大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

移動と作戦

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ヤツキから貰った五十年前の作戦書曰く。
空中都市は、空に浮かべた広大な土地を利用した完璧な自給自足。どうやってかは不明だが、その広大な土地すら強引に飛ばす事すら可能とした魔力によって地上に降りる必要性が全くない。
都市がある高度は非常に高く到達は困難。さらに一定範囲内に異物が入り込めば都市に仕込まれた魔法陣が反応、自動的に迎撃する。遠距離からの攻撃も、当然のように強力な障壁によって遮られるので当たらない。挙句の果てに空中都市は常に移動しているため、居場所の特定が困難である。
誰にも手が届かない難攻不落の空中都市。そう評されていたそうだ。
しかし、当時のとある男は「もしも」と考えた様だ。
──もしもこの大質量の都市を墜す事が出来れば。
都市に住んでいる魔族は確実に死に絶える。
それどころか。
──もしも落とす地点を自分で狙えるのなら、更なる打撃を与えられる。
最初に読んだ時は勝手に上がる口角を押さえられなかった。と言うのも、思考回路が俺とそっくり同じだったからだ。
発想が同じ、行き着いた理由も同じ。
実際出来れば素晴らしい戦果を出せただろう。
だから発案者も考えた。調べた。計算した。
どうやったら空中都市を墜とせるのかを十年以上かけて調べ、それに必要そうなものを自らの手で作り続けた。
長年の観察の結果、空中都市が通る道はある程度決まっていて、それを周期的に回っている事を見つけ出した。
あの超巨大質量が高高度を飛行し続ける為に必要な魔力量を試算し、術式や最低必要魔力量を割り出し、術式の核となる場所を探し当てた。
そして蹴つまづいた所も同じ。
そもそもどうやって潜入するのか、と言う点が最も困難だったようだ。
結果として出した答えは「潜入不可能」という答えであり、この作戦は実行までは行かなかったようだ。
………だがこの末尾に、この作戦を考えた誰かが、最後の悪足掻きのように記した「もしも」が書いてあった。
──以上の理由より、潜入不可能として、この作戦は見送る。だがもし可能であるのなら。
──空中都市の表面に僅かでも傷を付けられれば、術式に強い悪影響を与える事が出来るだろう。
「つまり作戦は?」
強い向かい風を受けつつ、《勇者》が背から問う。
「作戦書に書いてあった都市の移動順路を今の時代、時期に合わせて計算し直した。今日の夕方前ぐらいに、ここからおよそ西に三十キロ先の地点を通る。そこで思いっきり攻撃を仕掛ける」
「空中都市だぞ?高度何メートルの場所を飛んでやがると思ってる?」
「少なくとも二千メートル。計算ではそう書いてあったな」
「あぁそうだ。俺達の射程はどれだけ足掻いても百メートルもない。二十倍以上離れてるんだぞ」
「そのためのアーネだ」
『わ、私ですの!?』
あまり言いふらす内容でもなく、かと言って情報共有が出来ていないと非常に困るので、メッセージを利用してアーネに話しかけている。ちなみに欠片を持っている《勇者》も聞こえている。
「俺と《勇者》の血を使って魔法陣を書く。魔石を砕いて溶かしたなんて代物よりずっと効力は強いはずだ」
「あぁん!?ちょっと待て!俺の血も使うのか!?」
「俺一人だと多分薄い。お前だけだと負担がデカすぎる。なら足して割るしかないだろ。出来るか?アーネ」
「無理だよ。そもそも魔法だってそんな距離を飛ばすように出来てない。仮に出来ても相当威力は減衰するはず。それで魔族の張った障壁を貫けるかって?同じ魔族でも出来んだろうよ」
《勇者》がそう言って鼻で笑った。
「…だ、そうだが?」
そう聞くと、今度は逆にアーネが鼻で笑った。
『いいですわ。私の本気の本気、見せて差し上げますの。ところでひとつ聞いていいですの?』
「なんだ?」
『空中都市を陽光楽園に墜すのが目的なんですわよね?』
「あぁ。その混乱に乗じてシエルを助ける」
『術式が傷ついたら普通にその場に墜ちて来ませんの?陽光楽園の場所はもっとずっと東の方ですわよ?』
「あー、えー、浮かせてる魔法の術式が傷ついた場合の緊急術式も一緒に組み込まれてるらしい。つかそもそも、術式自体を抉りとるぐらいしないと破綻させられないらしくて…相互補完がどうのこうのとか…んで、術式に傷を入れると、簡単に言えば別の術式になるらしいんだが…」
『成程、どういうタイプの魔法を使ってるか大体分かりましたわ』
流石専門家。かなり曖昧だったが、それでも分かるらしい。
『なら術式の核を潰す必要がありますわね。制御を奪って進路を陽光楽園の真上まで持ってくる必要もありますわ。どうやって乗り込むつもりですの?』
「そりゃ簡単だ。飛び乗る」
「んぁ?」『はい?』
《勇者》とアーネが揃って間抜けな声を出す。
『飛び乗る…どうやって?』
「術式にダメージを与えると、それを補った別の術式に切り替わるらしいんだが、切り替わる瞬間は魔法が途切れる可能性が高いらしい」
つまりその瞬間、空中都市が一度落っこちる。
もちろんすぐに持ち直すだろうが、一度落ちた超質量を押しとどめ、元の高さに戻すのは相当困難。
「計算上では三発。かすり傷でもいいから、それだけ入れれば二百メートル地点まで落ちてくるらしい。そこまで落ちてくれば──」
「なるほどな。血界を全力で使えば…あるいは届く」
《勇者》の射程は百メートルもない。
だが、百メートルの距離を詰めるのは造作もない。
たとえそれが前後左右ではなく、上下であっても同じ事であり、百メートルも二百メートルも大差はない。
『…信用できますの?色々と言ってますけど、相当古い作戦の計算なんでしょう?』
アーネがそう言う。俺も同じことを思った。しかし大丈夫だと断言する奴がいた。
「出来るらしい。なんでも、それを計算したのが当時の兵装開発部の部長だかなんだからしくて、相当の天才だったらしい。まず間違いはないらしいぞ」
掠れたサインは俺には読めなかったが、字を読めないはずのシャルが驚きの声を上げて、そこだけを正確に読み上げた。それほど凄い人物だったのだろう。
「ま、だからって頼りきるのは危険だが、これに賭けるぐらいは出来るだろ。やるしかないし、やってみようぜ」
敢えて俺はそう軽く言った。
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