1,900 / 2,027
本編
二つ名と“存在”
しおりを挟む
「ウィ、アウラング先生、それは──」
《雷光》が何か言いかけ、それをウィルが視線で制す。
「どうだい、受け取ってくれるかい?」
「……アンタの意図を聞きたい」
慎重に言葉を選び、間違いのないように聞く。
「どうということは無い。そのままの意味さ。《勇者》という二つ名を、君にあげたい。以前触れたと思うけど、二つ名は二つ名の争奪戦で勝ち取る以外に、後継者となる者を選んで渡す継承という方法がある。そこの《雷光》も──」
「あぁいや、そういう意味じゃないって。誤魔化さなくていい。もっとストレートに俺の質問を受け取れよ。どういう意味でその二つ名を俺に寄越そうってんだ?」
まぁ、正直アタリはついてる。
「わかってるでしょ?」
それを分かっているからこそ、ウィルも敢えてそう聞いてきた。
「何となくな。誰の差し金だ?学校長か?」
「まさか。僕自身の判断さ」
「それぐらいヤバいってか?この学校が」
「生徒達は自分の意思でここに残った。それだけで強い後輩だってことはわかるさ。でも、わかりやすい心の拠り所が必要なんだ。分かるだろう?君なら」
分からない訳が無い。
《英雄》《聖女》《王》。
彼、あるいは彼女らのように、率いてくれるような存在が。もしくはこの者なら絶対にどうにかしてくれると言う強い存在が欲しいのだ。
それは《勇者》のウィルであり、《英雄》のオーリアンであり、今の俺、《緋眼騎士》のレィアだ。
《勇者》が膝をつき、《英雄》がここから去った。
残ったのは、魔族相手に引かずただ進んだ《緋眼騎士》のみ。
平時ならこれだけでも良かったかもしれない。
だが、生徒達の不安は大きく、《緋眼騎士》の名前だけでは支えられないかもしれない。
だから、《緋眼騎士》というひとつの炎に、《勇者》という火をさらに焚べるのだ。
「一本柱は折れると弱いぜ?」
「折れる気はないだろう?君なら」
「分かったような口を……」
「はは、気分を悪くしたならごめんね。でも、ヒトを見る目はあるつもりなんだ。受けてくれるだろう?」
「だとしたらその自信を傷つけちまって悪いな。その名前、俺は背負わねぇ」
あっさりと拒否するが、ウィルの笑みはまだ崩れない。
「まぁ、一回目から受けてくれるとは思ってないよ。でも、君はヒトがいいからね。そのうち受けてくれるだろう。気が変わったらいつでも言ってくれていいよ」
「はっ。なら一生待ってろ。俺は絶対にその名前は受けねぇ。いや、なんならもうこの二つ名だって要らねぇぐらいだ」
そう言うと、ウィルは「随分と大胆なことを言うね」と少し困ったような表情をする。
「希望の明かりになる程度ならいいさ。でも、そこに偶像を見始めたら、それに頼るし縋るようになる。支えてやってもいいが、立つのも歩くのも手前でやれ。ケツを叩いてやっても良いが、後ろから押しはしねぇ」
「だとしても、今の君という一個人だけだと、踏ん切りがつかない生徒がいるのも確かだよ」
「それもお前の名前を俺が継いだらこの学校が団結するって?あぁなるほど、否定はしないさ。『あの《勇者》が認めた《緋眼騎士》なら!』そう思ってもいいだろうよ。だがな、強い光は目も潰す。自分を見失いやすくなるぞ」
それに──俺はそう言いながら、部屋の端でただ話を聞くに徹していた《雷光》に親指を向けた。
「あそこに適任がいるだろ。光り輝くエース様が」
「彼女は──」
ウィルがそう言いよどみ、一瞬だけ《雷光》が顔を上げる。
期待と不安が入り交じった顔の彼女は、続くウィルの言葉を正面から受け止めた。
「ダメだ。シオンじゃダメなんだ」
明確で確定的な拒否の、拒絶の言葉。
その言葉が静かな一室に尾を引いて残った。
《雷光》が何か言いかけ、それをウィルが視線で制す。
「どうだい、受け取ってくれるかい?」
「……アンタの意図を聞きたい」
慎重に言葉を選び、間違いのないように聞く。
「どうということは無い。そのままの意味さ。《勇者》という二つ名を、君にあげたい。以前触れたと思うけど、二つ名は二つ名の争奪戦で勝ち取る以外に、後継者となる者を選んで渡す継承という方法がある。そこの《雷光》も──」
「あぁいや、そういう意味じゃないって。誤魔化さなくていい。もっとストレートに俺の質問を受け取れよ。どういう意味でその二つ名を俺に寄越そうってんだ?」
まぁ、正直アタリはついてる。
「わかってるでしょ?」
それを分かっているからこそ、ウィルも敢えてそう聞いてきた。
「何となくな。誰の差し金だ?学校長か?」
「まさか。僕自身の判断さ」
「それぐらいヤバいってか?この学校が」
「生徒達は自分の意思でここに残った。それだけで強い後輩だってことはわかるさ。でも、わかりやすい心の拠り所が必要なんだ。分かるだろう?君なら」
分からない訳が無い。
《英雄》《聖女》《王》。
彼、あるいは彼女らのように、率いてくれるような存在が。もしくはこの者なら絶対にどうにかしてくれると言う強い存在が欲しいのだ。
それは《勇者》のウィルであり、《英雄》のオーリアンであり、今の俺、《緋眼騎士》のレィアだ。
《勇者》が膝をつき、《英雄》がここから去った。
残ったのは、魔族相手に引かずただ進んだ《緋眼騎士》のみ。
平時ならこれだけでも良かったかもしれない。
だが、生徒達の不安は大きく、《緋眼騎士》の名前だけでは支えられないかもしれない。
だから、《緋眼騎士》というひとつの炎に、《勇者》という火をさらに焚べるのだ。
「一本柱は折れると弱いぜ?」
「折れる気はないだろう?君なら」
「分かったような口を……」
「はは、気分を悪くしたならごめんね。でも、ヒトを見る目はあるつもりなんだ。受けてくれるだろう?」
「だとしたらその自信を傷つけちまって悪いな。その名前、俺は背負わねぇ」
あっさりと拒否するが、ウィルの笑みはまだ崩れない。
「まぁ、一回目から受けてくれるとは思ってないよ。でも、君はヒトがいいからね。そのうち受けてくれるだろう。気が変わったらいつでも言ってくれていいよ」
「はっ。なら一生待ってろ。俺は絶対にその名前は受けねぇ。いや、なんならもうこの二つ名だって要らねぇぐらいだ」
そう言うと、ウィルは「随分と大胆なことを言うね」と少し困ったような表情をする。
「希望の明かりになる程度ならいいさ。でも、そこに偶像を見始めたら、それに頼るし縋るようになる。支えてやってもいいが、立つのも歩くのも手前でやれ。ケツを叩いてやっても良いが、後ろから押しはしねぇ」
「だとしても、今の君という一個人だけだと、踏ん切りがつかない生徒がいるのも確かだよ」
「それもお前の名前を俺が継いだらこの学校が団結するって?あぁなるほど、否定はしないさ。『あの《勇者》が認めた《緋眼騎士》なら!』そう思ってもいいだろうよ。だがな、強い光は目も潰す。自分を見失いやすくなるぞ」
それに──俺はそう言いながら、部屋の端でただ話を聞くに徹していた《雷光》に親指を向けた。
「あそこに適任がいるだろ。光り輝くエース様が」
「彼女は──」
ウィルがそう言いよどみ、一瞬だけ《雷光》が顔を上げる。
期待と不安が入り交じった顔の彼女は、続くウィルの言葉を正面から受け止めた。
「ダメだ。シオンじゃダメなんだ」
明確で確定的な拒否の、拒絶の言葉。
その言葉が静かな一室に尾を引いて残った。
0
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記
スィグトーネ
ファンタジー
ワンルームの安アパートに住み、非正規で給料は少なく、彼女いない歴35年=実年齢。
そんな負け組を絵にかいたような青年【海渡麒喜(かいときき)】は、仕事を終えてぐっすりと眠っていた。
まどろみの中を意識が彷徨うなか、女性の声が聞こえてくる。
全身からは、滝のような汗が流れていたが、彼はまだ自分の身に起こっている危機を知らない。
間もなく彼は金縛りに遭うと……その後の人生を大きく変えようとしていた。
※この物語の挿絵は【AIイラスト】さんで作成したモノを使っています
※この物語は、暴力的・性的な表現が含まれています。特に外出先等でご覧になる場合は、ご注意頂きますようお願い致します。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる