大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

起床と朝

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二時間程、冷たい床の修練所で寝ていると、誰かが入ってきた音がして身体を起こした。
「……寝袋は要らんかったか」
「いつもこうやって寝るわけじゃねぇし、次からは使わせてもらうさ。今回はちょっと身体を動かしたかっただけだ」
そう言って立ち上がる。
「修行か?」
「の、前に腹ごしらえじゃな。出掛けるぞ」
ん、外で食うのか。
「おっけー。んじゃ、ちょっと汗と埃を流してくる」
と言って、修練所についていたシャワーを借りる。石鹸とかは無く、本当にシャワーだけだったが、それでも充分ありがたい。
風邪をひかないよう、一応寝る前に汗は拭ったが、それでもややべたつく肌を温かいお湯で流して気持ちをリセットする。
まぁ、服が今の分しかないので、それもどうにかしないとあまり意味は無いのだが。
そう思ってシャワーから出ると、俺の服と似ているものの、僅かに違う手触りのシャツが置いてあった。
「ん──」
手に取ると、ひらりと何かが落ちる。置き手紙か。とりあえず開く。
『──レィア・シィル様。お召し物が非常に汚れていたので、洗濯させていただきます。それまで代わりにこちらをお使いください。シュライネ・ヴィーム』
シュライネって誰だっけ、と一瞬考えそうになったが、すぐに思い出した。ここに来て最初に迎えに来てくれたシスターだ。いつの間に来たのだろうか。
とりあえず身につけるが、サイズもピッタリで違和感もまるでない。ついでに言うと、多少運動しても破れるような気はしない。とは言え、流石に斬られたり焼かれたりすればアウトだろう。肌触り的に、結構いい素材を使われているような気がするので、間違ってもボロボロにして返さないよう気をつけなくては。
とりあえず、姿の見えないシュライネに手を合わせて感謝しておく。
ふむ、ちょっとズボンが細い気がしないでもないが、まぁ問題ないか。
「悪い、待たせた」
「そのまま来られても困るしのう。嫌いな物や食えん物はあるか?」
「味がついてさえいれば、余程不味く無けりゃ大丈夫だ」
「ふむ、分かった」
と言って、ヴァルクスが連れてきたのは王都のほぼ外縁部に位置するボロい店。
「見てくれは悪いが、いい店じゃぞ」
何も言ってないが、顔にそう書いてあったのかもしれない。ヴァルクスが軋む戸を押して中に入り、俺もそれの後を追って店内に入ると、店内は非常に静かだった。
それもそのはず。ヴァルクスの他には店主らしき老人が一人いるだけ。他に客は居ないようだった。
この店本当に大丈夫なのか?と、少しばかり失礼なことを考えていると、店主がこちらをジロリと見た。
真っ白になった頭髪と、短く切りそろえた顎髭。透き通った青の瞳は、じっと見つめると吸い込まれそうな錯覚に陥る。
「誰だ?そのガキ」
「弟子じゃ。一週間限りのな」
ヴァルクスがそう言うと、店主は一度鼻を鳴らして奥に入っていく。
「少し気難しいが、良い奴じゃよ」
「……そうか」
どうリアクションしろと言うのだ。
「さて、ここに連れてきた理由はただの腹ごしらえだけではなくてな。時間的にそろそろのはずなんじゃが……」
ヴァルクスがそう言うと、にわかに表が騒がしくなる。
「噂をすれば影、と言うやつじゃな」
その発言の直後、ボロい戸が勢いよく開かれ、ベルが入ってきた。
昨日とはまるで違う、ボロボロの姿で。
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