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本編
勇者と産獣師4
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筆舌に尽くし難い絶叫を上げて、《産獣師》が空中でのたうち回る。
「まさか──アーネ!?」
《産獣師》を貫いたのは、赤い炎ではなく、色を限界まで脱色したような白い炎。
可能性として、考えなかった訳では無い。だが、不可能だと半ば諦めていた。
俺が登った壁は、少なくとも三十メートルは優に超える。それだけでも普通の魔法使いの射程限界にあたる。
さらにそれは、平地で地上と平行に撃った場合の話。当然真上に撃つのでは難易度も労力も段違いに上がる。
しかし、俺は非常に単純な、たった一つの答えを忘れていた。
彼女は既に二千メートル以上上空に飛んでいた、星のような都市へと手を届かせたのだと。
たとえ的が多少小さかろうと関係はない。
鋭く狙い澄ました炎の槍が、正確に《産獣師》の腕を貫き、そこから燃え広がっていく。
炎は腕を薪とし、いくら払っても消える気配はない。
瞬く間に炎は燃え広がり、左腕から胸を焼き、咄嗟に火を払おうとした右手へ移って、まだ燃える。
絶叫を上げる《産獣師》だが、暴れる彼女に、着々と炎の槍が突き刺さる。
左脚、右腕、腹、また左脚。
そして全身を炎が包み込み、骨の羽さえ焼く頃には、空気さえ吸い込むことが出来なくなったのだろう。苦しそうにふらふらと飛び回り、呻くだけになる。
やがてゆっくりと下に落ちていき──突如、最早ほとんどが燃え尽きかけていた左腕が、別の意志を持つように跳ね上がった。
爪先を一点に集中させるように細く絞り、自身の額へと一直線に。そしてそれは、丁度額の中央に突き刺さって、しばらく額を掻いた。
「何を──」
警戒しつつそう言った瞬間、左腕が額から滑り落ち、そのまま流れるように左肩を斬った。
「「あ?」」
当然のように左腕が切り落とされ、重力に引っ張られてそのまま下へ。
そして、ずるっ、と
ツヤツヤとした、産まれたての赤ん坊のような肌をした腕が生えた。
「「『なっ!?』」」
その腕が、燃え盛る額に指をつき込み、ぐりぐりと何かを抉るような仕草をしつつ、そのまま額を握り締め、横に剥いだ。
するとどうか。まるで木の皮を剥ぐように《産獣師》の肌が剥ぎ捨てられ、下から染みひとつない、一糸まとわぬ《産獣師》の姿が顕になって行く。
『どうなってんだ……?』
「ああああああああああああああああッッッ!!」
身体の全てをそうやって脱ぎ捨てた後、《産獣師》が叫ぶと、背中の骨の羽を押しのけて、新たな翼が生える。
今度の見てくれは一言で言うなら竜の翼。さらに《産獣師》の見てくれも大きく変わっており、左腕が普通の腕に戻った一方、足に猛禽を思わせる鋭い爪がついている。さらに右肘に何かがついている。何の生物のものかは分からないが、一見すると細くて鋭そうなものが肘からはみ出ていた。
「やってくれたわね……!!絶対に……絶対に殺してやるわ!!」
そう言う彼女に、最早乾いた笑いしか出ない。
「もう魔族すらも辞めてんのか。いいぜ、返り討ちにしてやるよ」
「まさか──アーネ!?」
《産獣師》を貫いたのは、赤い炎ではなく、色を限界まで脱色したような白い炎。
可能性として、考えなかった訳では無い。だが、不可能だと半ば諦めていた。
俺が登った壁は、少なくとも三十メートルは優に超える。それだけでも普通の魔法使いの射程限界にあたる。
さらにそれは、平地で地上と平行に撃った場合の話。当然真上に撃つのでは難易度も労力も段違いに上がる。
しかし、俺は非常に単純な、たった一つの答えを忘れていた。
彼女は既に二千メートル以上上空に飛んでいた、星のような都市へと手を届かせたのだと。
たとえ的が多少小さかろうと関係はない。
鋭く狙い澄ました炎の槍が、正確に《産獣師》の腕を貫き、そこから燃え広がっていく。
炎は腕を薪とし、いくら払っても消える気配はない。
瞬く間に炎は燃え広がり、左腕から胸を焼き、咄嗟に火を払おうとした右手へ移って、まだ燃える。
絶叫を上げる《産獣師》だが、暴れる彼女に、着々と炎の槍が突き刺さる。
左脚、右腕、腹、また左脚。
そして全身を炎が包み込み、骨の羽さえ焼く頃には、空気さえ吸い込むことが出来なくなったのだろう。苦しそうにふらふらと飛び回り、呻くだけになる。
やがてゆっくりと下に落ちていき──突如、最早ほとんどが燃え尽きかけていた左腕が、別の意志を持つように跳ね上がった。
爪先を一点に集中させるように細く絞り、自身の額へと一直線に。そしてそれは、丁度額の中央に突き刺さって、しばらく額を掻いた。
「何を──」
警戒しつつそう言った瞬間、左腕が額から滑り落ち、そのまま流れるように左肩を斬った。
「「あ?」」
当然のように左腕が切り落とされ、重力に引っ張られてそのまま下へ。
そして、ずるっ、と
ツヤツヤとした、産まれたての赤ん坊のような肌をした腕が生えた。
「「『なっ!?』」」
その腕が、燃え盛る額に指をつき込み、ぐりぐりと何かを抉るような仕草をしつつ、そのまま額を握り締め、横に剥いだ。
するとどうか。まるで木の皮を剥ぐように《産獣師》の肌が剥ぎ捨てられ、下から染みひとつない、一糸まとわぬ《産獣師》の姿が顕になって行く。
『どうなってんだ……?』
「ああああああああああああああああッッッ!!」
身体の全てをそうやって脱ぎ捨てた後、《産獣師》が叫ぶと、背中の骨の羽を押しのけて、新たな翼が生える。
今度の見てくれは一言で言うなら竜の翼。さらに《産獣師》の見てくれも大きく変わっており、左腕が普通の腕に戻った一方、足に猛禽を思わせる鋭い爪がついている。さらに右肘に何かがついている。何の生物のものかは分からないが、一見すると細くて鋭そうなものが肘からはみ出ていた。
「やってくれたわね……!!絶対に……絶対に殺してやるわ!!」
そう言う彼女に、最早乾いた笑いしか出ない。
「もう魔族すらも辞めてんのか。いいぜ、返り討ちにしてやるよ」
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