大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

義肢使いと震え

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セラとアーネがぶつかる。そう聞いて、俺は少し…いや、相当焦った。
理由は単純。セラは炎を恐れているから。
前に森でスキルを発動した時も魔族の炎に焼かれて思わずと言った風だったし、セラがあの身体になった原因も炎のデーモンのせい。間違いなくトラウマになっているはず。
だからユーリアからセラとアーネが戦うと聞いた瞬間、何かの冗談かと思った。
何故セラが炎の魔法使いであるアーネに真っ向から挑むのか。理解が出来ないと言っていいレベルの困惑だった。
『どうする気だ。やめさせるのか』
「………いや、今は手を出さねぇ。だが最悪の場合、俺が止める」
『やれるのか?』
「知らん」
最悪の場合。それは冷静さを失ったセラがスキルを使ってしまう場合。
何かしらの代償と引き換えに奇跡さえ起こすその能力は、強力であるが故に制御が出来ていないという、酷く不安定で危険な力だ。
森で身体が焼けた時にも思わず使ったというが、その時の代償はセラ自身のみに収まらず、周りのヤツキからも払われた。
酷く身勝手な契約行使。正しく《悪魔の取引》。
「セラぁ!!」
「あ!先輩!見に来てくれたんですか?」
走ってくる俺を見るなりそう反応するセラ。
声音は元気そうだが、その顔は血の気が引いていて、僅かに震えているように見える。
「セラお前、何でアーネに挑もうなんて?」
「だって二つ名になれるチャンスですよ?私の実力を知る機会でもありますし、先輩以外の二つ名級の本気、知りたいじゃないですか。挑むしかありませんよ!」
声だけは元気に。しかしやはり顔に生気がなく、身体も僅かに震えていた。
「本音を言え。お前も知ってるだろう。アーネは炎の魔法のスペシャリスト。威力も多彩さもお前の知ってるような魔法使いとは桁違いだ。そんな奴になぜお前は挑む?」
一度、訓練所が揺れた。
そして誰かの太い咆哮も。もしかしたら苦痛の叫びかもしれないそれは、妙に耳に残る声だった。
「だって、悔しいじゃないですか」
ようやくセラが口を開く。
「皆が色んな困難を乗り越えて前に進んでいくのに、私だけ貰った手足で嫌いなものは避けて進んで。これじゃ、あの日からずっと、負けっぱなしじゃないですか」
「挑む時、相手があるだろう。もっと後から、段階を踏んででもいい。今アーネと戦うのは無謀だ。勇気と履き違えるな」
「でも私は今挑戦したいんです。このまま少しずつ進んでちゃ周りに追いつけない。勝てなかったトラウマを、それより大きな相手に打ち勝って克服したいんです」
これは…何を言っても変わらんな。
「なら好きにしろ。だが不味いと思ったら止める。お前も降参しろよ」
「えー…私が勝つとは思わないんですか?あるいは後輩に応援とか」
「悪いが、後輩と彼女なら彼女を応援するね。頑張るなとは言わんが」
と言うと、セラが「え!?」と声を上げる。
「先輩とアーネさんって付き合ってたんですか!?」
「なんだ、知らなかったのか?元々そう言う部屋だし知ってると思ってたんだが」
「いやそうなんですけど…なんか先輩とアーネさんって、仲いいんですけど恋人とかそんな関係じゃない気がするんですよねぇ…それに、先輩の性別が本当に男なのかどうなのかって未だに賭けの対象ですし」
「待て、なんだそれは。聞いたことないぞ」
「ちなみに先週までのオッズは女一・二倍、男三・一倍です」
「聖学の連中は馬鹿なのか?」
「さらに余談ですけど、大穴で雌雄同体が十二倍です」
「本当に馬鹿じゃねぇのか?おい、元締め誰だ。後でシバく」
「あっはっはっは」
「笑ってる場合じゃねぇぞ全く……少しは気が楽になったか?」
「えぇ。ありがとうございます」
そう言ったタイミングで、訓練所の扉が開かれ、男が一人呻きながらユーリアに運ばれて行った。
「さっきも言ったが応援はしない。だが無理はするな。じゃ、行ってこい」
「…はい」
そう言った彼女の身体の震えは、もう止まっていた。
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