大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,920 / 2,028
本編

魔法と魔族

しおりを挟む
常時パスが繋がっているのなら、そこから遡り、大本である術者へと到達する手段は多くある。
魔法使いなら知っていて当然なのだと、前にアーネが言っていた。
しかし、だからこそ。
「だとしたら、勝率は多く見積っても一割程度でしょう」 
一流の魔法使いでもある学校長がそう言う。
「ヒトの魔法使いが魔族に魔法で立ち向かって勝つ。それがどれだけ難しいか、貴方には理解できませんか。確かにパスが繋がっているのなら辿る手段は多くあります。しかし、それと同じかそれ以上の対抗策もまたあるのです」
「ハナから言ってんだろ。賭けだって。それに俺はそこまで勝率は低くないと思ってる。なんせ相手は今までにないぐらい弱ってる」
「そう断言出来る理由は?」
「先の戦闘で、俺達は奴の杖を焼いた。魔法を使うなら、それがどれだけ大きなハンデか分かるだろう?」
「相手は魔族です。無くても問題は無いでしょう」
「逆だよ。奴は必要だから持ってたんだ。あぁいや、そう思えないならそれでもいい。ただ、一つ認識してほしいのは、常にあった杖が無くなった。何百年、何千年と使ってたそれは、多分身体の一部みたいな物だったろうな。それが無くなったんだ。別の杖使うにしても、馴染むまでミスの一つや二つ起きて当然だと思うが」
そこまで言うと、学校長が一度黙る。
畳み掛けるなら今か。
「今こうしている間にも、奴は自身の傷を癒し、次の策を練り、新しい杖を慣れさせている。一日さえあれば出来る訳でも、一日でいい訳でも無い。だが、一刻を争うという意味では一日しかないんだ。だが、今ベットすれば、勝率は一割なんて安いモンじゃないだろ」
「ではリスクは誰が負うのです」
「っ」
学校長が口を開いた。
「魔法の知識は多少あるようですが、貴方は魔法が一切使えませんね。貴方がやれると言っても、貴方自身は何も出来ない。責任を負うとしても、今現在リスクを抱え込んでいるのは聖学で、魔族を追う際に最も危険なのは術者です。どうするつもりですか」
「それは──」
「私がやりますわ」
口を挟んだのは、この場にいるもう一人の魔法使い。
「私だってこんな方法、納得してないんですわよ。出来る事なら、私もクアイを助けたいんですわ!」
アーネがそう言った瞬間、派手な音と共に扉が開け放たれる。
「うむ、良く言った小娘。ヒトが魔族に魔法で勝つ。ましてや相手があの大魔族。言うも行うも難しいが、吐いた唾も己が言葉も元には戻せぬぞ」
小柄な背、分厚い皮のグローブに口元しか見えないフード付きのマント。
神出鬼没であることに定評のある《臨界点》が、扉を豪快に開け放って入ってきたのだ。
「鍵をかけていたはずですが?」
「見るなと言われたら見たくなる。開けるなと言われたら開けたくなる。当たり前じゃろう?それに話は全部聞かせてもらったぞ。また貴様はリスクばかり見おってからに。貴様が手伝えばもっと成功の確率は上がるじゃろ」
「出来ません。私が死ねば──」
そこで学校長は言葉を切り、視線を僅かに逸らす。
「難儀じゃの、お主も。なら我輩が手を貸そう」
「!」
その場にいた誰もが驚き、彼女の方を向いた。
「なんじゃ、貴様も驚くのか」
学校長に《臨界点》がそう言い、学校長の事を鼻で笑う。
「我輩の目的を知らん貴様ではあるまい?ならば今は千載一遇の好機じゃ。それに──」
一瞬だけ《雷光》の方を向き、心底面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「そこの木偶人形より余っ程先を見ておる。例え暗がりで先の分からぬ方を向いていたとしてもな」
そう言い放つと、《臨界点》はアーネの方に歩き、手を差し出す。
「よろしく頼むぞ、《緋翼》」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました!

「異世界ファンタジーで15+1のお題」二

ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
旅人・胡蝶がふらりと立ち寄ったある町には、どこか奇妙な喫茶店が建っていた。 そこから始まる摩訶不思議な物語。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

ボッチ英雄譚

3匹の子猫
ファンタジー
辺境の村で生まれ育ったロンは15才の成人の儀で「ボッチ」という聞いたこともないジョブを神様から授けられました。 ボッチのジョブはメリットも大きいですが、デメリットも大きかったのです。 彼には3人の幼馴染みと共に冒険者になるという約束がありましたが、ボッチの特性上、共にパーティーを組むことが難しそうです。彼は選択しました。 王都でソロ冒険者になることを!! この物語はトラブルに巻き込まれやすい体質の少年ロンが、それらを乗り越え、いつの日か英雄と呼ばれるようになるまでを描いた物語です。 ロンの活躍を応援していきましょう!!

どこにでもある異世界転移~第三部 俺のハーレム・パーティはやっぱりおかしい/ラッキースケベは終了しました!

ダメ人間共同体
ファンタジー
第三部 今最後の戦いが始る!!・・・・と思う。 すべてのなぞが解決される・・・・・と思う。 碧たちは現代に帰ることが出来るのか? 茜は碧に会うことが出来るのか? 適当な物語の最終章が今始る。 第二部完結 お兄ちゃんが異世界転移へ巻き込まれてしまった!! なら、私が助けに行くしか無いじゃ無い!! 女神様にお願いして究極の力を手に入れた妹の雑な英雄譚。今ここに始る。 第一部完結 修学旅行中、事故に合ったところを女神様に救われクラスメイトと異世界へ転移することになった。優しい女神様は俺たちにチート?を授けてくれた。ある者は職業を選択。ある者はアイテムを選択。俺が選んだのは『とても便利なキッチンセット【オマケ付き】』 魔王やモンスター、悪人のいる異世界で生き残ることは出来るのか?現代に戻ることは出来るのか?

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

処理中です...