大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

聖女と夜

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色んな所を回りながらちょっとずつ屋台により、少し遅めになった昼食を済ませ、再び歩き回る。
シエルは疲れてしまったので俺が肩車しているのだが、熊のぬいぐるみが結構邪魔…いや、仕方ないのだが。
『……一応、食欲はそれなりにあるみたいだし、笑ってもいる。元気になってんじゃん』
聖女サマか?まぁ、そうだな。
『ん、どうした』
楽しそうっちゃ楽しそうなんだが…自分から何かをしようとして無いのが少し気になるかな。
『気にしすぎじゃねぇの?』
ん…まぁそう…だな。そう思うか。
「さて、次はどこ行く?」
「…あら、広場で何か──」
今日一日はこうして祭りを堪能したのだが…結局、聖女サマが自分から何かをしたい、と言うのは一度も聞けなかった。
………。
……。
…。
その晩、シエルを寝かせた後、鎧の動作チェックを終わらせ、さぁ寝ようかと言ったタイミングで、控えめにドアをノックする音が俺を呼んだ。
「……誰だ」
何となく分かっていたが、指二本分だけ戸を開き、隙間から相手を覗く。
「あの…夜分遅くにすいません。シグナリムです」
………あぁ、聖女サマの苗字か。一瞬わからなかった。
「何事だ?眠れないから子守唄でも歌って欲しいのか?それとも夕飯が足りなかったのか?生憎、俺は飯は作れねぇし、多分その辺りを歩いてるメイドさんになにかお願いすれば簡単なものを作ってくれ──」
「いえ、その、違います。…わかってて言いましたよね?」
その目には決意。
何かを決め、後には引かないという信念の炎が宿っていた。
俺はため息を一つつき、戸を開けて聖女サマを部屋に招く。
「…入れ。立ち話もなんだからな」
「…失礼します」
椅子を勧め、適当に戸棚を漁る。…確か紅茶の茶葉があったっけか…普通は使わねぇけど、聖女サマが相手なんだから、出すだけ出さなきゃならんだろ。
「あ、その、お構いなく…。すぐに話は終わりますので」
「…そうか?まぁ、俺が入れた紅茶とか、あんまり美味くないだろうからいいか」
茶葉の無駄遣いをしたい訳じゃないからな。
「んじゃ、用件は?」
「…分かってなかったんですか?」
「絶対違う答えを出して、顔真っ赤にして怒って部屋に帰ってくれるように適当な事を言ってただけだよ。そうすりゃアンタも俺も早く寝られて明日も元気に一日を過ごせる。ほら、これでみんなハッピーだ」
「すみません…」
「気にすんな。これも適当な事だから。で?用件は何?」
あくびを噛み殺しながらそう聞くと、聖女サマは真っ直ぐ俺を見返す。
あぁ、その真剣な、真っ直ぐな、決して歪まない視線を、俺は待っていた。
そう、それでこそ聖女じゃないか。
「まずは一つ。王都への帰還の日取りが決まりました」
「…まずは一つ、ねぇ…向こうは解決したんだ?」
「いえ、少なくとも当面の安全は確保できたようです。ここよりも王都の方が安全と判断されたようで…」
「俺なんかよりかマトモな護衛殿が五人もいらっしゃるからな」
「……………五日後、ここを出ます」
「ふぅん。わかったよ。で、他は何?」
特になんの感慨も湧かない…と言えば嘘になる。しかし、それを表情に出すわけには行かない。
「もう一つは…私も、戦えるようになりたいんです」
「…は?何でまた」
目が点になった。
いやだって、お前が戦わなくてもいいように英雄がいる訳で。
しかし聖女サマはなんと言っても引かない。
最後は半ば締め出すようにして部屋から追い出した。
…何か、嫌な予感しかしねぇんだけど。
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