。
魔法使いなら知っていて当然なのだと、前にアーネが言っていた。
しかし、だからこそ。
「だとしたら、勝率は多く見積っても一割程度でしょう」
一流の魔法使いでもある学校長がそう言う。
「ヒトの魔法使いが魔族に魔法で立ち向かって勝つ。それがどれだけ難しいか、貴方には理解できませんか。確かにパスが繋がっているのなら辿る手段は多くあります。しかし、それと同じかそれ以上の対抗策もまたあるのです」
「ハナから言ってんだろ。賭けだって。それに俺はそこまで勝率は低くないと思ってる。なんせ相手は今までにないぐらい弱ってる」
「そう断言出来る理由は?」
「先の戦闘で、俺達は奴の杖を焼いた。魔法を使うなら、それがどれだけ大きなハンデか分かるだろう?」
「相手は魔族です。無くても問題は無いでしょう」
「逆だよ。奴は必要だから持ってたんだ。あぁいや、そう思えないならそれでもいい。ただ、一つ認識してほしいのは、常にあった杖が無くなった。何百年、何千年と使ってたそれは、多分身体の一部みたいな物だったろうな。それが無くなったんだ。別の杖使うにしても、馴染むまでミスの一つや二つ起きて当然だと思うが」
そこまで言うと、学校長が一度黙る。
畳み掛けるなら今か。
「今こうしている間にも、奴は自身の傷を癒し、次の策を練り、新しい杖を慣れさせている。一日さえあれば出来る訳でも、一日でいい訳でも無い。だが、一刻を争うという意味では一日しかないんだ。だが、今ベットすれば、勝率は一割なんて安いモンじゃないだろ」
「ではリスクは誰が負うのです」
「っ」
学校長が口を開いた。
「魔法の知識は多少あるようですが、貴方は魔法が一切使えませんね。貴方がやれると言っても、貴方自身は何も出来ない。責任を負うとしても、今現在リスクを抱え込んでいるのは聖学で、魔族を追う際に最も危険なのは術者です。どうするつもりですか」
「それは──」
「私がやりますわ」
口を挟んだのは、この場にいるもう一人の魔法使い。
「私だってこんな方法、納得してないんですわよ。出来る事なら、私もクアイを助けたいんですわ!」
アーネがそう言った瞬間、派手な音と共に扉が開け放たれる。
「うむ、良く言った小娘。ヒトが魔族に魔法で勝つ。ましてや相手があの大魔族。言うも行うも難しいが、吐いた唾も己が言葉も元には戻せぬぞ」
小柄な背、分厚い皮のグローブに口元しか見えないフード付きのマント。
神出鬼没であることに定評のある《臨界点》が、扉を豪快に開け放って入ってきたのだ。
「鍵をかけていたはずですが?」
「見るなと言われたら見たくなる。開けるなと言われたら開けたくなる。当たり前じゃろう?それに話は全部聞かせてもらったぞ。また貴様はリスクばかり見おってからに。貴様が手伝えばもっと成功の確率は上がるじゃろ」
「出来ません。私が死ねば──」
そこで学校長は言葉を切り、視線を僅かに逸らす。
「難儀じゃの、お主も。なら我輩が手を貸そう」
「!」
その場にいた誰もが驚き、彼女の方を向いた。
「なんじゃ、貴様も驚くのか」
学校長に《臨界点》がそう言い、学校長の事を鼻で笑う。
「我輩の目的を知らん貴様ではあるまい?ならば今は千載一遇の好機じゃ。それに──」
一瞬だけ《雷光》の方を向き、心底面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「そこの木偶人形より余っ程先を見ておる。例え暗がりで先の分からぬ方を向いていたとしてもな」
そう言い放つと、《臨界点》はアーネの方に歩き、手を差し出す。
「よろしく頼むぞ、《緋翼》」
魔法使いなら知っていて当然なのだと、前にアーネが言っていた。
しかし、だからこそ。
「だとしたら、勝率は多く見積っても一割程度でしょう」
一流の魔法使いでもある学校長がそう言う。
「ヒトの魔法使いが魔族に魔法で立ち向かって勝つ。それがどれだけ難しいか、貴方には理解できませんか。確かにパスが繋がっているのなら辿る手段は多くあります。しかし、それと同じかそれ以上の対抗策もまたあるのです」
「ハナから言ってんだろ。賭けだって。それに俺はそこまで勝率は低くないと思ってる。なんせ相手は今までにないぐらい弱ってる」
「そう断言出来る理由は?」
「先の戦闘で、俺達は奴の杖を焼いた。魔法を使うなら、それがどれだけ大きなハンデか分かるだろう?」
「相手は魔族です。無くても問題は無いでしょう」
「逆だよ。奴は必要だから持ってたんだ。あぁいや、そう思えないならそれでもいい。ただ、一つ認識してほしいのは、常にあった杖が無くなった。何百年、何千年と使ってたそれは、多分身体の一部みたいな物だったろうな。それが無くなったんだ。別の杖使うにしても、馴染むまでミスの一つや二つ起きて当然だと思うが」
そこまで言うと、学校長が一度黙る。
畳み掛けるなら今か。
「今こうしている間にも、奴は自身の傷を癒し、次の策を練り、新しい杖を慣れさせている。一日さえあれば出来る訳でも、一日でいい訳でも無い。だが、一刻を争うという意味では一日しかないんだ。だが、今ベットすれば、勝率は一割なんて安いモンじゃないだろ」
「ではリスクは誰が負うのです」
「っ」
学校長が口を開いた。
「魔法の知識は多少あるようですが、貴方は魔法が一切使えませんね。貴方がやれると言っても、貴方自身は何も出来ない。責任を負うとしても、今現在リスクを抱え込んでいるのは聖学で、魔族を追う際に最も危険なのは術者です。どうするつもりですか」
「それは──」
「私がやりますわ」
口を挟んだのは、この場にいるもう一人の魔法使い。
「私だってこんな方法、納得してないんですわよ。出来る事なら、私もクアイを助けたいんですわ!」
アーネがそう言った瞬間、派手な音と共に扉が開け放たれる。
「うむ、良く言った小娘。ヒトが魔族に魔法で勝つ。ましてや相手があの大魔族。言うも行うも難しいが、吐いた唾も己が言葉も元には戻せぬぞ」
小柄な背、分厚い皮のグローブに口元しか見えないフード付きのマント。
神出鬼没であることに定評のある《臨界点》が、扉を豪快に開け放って入ってきたのだ。
「鍵をかけていたはずですが?」
「見るなと言われたら見たくなる。開けるなと言われたら開けたくなる。当たり前じゃろう?それに話は全部聞かせてもらったぞ。また貴様はリスクばかり見おってからに。貴様が手伝えばもっと成功の確率は上がるじゃろ」
「出来ません。私が死ねば──」
そこで学校長は言葉を切り、視線を僅かに逸らす。
「難儀じゃの、お主も。なら我輩が手を貸そう」
「!」
その場にいた誰もが驚き、彼女の方を向いた。
「なんじゃ、貴様も驚くのか」
学校長に《臨界点》がそう言い、学校長の事を鼻で笑う。
「我輩の目的を知らん貴様ではあるまい?ならば今は千載一遇の好機じゃ。それに──」
一瞬だけ《雷光》の方を向き、心底面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「そこの木偶人形より余っ程先を見ておる。例え暗がりで先の分からぬ方を向いていたとしてもな」
そう言い放つと、《臨界点》はアーネの方に歩き、手を差し出す。
「よろしく頼むぞ、《緋翼》」
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