大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

階段と思考

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階段を登っていると、塔が大きく揺れた。
同時に爆発音。そして何かが舞うようなパラパラカラカラと言う音。
『……近いな』
シャルが小さく呟く。
薄々は察していたが、やはりか。
誰かが戦っている。恐らくは《腐死者》のジェルジネン、それと誰か。
いや、誰かとは言うものの、有り得そうな存在はひとつしかないだろう。
西学。最初に分かれて以降、メッセージこそやり取りはしたものの、顔は一度も合わせていない彼ら。
魔族の都市、その真ん中で魔族をまとめあげる程の力量を持つ三大魔候に楯突く存在がいるとすれば、そうとしか考えられない。《産獣師》にトドメを刺したのもきっと彼らだ。
だからこそ分からない。
どうやってこの塔に入って、俺達より先を行っているのか。
塔の構造からして、階を登るには、階段登って部屋を横断し、逆側の階段を登る必要がある。
つまり、毎回必ず部屋を横断する必要がある。
そして、途中の部屋で待ち構えていたのは強大無比な魔族。
仮に俺達より先に塔に入っていたのなら、途中で待ち構えていたゼクターや《産獣師》を無視する事は出来ないだろう。
だが一方で、仮に俺達の後から登ってきたのなら、俺達と一度もすれ違わなかった事が引っかかる。
先程の《産獣師》の死体を見るに、再生途中で奴の首を落としたのだろう。だとすれば、俺から逃げてすぐに遭遇したはず。
つまり西学と俺達はそう離れていない位置にいたはずだ。
そう考えると、またひとつ不思議なことが増える。
俺達が吹き抜けをどう登るか言っている時に斬撃音がし、塔が斬られた。
あの音が《産獣師》を斬った音だとすると、周りは塔の亀裂ばかりで、斬痕が無かった。
ここから考えられる可能性は二つ。
《産獣師》を別の場所で殺し、死体をあそこに置いた。
あの音は《産獣師》を斬った音ではない。
──どちらが有り得るかと言われれば、断然後者である可能性が高い。そもそも俺達は塔を斬ったらしき痕をまだ見ていない。
とすると、やはり数が合わないのだ。
今の疑問は全て一度脇に置き、端的に起こっている事実をまとめて書く。
この塔であの斬撃音がした瞬間、俺達は吹き抜けの底にいた。
恐らくほぼ同時刻。《産獣師》の死体の再生度合いからして、このタイミングで《産獣師》が何者かによって首を斬られる。
そして最後に音。塔を斬った悲痛な斬撃音。しかしその斬撃痕は未だ見つかっていない。
どちらかが西学だったとして、もう片方の勢力が分からない。
そして結局、西学だったとしてもどうやって俺達より先に行っていたのかが分からない。
あり得るとすれば、チィズとか言う《白鼠マウス》の男のスキルか。しかし分かれる前に言われたのは、短距離メッセージを彼に飛ばせば、どこにいても届くみたいな話だったはず……
それだけが用途ではないとも言っていたが、それがどう言う風に転がって俺達より先に塔を登れるかは分からない。
「──!!」
ぴたり、と。
思考の真っ最中だったが、に気づいて俺の足が止まる。
「この上……だな」
《勇者》もそう言い、俺も頷く。
この真上の階。そこで今、戦闘が繰り広げられている。
俺達は足音を、気配を殺して静かに、慎重に最後の階段を登り始めた。
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