大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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外伝

決着の後に

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最古の魔族と今代の勇者、二人の死闘は苛烈を極めた。
魔族が魔法で黒球を創り、勇者へ投げる。
それを勇者は迷わず回避。背後の戸棚へぶつかった黒球は戸棚を捻り潰し、黒球も戸棚も消える。
くぐり抜けた彼女は懐に潜り込むと同時に剣を下から上へ一閃。それを魔族は白い杖で受け流し、それどころかそのまま杖で突き返す。
対する勇者も剣で受け流し、一瞬だけ空いた右腕から《血刃》を発動。
一瞬で杖を叩き切る。
しかし魔族は既に杖を放棄しており、勇者が杖を斬っている間に距離を取る。
そうした死闘が、どれほど続いただろうか。
真夜中であったはずなのに、彼女らは空が白み始めるまで戦い通した。
街を囲んでいた白鎧は、異常を察知して突入したが、あろう事か余波で全て消え、街も一晩で廃墟と言って差し支えないものへと変貌した。
そしてもちろん、その戦いの場であった塔も倒壊した。
想像を絶する死闘、目撃者が居れば間違いなく歴史に残るであろう激闘は。
「──、──、──、──」
勇者の勝ち、という形で幕を閉じた。
魔族は塵となり、死体は既に無い。
しかし、代償も大きかった。
彼女の身体は至るところが傷にまみれ、無事な所を見つける方が難しい程だ。
実際、左肘の粉砕骨折、右肩脱臼、肋骨が四本骨折、右耳と右腕の二の腕の半ばから先は欠損。外から見るだけでこれだけ酷く、ほかにも複数箇所に罅など、およそ立っているのが不思議な程だった。また、内臓関連に至っては、全てミキサーに入れて攪拌されたほうがまだましだったと言える程にグチャグチャになっていた。
それでも、彼女は生き延びていた。
塔のあった場所、その地下にて。
息も絶え絶えながらも、しかし決して絶えることは無く。
「──ッ!『この身は揺るがぬ守護となりて』」
そう囁くと、彼女の足元に転がっていた剣から光が発せられる。
その光は大きく、厚みを持ちながら人の形となり、光が収まるとそこには、アベルがいた。
「ふ、副隊長!?大丈夫ですか!?」
「痛ッ!!」
「あ、え、すいません!!」
砕けた拳でアベルの胸ぐらを強く握りしめ、彼女が顔を近づける。
「ふ、副隊長!?」
「アベル…俺はもうすぐ気を失う。その後、お前にやってもらいたいことは三つだ」
「!…はい、どうぞ仰ってください」
「一つ、この都市のどこかに、ランゼル達が使い残した帰投用の信号弾があるはずだ。それを探して救援を呼べ」
今にも意識を失いそうな彼女を支え、廃墟とと化したここに残っているか分からないが、ひとまず頷く彼。
「二つ、あそこにある──」
無くなった右腕が、視線を誘導した。
「銀の大剣。あれを絶対に回収しろ」
そこにあったのは、彼が大剣へと変じた時とそっくりな形をした、色違いの銀の大剣。
それが台座に突き立っていた。
もう一箇所違うところがあるとすれば、銀の篭手のような物が、その柄を両手で握った形で浮いている事だろうか。
「分かりました」
「最後だ。これは絶対に、命に代えても守れ」
「ッ…はい──ってうわ!」
更に顔を引き寄せ、ほとんど密着した状態で、彼女は最後の声を絞り出す。
「私から絶対に離れないで」
彼がその質問に何か返す前に、彼女は気を失う。
金の彼は、随分と軽くなってしまった少女を繊細なガラス細工よりも慎重に扱い、そっと抱き上げる。
「分かりました、副隊長」
彼はそう囁き返すと、彼女を起こさないように、まずは銀の大剣を回収しに歩き始めた。
── ── ── ── ── ── ── ── ──
ヒト種が行った、捨て身の機人主要都市四箇所同時攻撃作戦は、以下のような結果となった。
出撃人数十名、帰還者僅か三名。
陥落成功都市、四つ。
ヒト種の切り札を存分に切った結果、半分以上を失った事となる。
しかし、彼らはその命に代えてでも、作戦は成功させた。
ある者は無数の弾と槍に貫かれ、立ったまま。
ある者は決死の特攻で身を散らし。
ある者は己のスキルで道連れに。
そんな中、奮闘し、さらに生還した三名は万雷の喝采をもって迎え入れられた。
この作戦の結果、機人は大して気にも留めていなかったヒトから、大きな打撃を受け、魔族も偉大な魔族の一人を前線から下げさせざるを得なくなる。
これにより、戦況は変化。
魔族が機人に大して優勢となり、二種族からは存在すら気にされていなかった種族、《ヒト種》が勢力図に入り込む。
これから先、赤い勇者はどうなるのか?
機人は?魔族は?そして未だ現れない、聖女は?
これより先の話は、また次の話となる。
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