大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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外伝

撤収の話

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街の門の方は人が減っていたが、奥の方はまだ人がいたようだった。
恐らく、門の方で彼女が暴れていたのを見るか聞くかして、彼女がいなくなるのを待とうとしたのだろう。
もっとも、「」なので、いまは物を言わない死体へと成り果てていたのだが。
(……こっちか)
まだ悲鳴の聞こえる方へと、彼女はゆっくり動き始める。
尋常ではない疲労と、血界による副作用によって、やや覚束無い足取りでさらに奥へと足を進める彼女。
頭の中では、未だに多くの声が口を揃えて『今すぐこの街から出ろ』と喚いている。
その声を無視し、ゆっくりと歩いていく。
彼のスキルは《変容》。
身体を好きな形、好きな素材に置き換えるスキルだ。
それを使えば、右腕を身の丈を超える鉄製の剣に変えることも、左腕を全てを遮る黒曜石の盾に変えることも出来る。
そのスキルを使えば当然、鎧など不要な訳だ。
その彼が敵を殺す際、ほぼ必ずと言っていいほど行うことがあった。
心臓を必ず貫いて殺すのだ。
脈打つ心臓、それが止まる瞬間をその手で感じるのがいいのだと言っていた。
そうでないと、安心できないと。
少し悲しそうに言っていた。
「………っ。」
恐らく、その作業中に吹き出したであろう血が、その靴裏に付いたのだろう。
判子のように点々と、靴跡がこの街の奥へと伸びていた。
「全く…アイツはこういう所が抜けてるんだから…」
ふと口から漏れた言葉が、誰に届くこともなく空に消える。
赤い足跡を追いかけながら、彼女は進んでいく。
「…このっ!!」
突然、物陰から背の低い男が飛び出し、その手に握っている建物だった物の瓦礫を振り上げ、彼女の後頭部めがけて振り下ろす。
しかし彼女はそれをまともに見ることもなく、回し蹴りで瓦礫を砕く。
「なんだ…………低かったか」
想像した位置には瓦礫、それの下には呆けた髭面の男。
回転を止めることなく、一度男に背を向けるが、男がなにかする前にさらにもう一度地面を蹴り、半回転。
「《倍率・二倍レート・ダブル》」
強化された筋力で男の顔を蹴り砕き、何事も無かったかのように再び歩き始める。
やがてかすかにだが、悲鳴のようなものが聞こえ始めた。
(こっち…か)
数日前、頭に叩き込んだばかりの路地を曲がり、建物の裏を歩き、その音の源へとさらに進む。
そしてようやく。
(──いた)
いつも見上げる、金の髪が見えた。
路地裏に追い詰めて処分していたため、周りは血塗れになり、ムッとした臭気が立ち込めていた。
「アベル…」
掠れた声を出し、自分の部下を呼ぶ。
「…あれ、副隊長?どうしてここへ?」
真っ赤に染まったマスクがこちらへ振り向く。
「……引き上げるぞ」
「まだ二百は残っていますが?」
「ほかの隊から合図が上がっていない。作戦は失敗だ。このままだと俺達も殺られる。引き上げて次に備えるぞ」
「…そんな…なら、隊長達の仇を討ちましょうよ!」
「あの人はそんな事を望まないだろうよ。特に、俺に対してはな」
「しかし…!」
「アベル…これは命令だ」
納得いかない顔をしつつ、やがて彼も渋々頷く。
「急ぐぞ。アベル、足はあるか?」
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