大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

手と都市

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「なんだありゃ!?」
思わずそう叫んだ。
だってそりゃそうだろう。全長十キロを優に超え、それに見合った幅と大きさを備えた空中都市を、真正面から受け止めるような超巨大な手のひら。そんなモン、想定も想像もしていない。
「クソッ!行くぞ!」
そう言って俺達は走り出した。
本当は都市が落下しきってから行くつもりだったのだが、あれではもしかするともしかする。そうなった場合、多少でも混乱の余韻がある内に攻めきってしまいたい。
一方手の方は、まるで少し大きめのボールを片手で押し支えるように空中都市を受け止め、ゆっくりとしなる。
だがそれは、どちらかと言えば衝撃を吸収するために曲っているというのではなく、衝撃を吸収しきれなかったが故に手のひらが押されていると言うべきか。
その証拠に今なお押し込まれ続ける手。その至る所から、皮膚が裂け肉が割れ、白すぎる肌の下からピンクと白のものが見える。しかし何故か血は一滴も滴らず、それがかえって不気味でもあった。
『行けるか?』
「ギリじゃねぇか?」
衝撃を殺しきるより先に、手が壊れる。
そう思った瞬間、手の表面を膨大な黒の影が一気に覆った。
「!?」
「黒い…影…?」
隣の《勇者》が小さく呟く。
俺も緋眼を意識して強化。じっと睨むと、黒い影は僅かに蠢いており、どうも生きているらしい。それらが外から強引に手を締め直し、崩れかかった手を補強しているらしい。
いや違う。よく見ればあれは影ではない。
「蛇だ!」
何百何千、下手をすれば何万。一匹いっぴきは決して大きくも太くもない。しかしそれ故に引き締まって頑丈なのか、蛇達はまるで千切れる様子もなく、がっちりと手の形を維持させる。
「クッソ!」
ダメだ、都市の勢いが落ちる。あれでは押し返され、荒野に流される。
しなった腕がゆっくりと起き上がり始める。
不味い、この距離ではアーネの攻撃も届かない。そもそもあのサイズの腕に対し、一体どんな攻撃が効くというのか。
あの都市ですら大きめのボールと形容出来るようなサイズ差の手。当然都市より幾分小さいが、それでも充分過ぎるほど規格外。
俺の剣ではどうにも出来ない。アーネの魔法も、《勇者》の血も届かない。
何より遠すぎる。あの手が出ているのは陽光楽園の比較的中央。今頃端に着いた所でどうしようも──
その瞬間。
日が落ちた暗い空に、細く薄い白雷が真横に落ちた。
俺の緋眼で視認できたのはそれだけ。しかし、それの意味は目を見張るほど大きかった。
ぶっつりと。
巨大な手のひら、その手首がばっくりと割れ、美しいまでの一直線の斬痕が刻まれる。
傷自体は差程深くない。遠すぎて断言は出来ないが、手首の一割も斬れていれば上等だったろう。
だが、恐ろしく強い負荷がかかっている今この状態で、それだけ斬られれば充分過ぎた。
メリメリメリメリメリメリメリ──と。
凄まじい音を立てて巨大な手が千切れはじめた。
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