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本編
部屋と魔法陣
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アンジェに手を引かれるまま、とりあえず色々と考えてみた。
最初に考える事は、今向かっているであろう牢獄(仮)について。つまりは今回の俺の処遇。
何故謹慎という軽い処罰なのか。
《豹》が今さっき色々と並べたのは確かに聞いていたし、理解もした。だが、自身のことながら納得ができない。
それこそ、学校長が最初に言っていた二つ名剥奪ぐらいは当たり前だと思っていたのだが、それすらもない。何故?
仮に俺が《シェパード》の一員だったなら理解は出来る。学校長が使える自身の駒を自分から削る訳が無い。とは言え仮にそうだったとしても、謹慎では軽すぎるのではないか。
俺のやった事は命令無視と言っても差し支えないレベルのこと。しかも、その上で任務を失敗している。表の方も裏の方もだ。
いつもの謹慎なら適当に部屋に篭ってろ、で終わっていたのだから、そういう意味では厳しい。だが、何度でも言おう。その程度では温いのだ。
加えて更に訳が分からない点が今の状況だ。
いや、なんで謹慎なのかの方ではなく、何故アンジェが俺を連れていくのかだ。
普通に考えたらアンジェではなく、他の誰か、聖学の先生とか、それこそ学校長が連れていくんじゃないのか。何故聖学の生徒でもない彼女が俺の手を引いて、目的地に向かっているのか。
「先生こんちわー」
「はいこんにちわ」
と、すれ違う生徒達はアンジェにそんな挨拶をしながらすれ違っていく。俺の目には映らないが、見た目をわざわざ変えているようだ。
「えーっと、ここだったかな」
と言ってアンジェが足を止めたのは、寮の中のとある部屋。しかし、他の部屋とは少々離れた位置にある、少しばかり寂しい部屋。
「ここって……シエルの」
思わず小さくそう言った。
その部屋は、あの襲撃が起きる前まで、シエルが使っていた部屋。
アンジェが鍵を開け、俺の手を引きながら部屋に入ると、中の様子は以前見た時とまるで違っていた。
「なんだこれ」
部屋の中にあった、ベッドのような家具は全て綺麗に無くなっており、ただただ白く広い床と壁があるだけ。
そしてその白い床とは全く逆の、真っ黒なインクを彷彿させるような、単純で純粋なただの黒。それで、床一面を──否、部屋全てをびっちりと覆うほど、何かが書き込まれていた。
いや、違った。
よくよく見れば、白い床に黒い紋様が書き込まれ、その黒い紋様をキャンバス代わりに白い紋様が刻まれている。緋眼で見るまでもなく魔力がこの空間に充満していた。
「いやはや、思い返しても大変だった。ほぼ寝ずに五日。聖学の学校長先生の手も借りて、ようやく組み終わったこの超超高度な魔法陣。どう?」
「どう?ってお前……ちょっと待て、状況がまだ飲み込めてないんだが……?」
と言うと、アンジェは一度小首を傾げ、あぁ、と言わんばかりに手を打った。
「説明してなかったわ」
そう言って咳払いをした後、彼女は懐から白い封筒を出す。
「はいこれ。お爺様から」
「ヴァルクスの爺さんから?」
アンジェが「《緋眼騎士》に用がある」とか言ってたな。
ひとまず受けとった封筒を開き、中から出てきた手紙を開く。
が。
「なんだこれ」
「はは、やっぱりそうなるよね」
広げた手紙には、ミミズがのたうち回った痕のような何かがびっちり書いてあった。
「何かの呪いか?」
「いや、その、お爺様はとっても字が……」
なんじゃそりゃ。これ、下手とか汚いとか言うレベルじゃないぞ。
「………流石にこれは読めねぇな」
と言うと、彼女が「じゃあ代読するね」と俺から手紙を受け取る。最初からそうしろと言うと、一応は元の手紙を見せないとね、と言われた。つかよく読めるなアレ。
「じゃ、全部そのまま読む──と、長いから要点を掻い摘んで言うね」
「頼む」
「えーっと……ね、ちょっと何だか言い方ぼかされてるからそのまま言うと、まず、《緋眼騎士》の頼みは聞き入れられたって。でも、お爺様は聖女様の護衛で王都を離れられないから、《緋眼騎士》が王都に来るしかないって」
そう言われて、思わず顔を顰めた。謹慎が終わってすぐに出たとしても、王都に着くのは恐らく十日後。流石にそれは不味い……よな。
「で、次。さらに、聖学をずっと離れるのも不味いだろう、と言うのと、お爺様のスケジュールの面からも、例の件はどう頑張っても一週間程度しか出来ないだろう、って」
「は?一週間…?まて、それっていつから一週間だ?」
「………この手紙には書いてないね。お爺様、そういうところ結構抜けてるから」
もし俺が目覚めてから一週間ならもう無理だ。いや、仮にこの手紙を聞いた瞬間からだとしても、今から一週間の謹慎。それが終わってから移動で数日。十日近くはかかる。もう無理だ。
「で、こっちが私宛のお爺様の手紙なんだけど」
と、開かれるが、そこに書いてある文字は案の定読めない。
「凄く簡単に言うとね、君を魔法で転送しろ、って書いてあるんだ」
「……は?」
転送?
最初に考える事は、今向かっているであろう牢獄(仮)について。つまりは今回の俺の処遇。
何故謹慎という軽い処罰なのか。
《豹》が今さっき色々と並べたのは確かに聞いていたし、理解もした。だが、自身のことながら納得ができない。
それこそ、学校長が最初に言っていた二つ名剥奪ぐらいは当たり前だと思っていたのだが、それすらもない。何故?
仮に俺が《シェパード》の一員だったなら理解は出来る。学校長が使える自身の駒を自分から削る訳が無い。とは言え仮にそうだったとしても、謹慎では軽すぎるのではないか。
俺のやった事は命令無視と言っても差し支えないレベルのこと。しかも、その上で任務を失敗している。表の方も裏の方もだ。
いつもの謹慎なら適当に部屋に篭ってろ、で終わっていたのだから、そういう意味では厳しい。だが、何度でも言おう。その程度では温いのだ。
加えて更に訳が分からない点が今の状況だ。
いや、なんで謹慎なのかの方ではなく、何故アンジェが俺を連れていくのかだ。
普通に考えたらアンジェではなく、他の誰か、聖学の先生とか、それこそ学校長が連れていくんじゃないのか。何故聖学の生徒でもない彼女が俺の手を引いて、目的地に向かっているのか。
「先生こんちわー」
「はいこんにちわ」
と、すれ違う生徒達はアンジェにそんな挨拶をしながらすれ違っていく。俺の目には映らないが、見た目をわざわざ変えているようだ。
「えーっと、ここだったかな」
と言ってアンジェが足を止めたのは、寮の中のとある部屋。しかし、他の部屋とは少々離れた位置にある、少しばかり寂しい部屋。
「ここって……シエルの」
思わず小さくそう言った。
その部屋は、あの襲撃が起きる前まで、シエルが使っていた部屋。
アンジェが鍵を開け、俺の手を引きながら部屋に入ると、中の様子は以前見た時とまるで違っていた。
「なんだこれ」
部屋の中にあった、ベッドのような家具は全て綺麗に無くなっており、ただただ白く広い床と壁があるだけ。
そしてその白い床とは全く逆の、真っ黒なインクを彷彿させるような、単純で純粋なただの黒。それで、床一面を──否、部屋全てをびっちりと覆うほど、何かが書き込まれていた。
いや、違った。
よくよく見れば、白い床に黒い紋様が書き込まれ、その黒い紋様をキャンバス代わりに白い紋様が刻まれている。緋眼で見るまでもなく魔力がこの空間に充満していた。
「いやはや、思い返しても大変だった。ほぼ寝ずに五日。聖学の学校長先生の手も借りて、ようやく組み終わったこの超超高度な魔法陣。どう?」
「どう?ってお前……ちょっと待て、状況がまだ飲み込めてないんだが……?」
と言うと、アンジェは一度小首を傾げ、あぁ、と言わんばかりに手を打った。
「説明してなかったわ」
そう言って咳払いをした後、彼女は懐から白い封筒を出す。
「はいこれ。お爺様から」
「ヴァルクスの爺さんから?」
アンジェが「《緋眼騎士》に用がある」とか言ってたな。
ひとまず受けとった封筒を開き、中から出てきた手紙を開く。
が。
「なんだこれ」
「はは、やっぱりそうなるよね」
広げた手紙には、ミミズがのたうち回った痕のような何かがびっちり書いてあった。
「何かの呪いか?」
「いや、その、お爺様はとっても字が……」
なんじゃそりゃ。これ、下手とか汚いとか言うレベルじゃないぞ。
「………流石にこれは読めねぇな」
と言うと、彼女が「じゃあ代読するね」と俺から手紙を受け取る。最初からそうしろと言うと、一応は元の手紙を見せないとね、と言われた。つかよく読めるなアレ。
「じゃ、全部そのまま読む──と、長いから要点を掻い摘んで言うね」
「頼む」
「えーっと……ね、ちょっと何だか言い方ぼかされてるからそのまま言うと、まず、《緋眼騎士》の頼みは聞き入れられたって。でも、お爺様は聖女様の護衛で王都を離れられないから、《緋眼騎士》が王都に来るしかないって」
そう言われて、思わず顔を顰めた。謹慎が終わってすぐに出たとしても、王都に着くのは恐らく十日後。流石にそれは不味い……よな。
「で、次。さらに、聖学をずっと離れるのも不味いだろう、と言うのと、お爺様のスケジュールの面からも、例の件はどう頑張っても一週間程度しか出来ないだろう、って」
「は?一週間…?まて、それっていつから一週間だ?」
「………この手紙には書いてないね。お爺様、そういうところ結構抜けてるから」
もし俺が目覚めてから一週間ならもう無理だ。いや、仮にこの手紙を聞いた瞬間からだとしても、今から一週間の謹慎。それが終わってから移動で数日。十日近くはかかる。もう無理だ。
「で、こっちが私宛のお爺様の手紙なんだけど」
と、開かれるが、そこに書いてある文字は案の定読めない。
「凄く簡単に言うとね、君を魔法で転送しろ、って書いてあるんだ」
「……は?」
転送?
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