大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,985 / 2,027
外伝

試験時の話

しおりを挟む
「え?あぁ、そんなこともあったっけか」
「そんなこともあったっけか、じゃないですよ!僕、それで死にかけたんですから!!」
「まぁいいじゃないか。死んでないんだし。それに、今は副隊長様の右腕にまでなったんだし」
「僕は良くないですよ……あの一件で、完全に目をつけましたよね?」
「いやぁ、どうだったかなぁ…」
馬に乗りながら、赤髪の彼女と、気弱そうな金髪の優男が楽しそうに言い合う。
周りは青い芝が生い茂るだけで、他には背の高い木も青く澄んだ湖もない。それだけの広い原っぱに、赤髪の少女と金髪の優男の二人だけ。
金髪の彼はアベルと言い、今から五年前に黒鎧部隊の試験を受け、合格した者だ。
その年の試験は彼女が試験官をし、試験を受けた二十一名のうち、合格者八名、重傷者十四名という、怪我人が非常に多く排出した年だった。
ちなみにその後、彼女に試験官をやれという任務は二度と来なくなった。
なお、合格者の人数と怪我人の合計人数が一人多いのは間違いではない。
「で、そんな昔のことをほじ繰り返して、一体なんだってんだ?」
「いえ、副隊長の拳は人を殺せるのですから今回の任務なら丸腰でいけますよね?という話です」
「まぁ、殺せないことは無いが…武器があるに越したことは無いぞ?」
「確かに武器があると楽だとは思いますが…」
アベルは残念ながらと言ったふうに首を振る。
「あそこでは、鎧はともかく剣や斧を所持していますと、確実に怪しまれますからね」
「そうだよな。あそこは俺も嫌いだ」
アベルの言葉に少女も頷き、少女の中の声たちも口を揃えて『あそこは苦手だ』と言う。
「だが、仕事に好き嫌いを言ってる場合ではないしな」
「えぇ、給金の分は働きましょう」
「貰った金の分はもう一生分働いたと思うんだがな…」
「なら、お国のために頑張ってください。…そう言えば、副隊長は何故黒鎧に?」
黒鎧部隊には、脛に傷を持つ者も多い。
そのため、個人の過去についての詮索は禁忌タブーとされていた。
相手が悪ければ、その場で殴り飛ばされてもおかしくなかったが、少女はやや不機嫌そうな顔をしただけで、意外にも答えを返した。
「別に。魔族と機人を一番多く殺せる所を探したら黒鎧が一番ちょうど良かったから」
「………」
「どうした?」
「いえ、なんでもありません」
そういった後、二人は無言で馬を降り、徒歩で歩き始める。
馬は放てば勝手に神聖国へ帰るだろう。賢い馬だ。
そう思いながら溜息をつく。
「じゃ、ここから歩くか」
「えぇ、丸二日で機人の都市…ミルヴァに着くといいですね」
二人は黒鎧部隊。
一人は黒鎧部隊副隊長、フィーネ。
一人は黒鎧部隊副隊長補佐、アベル。
どちらも一騎当千の化物であり──都市を二人で落とすなど、造作もないことだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記

スィグトーネ
ファンタジー
 ワンルームの安アパートに住み、非正規で給料は少なく、彼女いない歴35年=実年齢。  そんな負け組を絵にかいたような青年【海渡麒喜(かいときき)】は、仕事を終えてぐっすりと眠っていた。  まどろみの中を意識が彷徨うなか、女性の声が聞こえてくる。  全身からは、滝のような汗が流れていたが、彼はまだ自分の身に起こっている危機を知らない。  間もなく彼は金縛りに遭うと……その後の人生を大きく変えようとしていた。 ※この物語の挿絵は【AIイラスト】さんで作成したモノを使っています ※この物語は、暴力的・性的な表現が含まれています。特に外出先等でご覧になる場合は、ご注意頂きますようお願い致します。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...