630 / 2,029
本編
二つ名と英雄
しおりを挟む
《逆鱗》に投げられ、さらに《不動荒野》にも投げられた後、俺は尻餅をついたような形で座り込んでいた。
「《緋眼騎士》さん…ですよね?胸の校章が破損したので失格です。すぐに下がってください」
「あ?…あぁ」
「立てますか?」
「…悪い、手を貸してくれ」
手を持ち上げ、俺へ声をかけてきた人へと緩く伸ばすと、その人はその手をしっかり握り、予想外に力強く俺を引き上げた。
「っ、とと。身体に異常はありませんか?また、動悸や頭痛は?」
「どれも大丈夫だ。強いて言うなら……あぁ、疲れただけだ。それだけ、だ」
聞かれたことにそう答え、視線を未だ戦っている先輩達の方へと向ける。
「………。」
三人&三人VS一人。
圧倒的に有利であるはずの二つ名持ち達は、たった一人の英雄に圧倒されていた。
いい加減疲れていたが、緋眼を使って死力を強化。
この距離からでも、その場にいるかのようにして、鮮明に英雄が見えた。
英雄の得物は……そこいらの店で買えるような、果物ナイフ。
対する《逆鱗》、《勇者》、《雷光》はそれぞれ《逆鱗》が頑丈そうな両手持ちの剣一本、《勇者》は右に長剣、左に盾、《雷光》は…前と同じような刀なのだが、前とは違う。
本人の周りに、同じような刀が三本…四本ほど浮遊している。それが独立して英雄を襲っている。
さらに、《不動荒野》達も援護として魔法、《臨界点》も幾らか魔法を放っているらしい。
つまり、英雄は現在、実質六人もの手練と戦っているのに等しい。
武器は玩具と変わらないような代物、相手は超一級品の武器に身を包み、さらに敵の後方からは魔法による援護。
圧倒的戦力差。普通なら、絶望の二文字しか浮かばない。
なのに──。
「それをひっくり返す…か」
ヒトの身で至ることが出来る限界にまで上り詰めた、極限の技術。
筋肉一筋ひとすじすら完璧に把握し、何をどれだけ動かせばどうなるのか、ミリ以下の単位で理解していて初めてその入口に立つことの出来る領域。
それが英雄…。
「…《緋眼騎士》さん?どうしましたか?もしかして疲労で動けないとか…目が!どうしましたか!?」
「あぁ、気にしないでくれ。問題ない」
さらにあの老人、魔法まで使っているようだ。
後衛の《不動荒野》のどちらかが後ろへ大きく吹き飛んだ。
そしてそのまま場外へ──たしか、それでも失格だったな。
何がどうなっているのか、もはや俺の知覚範囲外に突入しかけた所で、《雷光》が吹き飛ばされ、《臨界点》を巻き込んで場外へ。
直後、仮面か校章が割れたのか、残る《不動荒野》もそっと広場を出ていく。
残るは──《逆鱗》と《勇者》か。
しかし、それも長くは持たない。
英雄から溢れ出る余裕が、俺にそう確信させた。
「《緋眼騎士》さん…ですよね?胸の校章が破損したので失格です。すぐに下がってください」
「あ?…あぁ」
「立てますか?」
「…悪い、手を貸してくれ」
手を持ち上げ、俺へ声をかけてきた人へと緩く伸ばすと、その人はその手をしっかり握り、予想外に力強く俺を引き上げた。
「っ、とと。身体に異常はありませんか?また、動悸や頭痛は?」
「どれも大丈夫だ。強いて言うなら……あぁ、疲れただけだ。それだけ、だ」
聞かれたことにそう答え、視線を未だ戦っている先輩達の方へと向ける。
「………。」
三人&三人VS一人。
圧倒的に有利であるはずの二つ名持ち達は、たった一人の英雄に圧倒されていた。
いい加減疲れていたが、緋眼を使って死力を強化。
この距離からでも、その場にいるかのようにして、鮮明に英雄が見えた。
英雄の得物は……そこいらの店で買えるような、果物ナイフ。
対する《逆鱗》、《勇者》、《雷光》はそれぞれ《逆鱗》が頑丈そうな両手持ちの剣一本、《勇者》は右に長剣、左に盾、《雷光》は…前と同じような刀なのだが、前とは違う。
本人の周りに、同じような刀が三本…四本ほど浮遊している。それが独立して英雄を襲っている。
さらに、《不動荒野》達も援護として魔法、《臨界点》も幾らか魔法を放っているらしい。
つまり、英雄は現在、実質六人もの手練と戦っているのに等しい。
武器は玩具と変わらないような代物、相手は超一級品の武器に身を包み、さらに敵の後方からは魔法による援護。
圧倒的戦力差。普通なら、絶望の二文字しか浮かばない。
なのに──。
「それをひっくり返す…か」
ヒトの身で至ることが出来る限界にまで上り詰めた、極限の技術。
筋肉一筋ひとすじすら完璧に把握し、何をどれだけ動かせばどうなるのか、ミリ以下の単位で理解していて初めてその入口に立つことの出来る領域。
それが英雄…。
「…《緋眼騎士》さん?どうしましたか?もしかして疲労で動けないとか…目が!どうしましたか!?」
「あぁ、気にしないでくれ。問題ない」
さらにあの老人、魔法まで使っているようだ。
後衛の《不動荒野》のどちらかが後ろへ大きく吹き飛んだ。
そしてそのまま場外へ──たしか、それでも失格だったな。
何がどうなっているのか、もはや俺の知覚範囲外に突入しかけた所で、《雷光》が吹き飛ばされ、《臨界点》を巻き込んで場外へ。
直後、仮面か校章が割れたのか、残る《不動荒野》もそっと広場を出ていく。
残るは──《逆鱗》と《勇者》か。
しかし、それも長くは持たない。
英雄から溢れ出る余裕が、俺にそう確信させた。
0
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説
魔力ゼロの魔法使い、杖で殴って無双する。
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
柊(ひいらぎ)奏多(かなた)、高校三年生。
卒業式の帰り道、車に轢かれて命を落とした彼が目を覚ますと、そこは夢にまで見た異世界だった!
職業は『魔法使い』──しかし、その喜びも一瞬で砕け散る。
「……魔力ゼロ?俺、魔法が撃てないのか!?」
魔法使いなのに魔法が使えない。武器を手にすることすら許されず、頼れるのは手元にある一本の杖だけ。だが、柊は諦めなかった。
「こうなったら、この杖一本で何とかするしかないだろ!」
戦闘のたびに折れる杖。買い替えるたびに減っていく財布。だが、柊は折れない。
いや、折れたこともある。だが、それでも立ち上がる!
スキルを手に入れるたびに突きつけられる現実──
「物理特化?俺、魔法使いだよな……?」
魔法が撃てない魔法使いが、肉体を駆使して異世界を駆け上がる!
笑いあり、熱血あり、たまに切なさもある異世界冒険ファンタジー!
「──杖が折れた?構わん!この拳で十分だ!」
魔法使いのはずが物理で無双する波乱の物語、いざ開幕!
母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。
なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。
理想とは違うけど魔法の収納庫は稼げるから良しとします
水野忍舞
ファンタジー
英雄になるのを誓い合った幼馴染たちがそれぞれ戦闘向きのスキルを身に付けるなか、俺は魔法の収納庫を手に入れた。
わりと便利なスキルで喜んでいたのだが幼馴染たちは不満だったらしく色々言ってきたのでその場から立ち去った。
お金を稼ぐならとても便利なスキルじゃないかと今は思っています。
*****
ざまぁ要素はないです
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺わかば
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌
紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。
それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。
今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。
コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。
日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……?
◆◆◆
「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」
「紙でしょ? ペーパーって言うし」
「そうだね。正解!」
◆◆◆
神としての力は健在。
ちょっと天然でお人好し。
自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中!
◆気まぐれ投稿になります。
お暇潰しにどうぞ♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる