大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,838 / 2,027
本編

部屋と魔法陣

しおりを挟む
アンジェに手を引かれるまま、とりあえず色々と考えてみた。
最初に考える事は、今向かっているであろう牢獄(仮)について。つまりは今回の俺の処遇。
何故謹慎という軽い処罰なのか。
《豹》が今さっき色々と並べたのは確かに聞いていたし、理解もした。だが、自身のことながら納得ができない。
それこそ、学校長が最初に言っていた二つ名剥奪ぐらいは当たり前だと思っていたのだが、それすらもない。何故?
仮に俺が《シェパード》の一員だったなら理解は出来る。学校長が使える自身の駒を自分から削る訳が無い。とは言え仮にそうだったとしても、謹慎では軽すぎるのではないか。
俺のやった事は命令無視と言っても差し支えないレベルのこと。しかも、その上で任務を失敗している。表の方も裏の方もだ。
いつもの謹慎なら適当に部屋に篭ってろ、で終わっていたのだから、そういう意味では厳しい。だが、何度でも言おう。その程度では温いのだ。
加えて更に訳が分からない点が今の状況だ。
いや、なんで謹慎なのかの方ではなく、何故アンジェが俺を連れていくのかだ。
普通に考えたらアンジェではなく、他の誰か、聖学の先生とか、それこそ学校長が連れていくんじゃないのか。何故聖学の生徒でもない彼女が俺の手を引いて、目的地に向かっているのか。
「先生こんちわー」
「はいこんにちわ」
と、すれ違う生徒達はアンジェにそんな挨拶をしながらすれ違っていく。俺の目には映らないが、見た目をわざわざ変えているようだ。
「えーっと、ここだったかな」
と言ってアンジェが足を止めたのは、寮の中のとある部屋。しかし、他の部屋とは少々離れた位置にある、少しばかり寂しい部屋。
「ここって……シエルの」
思わず小さくそう言った。
その部屋は、あの襲撃が起きる前まで、シエルが使っていた部屋。
アンジェが鍵を開け、俺の手を引きながら部屋に入ると、中の様子は以前見た時とまるで違っていた。
「なんだこれ」
部屋の中にあった、ベッドのような家具は全て綺麗に無くなっており、ただただ白く広い床と壁があるだけ。
そしてその白い床とは全く逆の、真っ黒なインクを彷彿させるような、単純で純粋なただの黒。それで、床一面を──否、部屋全てをびっちりと覆うほど、何かが書き込まれていた。
いや、違った。
よくよく見れば、白い床に黒い紋様が書き込まれ、その黒い紋様をキャンバス代わりに白い紋様が刻まれている。緋眼で見るまでもなく魔力がこの空間に充満していた。
「いやはや、思い返しても大変だった。ほぼ寝ずに五日。聖学の学校長先生の手も借りて、ようやく組み終わったこの超超高度な魔法陣。どう?」
「どう?ってお前……ちょっと待て、状況がまだ飲み込めてないんだが……?」
と言うと、アンジェは一度小首を傾げ、あぁ、と言わんばかりに手を打った。
「説明してなかったわ」
そう言って咳払いをした後、彼女は懐から白い封筒を出す。
「はいこれ。お爺様から」
「ヴァルクスの爺さんから?」
アンジェが「《緋眼騎士》に用がある」とか言ってたな。
ひとまず受けとった封筒を開き、中から出てきた手紙を開く。
が。
「なんだこれ」
「はは、やっぱりそうなるよね」
広げた手紙には、ミミズがのたうち回った痕のような何かがびっちり書いてあった。
「何かの呪いか?」
「いや、その、お爺様はとっても字が……」
なんじゃそりゃ。これ、下手とか汚いとか言うレベルじゃないぞ。
「………流石にこれは読めねぇな」
と言うと、彼女が「じゃあ代読するね」と俺から手紙を受け取る。最初からそうしろと言うと、一応は元の手紙を見せないとね、と言われた。つかよく読めるなアレ。
「じゃ、全部そのまま読む──と、長いから要点を掻い摘んで言うね」
「頼む」
「えーっと……ね、ちょっと何だか言い方ぼかされてるからそのまま言うと、まず、《緋眼騎士》の頼みは聞き入れられたって。でも、お爺様は聖女様の護衛で王都を離れられないから、《緋眼騎士》が王都に来るしかないって」
そう言われて、思わず顔を顰めた。謹慎が終わってすぐに出たとしても、王都に着くのは恐らく十日後。流石にそれは不味い……よな。
「で、次。さらに、聖学をずっと離れるのも不味いだろう、と言うのと、お爺様のスケジュールの面からも、例の件はどう頑張っても一週間程度しか出来ないだろう、って」
「は?一週間…?まて、それっていつから一週間だ?」
「………この手紙には書いてないね。お爺様、そういうところ結構抜けてるから」
もし俺が目覚めてから一週間ならもう無理だ。いや、仮にこの手紙を聞いた瞬間からだとしても、今から一週間の謹慎。それが終わってから移動で数日。十日近くはかかる。もう無理だ。
「で、こっちが私宛のお爺様の手紙なんだけど」
と、開かれるが、そこに書いてある文字は案の定読めない。
「凄く簡単に言うとね、君を魔法で転送しろ、って書いてあるんだ」
「……は?」
転送?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記

スィグトーネ
ファンタジー
 ワンルームの安アパートに住み、非正規で給料は少なく、彼女いない歴35年=実年齢。  そんな負け組を絵にかいたような青年【海渡麒喜(かいときき)】は、仕事を終えてぐっすりと眠っていた。  まどろみの中を意識が彷徨うなか、女性の声が聞こえてくる。  全身からは、滝のような汗が流れていたが、彼はまだ自分の身に起こっている危機を知らない。  間もなく彼は金縛りに遭うと……その後の人生を大きく変えようとしていた。 ※この物語の挿絵は【AIイラスト】さんで作成したモノを使っています ※この物語は、暴力的・性的な表現が含まれています。特に外出先等でご覧になる場合は、ご注意頂きますようお願い致します。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

超文明日本

点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。 そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。 異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

処理中です...