大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

肉塊と空中都市 終

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ボソリと呟き今なお降り注ぐ触手を強引に切り払った。
やはり血界は弾かれ、銀剣ですらその触手を多少切る事は出来ても切断には至らない。
しかし、傷をつけることが出来るということは、斬撃自体に強い耐性はあるものの、完全な無効では無いということ。ダメージ的には血界による攻撃より何倍もマシという事だ。
ならば。
涼やかな音を響かせて、銀の双剣同士の表面を滑らせると、表面に書いてある文字が光り始める。
詠唱はすっ飛ばし、剣を抜くというモーションだけを戦技アーツとして先に持ってくる。
二刀であるが故に別の戦技アーツ、しかしその名の音は変わらずに。
戦技アーツ──《吼破》!!」
振り抜いた双剣、その銀の刃が勢いそのままに射出され、唸りを上げて狭間の子へと向かって一直線に突き進む。
「!」
と、まるで驚いたように狭間の子が迫り来る銀剣を見、触手を引き戻して咄嗟に防御を張る。
しかし銀剣はまるでそれを意に介さず、あっさりと触手を貫いて狭間の子へと突き刺さる。
「あっ、お…!?」
腹と左肩。触手によって僅かに逸らされたせいで心臓へは至らなかったが、《吼破》の本領はそこでは無い。
黒の双剣。これさえ引き抜ければ何とかなる。
「仕掛けるぞ!」
既に俺がそう言った時点で《勇者》は動いていた。
長剣を片手で握り、身体を大きく使って暴れ振り回すように斬りつける。
あんな動きをすれば、普通長剣の方が持たない。
だと言うのに、あの剣は折れることなく、いや、それどころかさらに鋼の輝きを増していく。
どういう理屈だ?一瞬だけ疑問に思うが、今はそれどころではない。
流石に《勇者》も血界を使わずに戦う方針に変更したらしいが、やはり威力が足りない。狭間の子からは血が出るようになったが、逆に言えばそれだけ。致命傷には程遠い。
だが、俺の剣なら。
正面から戦う《勇者》と肩を並べ、俺も切り込み、突き刺さったままの銀の鞘を蹴飛ばして横に弾き、黒剣で切りつける。
狙いは左肩から右腰へ抜ける一撃。
手応えは無かった。
しかし結果はあった。
今までに見た事もない程大量に血が吹き上がり、狭間の子が目を白黒させる。
「っ!?…?…!」
「やるぅ」
これなら行ける。襲いかかる触手を蹴飛ばして対処し、さらに接近。
それに対して狭間の子はほぼ同じタイミングで後ろに飛んだ。
「逃げたな?俺から」
言葉が通じるとは思っていない。だが知能はある。そう理解した上で俺はそう言った。
「逃がさんぞ?俺達は」
狭間の子の背後に回った《勇者》がそう言った。
恐怖というものがあったのかどうかは知らない。奴も理解していたかどうか分からない。だが、今この瞬間、奴の顔に浮かんだ表情は間違いなくその類のもの。
《勇者》を無理矢理押しのけようと、触手でもって応戦するが、ただ暴れるだけと言ってもいい動きのそれは容易く見切られて長剣の一撃を受け、さらに恐ろしく重い拳も貰う。
音だけで確実に骨か何かが折れたとわかる音を響かせ、強引に俺の方へと狭間の子が押し戻される。
「ッ」
腕を切り払い、胸に×字の傷をつけ、右手を突っ込む。
「オオっ、ラァ!!」
その血界に名前はない。ただただ無我夢中で繰り出した、血界の性質を持つだけの血の力技。
血界に耐性がある?知ったこっちゃない。
こいつを倒す方法が血界しかない以上、その耐性を上回る量ぶち込むしかない。
俺が今持つ血の半分以上を強引に流し込み、内側で血海も併せて発動、しかしまだ足りない。
「手は貸せねぇが──血は貸してやる」
そう言って《勇者》が俺に血を寄越す。流石同種の血。血海が必要無いぐらい全く問題なく扱える上に俺よりも血が濃い。だが、それでも足りない。
狭間の子が血のせいで膨れ上がり、しかしそれでもまだ余裕があるらしい。血なら耐えられる、そう言いたげに口角を上にあげた。
「なら──倍ならどうだ?」
そう言って俺が口角を上げた。
「《遺された一握りで泡沫の夢を見る》」
ワンフレーズの詠唱。それが精一杯の《勇者》による魔法。
増幅魔法。それは使った魔力、すなわち《勇者》の血を一時的に増加させる勇者専用の魔法。
それが遂に狭間の子の限界を突き破った。
「ッ!!」
「ぶち抜けッ」
ぱぁん、と。
少々気の抜けた音と共に狭間の子が爆ぜた。
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