544 / 2,028
本編
聖女と夜
しおりを挟む
色んな所を回りながらちょっとずつ屋台により、少し遅めになった昼食を済ませ、再び歩き回る。
シエルは疲れてしまったので俺が肩車しているのだが、熊のぬいぐるみが結構邪魔…いや、仕方ないのだが。
『……一応、食欲はそれなりにあるみたいだし、笑ってもいる。元気になってんじゃん』
聖女サマか?まぁ、そうだな。
『ん、どうした』
楽しそうっちゃ楽しそうなんだが…自分から何かをしようとして無いのが少し気になるかな。
『気にしすぎじゃねぇの?』
ん…まぁそう…だな。そう思うか。
「さて、次はどこ行く?」
「…あら、広場で何か──」
今日一日はこうして祭りを堪能したのだが…結局、聖女サマが自分から何かをしたい、と言うのは一度も聞けなかった。
………。
……。
…。
その晩、シエルを寝かせた後、鎧の動作チェックを終わらせ、さぁ寝ようかと言ったタイミングで、控えめにドアをノックする音が俺を呼んだ。
「……誰だ」
何となく分かっていたが、指二本分だけ戸を開き、隙間から相手を覗く。
「あの…夜分遅くにすいません。シグナリムです」
………あぁ、聖女サマの苗字か。一瞬わからなかった。
「何事だ?眠れないから子守唄でも歌って欲しいのか?それとも夕飯が足りなかったのか?生憎、俺は飯は作れねぇし、多分その辺りを歩いてるメイドさんになにかお願いすれば簡単なものを作ってくれ──」
「いえ、その、違います。…わかってて言いましたよね?」
その目には決意。
何かを決め、後には引かないという信念の炎が宿っていた。
俺はため息を一つつき、戸を開けて聖女サマを部屋に招く。
「…入れ。立ち話もなんだからな」
「…失礼します」
椅子を勧め、適当に戸棚を漁る。…確か紅茶の茶葉があったっけか…普通は使わねぇけど、聖女サマが相手なんだから、出すだけ出さなきゃならんだろ。
「あ、その、お構いなく…。すぐに話は終わりますので」
「…そうか?まぁ、俺が入れた紅茶とか、あんまり美味くないだろうからいいか」
茶葉の無駄遣いをしたい訳じゃないからな。
「んじゃ、用件は?」
「…分かってなかったんですか?」
「絶対違う答えを出して、顔真っ赤にして怒って部屋に帰ってくれるように適当な事を言ってただけだよ。そうすりゃアンタも俺も早く寝られて明日も元気に一日を過ごせる。ほら、これでみんなハッピーだ」
「すみません…」
「気にすんな。これも適当な事だから。で?用件は何?」
あくびを噛み殺しながらそう聞くと、聖女サマは真っ直ぐ俺を見返す。
あぁ、その真剣な、真っ直ぐな、決して歪まない視線を、俺は待っていた。
そう、それでこそ聖女じゃないか。
「まずは一つ。王都への帰還の日取りが決まりました」
「…まずは一つ、ねぇ…向こうは解決したんだ?」
「いえ、少なくとも当面の安全は確保できたようです。ここよりも王都の方が安全と判断されたようで…」
「俺なんかよりかマトモな護衛殿が五人もいらっしゃるからな」
「……………五日後、ここを出ます」
「ふぅん。わかったよ。で、他は何?」
特になんの感慨も湧かない…と言えば嘘になる。しかし、それを表情に出すわけには行かない。
「もう一つは…私も、戦えるようになりたいんです」
「…は?何でまた」
目が点になった。
いやだって、お前が戦わなくてもいいように英雄がいる訳で。
しかし聖女サマはなんと言っても引かない。
最後は半ば締め出すようにして部屋から追い出した。
…何か、嫌な予感しかしねぇんだけど。
シエルは疲れてしまったので俺が肩車しているのだが、熊のぬいぐるみが結構邪魔…いや、仕方ないのだが。
『……一応、食欲はそれなりにあるみたいだし、笑ってもいる。元気になってんじゃん』
聖女サマか?まぁ、そうだな。
『ん、どうした』
楽しそうっちゃ楽しそうなんだが…自分から何かをしようとして無いのが少し気になるかな。
『気にしすぎじゃねぇの?』
ん…まぁそう…だな。そう思うか。
「さて、次はどこ行く?」
「…あら、広場で何か──」
今日一日はこうして祭りを堪能したのだが…結局、聖女サマが自分から何かをしたい、と言うのは一度も聞けなかった。
………。
……。
…。
その晩、シエルを寝かせた後、鎧の動作チェックを終わらせ、さぁ寝ようかと言ったタイミングで、控えめにドアをノックする音が俺を呼んだ。
「……誰だ」
何となく分かっていたが、指二本分だけ戸を開き、隙間から相手を覗く。
「あの…夜分遅くにすいません。シグナリムです」
………あぁ、聖女サマの苗字か。一瞬わからなかった。
「何事だ?眠れないから子守唄でも歌って欲しいのか?それとも夕飯が足りなかったのか?生憎、俺は飯は作れねぇし、多分その辺りを歩いてるメイドさんになにかお願いすれば簡単なものを作ってくれ──」
「いえ、その、違います。…わかってて言いましたよね?」
その目には決意。
何かを決め、後には引かないという信念の炎が宿っていた。
俺はため息を一つつき、戸を開けて聖女サマを部屋に招く。
「…入れ。立ち話もなんだからな」
「…失礼します」
椅子を勧め、適当に戸棚を漁る。…確か紅茶の茶葉があったっけか…普通は使わねぇけど、聖女サマが相手なんだから、出すだけ出さなきゃならんだろ。
「あ、その、お構いなく…。すぐに話は終わりますので」
「…そうか?まぁ、俺が入れた紅茶とか、あんまり美味くないだろうからいいか」
茶葉の無駄遣いをしたい訳じゃないからな。
「んじゃ、用件は?」
「…分かってなかったんですか?」
「絶対違う答えを出して、顔真っ赤にして怒って部屋に帰ってくれるように適当な事を言ってただけだよ。そうすりゃアンタも俺も早く寝られて明日も元気に一日を過ごせる。ほら、これでみんなハッピーだ」
「すみません…」
「気にすんな。これも適当な事だから。で?用件は何?」
あくびを噛み殺しながらそう聞くと、聖女サマは真っ直ぐ俺を見返す。
あぁ、その真剣な、真っ直ぐな、決して歪まない視線を、俺は待っていた。
そう、それでこそ聖女じゃないか。
「まずは一つ。王都への帰還の日取りが決まりました」
「…まずは一つ、ねぇ…向こうは解決したんだ?」
「いえ、少なくとも当面の安全は確保できたようです。ここよりも王都の方が安全と判断されたようで…」
「俺なんかよりかマトモな護衛殿が五人もいらっしゃるからな」
「……………五日後、ここを出ます」
「ふぅん。わかったよ。で、他は何?」
特になんの感慨も湧かない…と言えば嘘になる。しかし、それを表情に出すわけには行かない。
「もう一つは…私も、戦えるようになりたいんです」
「…は?何でまた」
目が点になった。
いやだって、お前が戦わなくてもいいように英雄がいる訳で。
しかし聖女サマはなんと言っても引かない。
最後は半ば締め出すようにして部屋から追い出した。
…何か、嫌な予感しかしねぇんだけど。
0
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説
異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
カードで戦うダンジョン配信者、社長令嬢と出会う。〜どんなダンジョンでもクリアする天才配信者の無双ストーリー〜
ニゲル
ファンタジー
ダンジョン配信×変身ヒーロー×学園ラブコメで送る物語!
低身長であることにコンプレックスを抱える少年寄元生人はヒーローに憧れていた。
ダンジョン配信というコンテンツで活躍しながら人気を得て、みんなのヒーローになるべく日々配信をする。
そんな中でダンジョンオブザーバー、通称DOという正義の組織に所属してダンジョンから現れる異形の怪物サタンを倒すことを任せられる。
そこで社長令嬢である峰山寧々と出会い、共に学園に通いたくさんの時間を共にしていくこととなる。
数多の欲望が渦巻きその中でヒーローなるべく、主人公生人の戦いは幕を開け始める……!!
もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜
雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。
しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。
英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。
顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。
ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。
誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。
ルークに会いたくて会いたくて。
その願いは。。。。。
とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。
他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。
本編完結しました!
氷河期ホームレスの異世界転生 ~俺が失ったものを取り戻すまで~
おひとりキャラバン隊
ファンタジー
2035年、就職氷河期世代の吉田は、東京の池袋でホームレスをしていた。
第三次世界大戦の終結から10年。日雇いのアルバイトで生計を立てていた吉田は、夜中に偶然訪れた公園で、一冊の不思議な本に出合う。
その本を開いた事がきっかけで、吉田は「意識を向けたモノの情報が分かる力」を手に入れる事に。
「情報津波」と名付けたその力で、世の中の理不尽が人為的に作られた事を知り、それを住処にしていたネットカフェで小説として執筆し、WEB小説のサイトに投稿した。
その夜、怪しい二人組の男がネットカフェに現れ、眠っている吉田に薬を嗅がせた。
そうして息を引き取った吉田だったが、再び目覚めたと思ったら、そこは見た事も無い様な異世界だった。
地球とは比べ物にならない程の未来的な技術に満たされた星で、吉田は「ショーエン・ヨシュア」として成長する。
やがて「惑星開拓団」を目指して学園に入学する事に決め…
異世界、SF、ファンタジー、恋愛。 様々な要素が詰め込まれた濃密で壮大なストーリー。
是非お楽しみ下さい!
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
ボッチ英雄譚
3匹の子猫
ファンタジー
辺境の村で生まれ育ったロンは15才の成人の儀で「ボッチ」という聞いたこともないジョブを神様から授けられました。
ボッチのジョブはメリットも大きいですが、デメリットも大きかったのです。
彼には3人の幼馴染みと共に冒険者になるという約束がありましたが、ボッチの特性上、共にパーティーを組むことが難しそうです。彼は選択しました。
王都でソロ冒険者になることを!!
この物語はトラブルに巻き込まれやすい体質の少年ロンが、それらを乗り越え、いつの日か英雄と呼ばれるようになるまでを描いた物語です。
ロンの活躍を応援していきましょう!!
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる