大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,890 / 2,027
本編

転移と帰還

しおりを挟む
「え、ちょ。これ大丈夫──じゃねぇよな!?」
「自動転移起動まで時間が無いようです。もって五分──いえ。五分もないですね」
「マジか!」
とりあえず拾い上げ、細かく振動するそれを首に引っ下げて修練所へ。
「おいベル!あと──なんだっけ。ベルの親父さん!悪いが急に向こうへ戻らにゃならんくなった!」
「えらい急やな!ってなんやそれ!?なんかのアンカーか!?」
ベルが俺の方を見ると、目を見開いて驚く。
「フィッシング・ワープの目印らしい!もう時間がない!」
「は!?あんな化石みたいな魔法使えるやつおるんか!?」
「おいクランベルナ!まだ話は終わってないぞ!」
「後にせいハゲ!うっわ、やたら回りくどいなこれ。これやからクソ古い術式は嫌なんやわ」
「え、何して──」 
「残り三分ぐらいか。なんか指定の場所行かんなんらしいけど大丈夫なんか?」
「指定の……?」
「恐らく転移時の部屋の事かと」
「喋っ……!?」
「お前はスっこんどれクソ親父。魔法ロクにわからんやろ。えーっと、式にちょっと余裕作ってあるな。教本通り、ガチガチのコピーじゃなくて助かったわ。逆言ったら余程の変態やけどな」
「なんでもいいけど、俺は今から行かなきゃならん。アンタら二人を送る時間はないから──」
「やし、ここをこう、やな」
ピタッ、と。札が止まる。
「……何をした?」
「術式にちょっとだけ余裕あったから、そこんトコ書き足して簡単なロックかけたわ。五分ぐらいは延長されたんやないかな」
他人の魔法に介入して術式を弄るなんてのは、余程の事がないとまず無理と聞いていたのだが。
「何言いたいかはその顔見れば分かる。まぁ、向こうの術者に聞いてくれた方が早いと思うわ。それより、ほれ」
と言ってベルが手を出す。
「……?」
「何呆けた顔してんのや。ウチらここから出さんと不味いやろ」
「あ、そうか」
と言う訳で髪で目隠しをし、マキナを纏い、二人を担いで大急ぎで大聖堂の地下から大教会の外まで運ぶ。
「悪いが先に行く!諸々サンキューベル!」
「英雄様にはウチから言っとくわ!じゃあな!」
それだけ言って、再度大急ぎで大聖堂の地下へ。
「えー、あー、えっと、シュライネ──さん!いる!?」
「はい?お呼びでしょうか?」
「のぅわっ!?」
走りながら呼びかけると、音も気配も無く、すぐ近くの扉から真っ白なシスターが現れた。
「大急ぎで戻ることになったんだけど、俺が来た部屋って──」
「わかりました。こちらでございます」
シュライネが足早に進み、その後を俺が追う。先程ロックをかけられたはずの札は、再度振動を始めている。
「お部屋の状態は来た時と全く同じ状態に保存してあります。何分相当高度な魔法とお聞きしていたので」
「助かった。この部屋か」
シュライネが開けた部屋に入ると、確かに先日来た時と全く変わりのない、複雑怪奇な紋様と呪文が渦巻く、目眩のするような部屋。
「一週間世話してくれてありがとうな、シュライネさん」
「いえ、私も久々のお客人で嬉しかったです」
その言葉に若干の疑問を覚えて振り返ると、そこにシュライネの姿は無い。
代わりにいるのは、蒼い髪の少女。
「よお、一週間ぶり」
手を挙げてそう挨拶すると、アンジェはかなり険しい顔をして、「ねぇ」と声を掛けた。
「誰か私の術式に介入した奴いるでしょ。誰?」
ふむ、少しばかり機嫌が悪いらしい。
「あー、手先も魔法も器用な槌人種ドワーフが知り合いにいてな」
俺はそう彼女に説明し始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

処理中です...