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本編
虚像と双剣
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まぁ、あっさり負けたんだけどな。
「クッソ、やっぱ勝てねぇ」
額に打ち込まれた木剣の痛みをさすって和らげつつ、今の試合を思い出す。
戦闘時間は……どうだろう。正確な時間は分からないが、体感的に一、二分か。
最終的に、何をどうされたかよく分からないが、恐らくスキルだろう。木剣で左肘を小突かれ、その瞬間に左手の自由が効かなくなった。その隙を突かれて頭に強烈な一撃を入れられて負けた。
一晩掛けてヴァルクスの動きをトレースし、彼ならきっとこうすると読んだ動きは結局、最初の一割程度しか当たっていなかった。
ふむ、やはりまだまだヴァルクスという英雄のことを知れていない。もっと彼から手札を引き出させなければ。
そしてそれを俺が取り込む。勝手に学べと言われたのだから、まずは真似る所から学んでいこう。
「……レィア君、その感覚を忘れるでないぞ」
「あぁ」
と、言いはしたものの。
ヴァルクスが一目見て見抜いたように、この状態は所謂ドーピング状態。
恐らく、ヴァルクスはこれから戦闘に入るという心構えだけでこの集中状態に入れるのだろう。自分の意思で昂りをコントロールし、常に万全のトップギアに入れられる。
だが、俺にそこまでの技量はない。
いや、正確にはおそらく出来る。しかし、やったことがないので、どうやったら出来るのかが分からないのだ。
そのため、今回は自分の想像という力技で無理矢理集中状態に持ち込み、それを保ったまま浅い睡眠を続け、朝食をとり、戻ってきて即座にヴァルクスと戦った。
だが、この手法には二つばかり欠点がある。
ひとつは単純に時間がかかり過ぎるという点。実際の戦闘では、決して使い物にはならないだろう。
そしてもうひとつは、どれだけやっても、所詮は空想でしかないということ。
どれだけ念入りに作り上げた虚像だったとしても、それはやはり虚ろで中身の無い、駒のような偶像でしかない。生身の相手と戦ってそれがよく分かった。
「ひとつ聞いていいか、レィア君」
「ん?なんだ師匠」
金剣を一度片付け、強ばった筋肉を伸ばすように手のひらを揉みながらヴァルクスの方を向く。
「何故奥の手の二刀流を使わんのじゃ?あれを使えばもっと戦い方に幅が出るのではないか?」
「んあー……」
ヴァルクスの言う通りだ。
確かに金剣ではなく銀剣……もっと言えば黒剣を抜けば、俺ももっと動けるかもしれない。正直言うと、金剣のような大剣は使えるだけで、本来は片手剣を二本……は、筋力的に厳しいか……まぁ、要するに二刀流が俺本来の動きと言って過言ではない。
だが。
マキナの無い今、抜剣も出来ない以上あの超重量の銀剣しか無く、加えてそれの運用にも元々マキナを使っていた身。別々に動かす剣を、上手く俺の身体と髪だけでエネルギーをループさせる必要がある。
それをヴァルクスのような一級の達人相手にやりながら戦う?正直冗談ではないの一言に尽きる。
一言で言うのなら、やはりまだ俺が未熟なのだ。
「ま、色々とな。互いに全力を出して戦うことが出来たらいいよな」
そう言って、適当に誤魔化した。
「クッソ、やっぱ勝てねぇ」
額に打ち込まれた木剣の痛みをさすって和らげつつ、今の試合を思い出す。
戦闘時間は……どうだろう。正確な時間は分からないが、体感的に一、二分か。
最終的に、何をどうされたかよく分からないが、恐らくスキルだろう。木剣で左肘を小突かれ、その瞬間に左手の自由が効かなくなった。その隙を突かれて頭に強烈な一撃を入れられて負けた。
一晩掛けてヴァルクスの動きをトレースし、彼ならきっとこうすると読んだ動きは結局、最初の一割程度しか当たっていなかった。
ふむ、やはりまだまだヴァルクスという英雄のことを知れていない。もっと彼から手札を引き出させなければ。
そしてそれを俺が取り込む。勝手に学べと言われたのだから、まずは真似る所から学んでいこう。
「……レィア君、その感覚を忘れるでないぞ」
「あぁ」
と、言いはしたものの。
ヴァルクスが一目見て見抜いたように、この状態は所謂ドーピング状態。
恐らく、ヴァルクスはこれから戦闘に入るという心構えだけでこの集中状態に入れるのだろう。自分の意思で昂りをコントロールし、常に万全のトップギアに入れられる。
だが、俺にそこまでの技量はない。
いや、正確にはおそらく出来る。しかし、やったことがないので、どうやったら出来るのかが分からないのだ。
そのため、今回は自分の想像という力技で無理矢理集中状態に持ち込み、それを保ったまま浅い睡眠を続け、朝食をとり、戻ってきて即座にヴァルクスと戦った。
だが、この手法には二つばかり欠点がある。
ひとつは単純に時間がかかり過ぎるという点。実際の戦闘では、決して使い物にはならないだろう。
そしてもうひとつは、どれだけやっても、所詮は空想でしかないということ。
どれだけ念入りに作り上げた虚像だったとしても、それはやはり虚ろで中身の無い、駒のような偶像でしかない。生身の相手と戦ってそれがよく分かった。
「ひとつ聞いていいか、レィア君」
「ん?なんだ師匠」
金剣を一度片付け、強ばった筋肉を伸ばすように手のひらを揉みながらヴァルクスの方を向く。
「何故奥の手の二刀流を使わんのじゃ?あれを使えばもっと戦い方に幅が出るのではないか?」
「んあー……」
ヴァルクスの言う通りだ。
確かに金剣ではなく銀剣……もっと言えば黒剣を抜けば、俺ももっと動けるかもしれない。正直言うと、金剣のような大剣は使えるだけで、本来は片手剣を二本……は、筋力的に厳しいか……まぁ、要するに二刀流が俺本来の動きと言って過言ではない。
だが。
マキナの無い今、抜剣も出来ない以上あの超重量の銀剣しか無く、加えてそれの運用にも元々マキナを使っていた身。別々に動かす剣を、上手く俺の身体と髪だけでエネルギーをループさせる必要がある。
それをヴァルクスのような一級の達人相手にやりながら戦う?正直冗談ではないの一言に尽きる。
一言で言うのなら、やはりまだ俺が未熟なのだ。
「ま、色々とな。互いに全力を出して戦うことが出来たらいいよな」
そう言って、適当に誤魔化した。
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