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本編
開戦と炎
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確かに戦力は欲しい。しかも本物の完全な《勇者》ともなれば英雄を凌ぐ程の力を持つ。そんな戦士などこの結界の中に何人いるか。
戦力としては充分すぎるどころか、予想を遥かに上回るものではある。
ただ、俺自身と想像を絶するぐらいに相性が悪いことを除けば。
こちらから頼み込んでいる状態な上、個人同士の感情を無視すればこの上ない戦力なのは間違いないので、断るという選択肢は無いのだが。
しかしうーん…アイツかぁ…
せめて関わり合わない位置で互いに行動したいのだが、奴も《勇者》である以上、その事を隠しつつ力を充分発揮したいだろう。
ならば恐らく取るのは単体行動。それにこれは奴とっても数少ない結界の外に出るチャンス。この機会を逃す手立てはないと思っているはず。
弾丸のように打ち込んで終わりの特攻戦術を取るのか、あるいは生き残るにしてももう結界の中に戻る気は無いのか。それとも大打撃を与えつつ、生きて結界に戻る事を望むのなら──もしかしたら、俺と同じ結論に至るのかもしれない。
万が一そうなった時、協力出来るのかどうか。
「………。」
とりあえず、今はこの事を考えるのを辞めるとしよう。まずは目先の二つ名争奪戦か。
つっても今回の争奪戦は期間も短いし対象も一人。場所も指定だからそんなに大変じゃない。
それに挑む生徒そのものが減ってしまったのだから、作業量としても減るだろう。
それでもやらなくてはならんことはそこそこあるのだが。
ルールの変更点はこの前言った通り。後はいつもの争奪戦と同じように挑戦権は一人一回、フィールド無し、などと言ったところか。
ちなみに今回、候補が一人なので二つ名持ちの方にかなり余裕がある。そのため二人一組かつ時間交代制となっている。楽でいい事だ。
まぁ、どうせ暇なんでずっと見てるつもりなんだが。
そんなこんなで一日の告知の後、争奪戦が開幕した。
昨日今日と余程魔力を溜め込んだのか、結構な大技を連発するアーネだが、魔力切れをする様子はまるでない。
「準備は万端って感じか」
『動きのキレも良いし、詰めようとする奴の対処も上手い。かと言って離れればただの的だし、下手に魔法戦を仕掛けても火力的に絶対に勝てない』
「まぁ、アーネは魔法特化のひとつの形だしな…」
アーネの十八番の魔法陣設置。
仕組みとしては、魔力を流せば魔法陣に設定してある魔法が自動で放たれるという物。
一見強く見えるが、この魔法には三つ欠点がある。
一つ、設定出来る魔法そのものはそこまで複雑化出来ないので火力に乏しい点。
二つ、発動とは別に、常に魔法陣維持の魔力を持っていかれるため、魔力消費が大きい点。
三つ、魔法陣が自動でしてくれるのは魔法の発動だけで、照準などは全て自力でつける必要がある点。
そのため、本来なら「これを使うなら普通の魔法を編む事に集中するか、使い切りだがもっと性能のいい魔法陣を設置した方が手っ取り早いし魔力も安くて済む」となる。
だがアーネなら。
一度発動してしまえば、《圧縮》による高火力の弾を蓄えた魔力で延々と撃ち続け、本命の魔法を当てる一助とすることが出来る。
それに、彼女はひたすらに努力を続けて来た。
魔法の才能が無くとも、ひたすらに努力を続けた。魔法についての努力も、それ以外の努力も。
魔法陣の構築速度、置く場所、威力、狙い、接近された場合の対処、即座に扱える切り札、もしもの保険。
出来ることは何でもしていた。一年以上近くにいた俺がそれをよく知っている。
入学当初の、「近づかれる前に仕留める」という思考から、「近づかれても仕留められる」という動きに。そしてどういう状況になったらどの魔法を使うのかという判断も磨かれた。
単色の魔力しか使えないが故に魔法の汎用性に乏しく、故に鍛え抜かれた火色の魔法。
そこには複数の魔力を扱う多彩さは無くとも、工夫を凝らした彼女だけの炎の魔法がある。
訓練所一杯に広がった炎の花弁。もちろん放ったのはアーネ。
ヒラヒラと落ちるそれらのなんと美しい事か。
一方で戦っている生徒にはそれが絶望にしか映らないだろう。
何十、下手をすれば百を超えるこれら全てが触れるだけで全身を焼く大業火となるのだから。
「降参だ!降参する!」
挑戦者がそう言った瞬間、横から《雷光》が飛び込み、即座に訓練所から生徒を助け出す。
「今ので何人目だっけ」
『六人目。結構早いな』
「ふーむ…」
俺の上にも落ちてきた花弁を金剣で払い落とすと、一瞬だけ金剣が恐ろしい勢いで燃えた。
「…どういう魔法を作ったのやら」
金属すら燃やす炎とは。生身で受ければ《勇者》ですら危うい魔法だろう。
やっぱりすげぇな、アーネは。
戦力としては充分すぎるどころか、予想を遥かに上回るものではある。
ただ、俺自身と想像を絶するぐらいに相性が悪いことを除けば。
こちらから頼み込んでいる状態な上、個人同士の感情を無視すればこの上ない戦力なのは間違いないので、断るという選択肢は無いのだが。
しかしうーん…アイツかぁ…
せめて関わり合わない位置で互いに行動したいのだが、奴も《勇者》である以上、その事を隠しつつ力を充分発揮したいだろう。
ならば恐らく取るのは単体行動。それにこれは奴とっても数少ない結界の外に出るチャンス。この機会を逃す手立てはないと思っているはず。
弾丸のように打ち込んで終わりの特攻戦術を取るのか、あるいは生き残るにしてももう結界の中に戻る気は無いのか。それとも大打撃を与えつつ、生きて結界に戻る事を望むのなら──もしかしたら、俺と同じ結論に至るのかもしれない。
万が一そうなった時、協力出来るのかどうか。
「………。」
とりあえず、今はこの事を考えるのを辞めるとしよう。まずは目先の二つ名争奪戦か。
つっても今回の争奪戦は期間も短いし対象も一人。場所も指定だからそんなに大変じゃない。
それに挑む生徒そのものが減ってしまったのだから、作業量としても減るだろう。
それでもやらなくてはならんことはそこそこあるのだが。
ルールの変更点はこの前言った通り。後はいつもの争奪戦と同じように挑戦権は一人一回、フィールド無し、などと言ったところか。
ちなみに今回、候補が一人なので二つ名持ちの方にかなり余裕がある。そのため二人一組かつ時間交代制となっている。楽でいい事だ。
まぁ、どうせ暇なんでずっと見てるつもりなんだが。
そんなこんなで一日の告知の後、争奪戦が開幕した。
昨日今日と余程魔力を溜め込んだのか、結構な大技を連発するアーネだが、魔力切れをする様子はまるでない。
「準備は万端って感じか」
『動きのキレも良いし、詰めようとする奴の対処も上手い。かと言って離れればただの的だし、下手に魔法戦を仕掛けても火力的に絶対に勝てない』
「まぁ、アーネは魔法特化のひとつの形だしな…」
アーネの十八番の魔法陣設置。
仕組みとしては、魔力を流せば魔法陣に設定してある魔法が自動で放たれるという物。
一見強く見えるが、この魔法には三つ欠点がある。
一つ、設定出来る魔法そのものはそこまで複雑化出来ないので火力に乏しい点。
二つ、発動とは別に、常に魔法陣維持の魔力を持っていかれるため、魔力消費が大きい点。
三つ、魔法陣が自動でしてくれるのは魔法の発動だけで、照準などは全て自力でつける必要がある点。
そのため、本来なら「これを使うなら普通の魔法を編む事に集中するか、使い切りだがもっと性能のいい魔法陣を設置した方が手っ取り早いし魔力も安くて済む」となる。
だがアーネなら。
一度発動してしまえば、《圧縮》による高火力の弾を蓄えた魔力で延々と撃ち続け、本命の魔法を当てる一助とすることが出来る。
それに、彼女はひたすらに努力を続けて来た。
魔法の才能が無くとも、ひたすらに努力を続けた。魔法についての努力も、それ以外の努力も。
魔法陣の構築速度、置く場所、威力、狙い、接近された場合の対処、即座に扱える切り札、もしもの保険。
出来ることは何でもしていた。一年以上近くにいた俺がそれをよく知っている。
入学当初の、「近づかれる前に仕留める」という思考から、「近づかれても仕留められる」という動きに。そしてどういう状況になったらどの魔法を使うのかという判断も磨かれた。
単色の魔力しか使えないが故に魔法の汎用性に乏しく、故に鍛え抜かれた火色の魔法。
そこには複数の魔力を扱う多彩さは無くとも、工夫を凝らした彼女だけの炎の魔法がある。
訓練所一杯に広がった炎の花弁。もちろん放ったのはアーネ。
ヒラヒラと落ちるそれらのなんと美しい事か。
一方で戦っている生徒にはそれが絶望にしか映らないだろう。
何十、下手をすれば百を超えるこれら全てが触れるだけで全身を焼く大業火となるのだから。
「降参だ!降参する!」
挑戦者がそう言った瞬間、横から《雷光》が飛び込み、即座に訓練所から生徒を助け出す。
「今ので何人目だっけ」
『六人目。結構早いな』
「ふーむ…」
俺の上にも落ちてきた花弁を金剣で払い落とすと、一瞬だけ金剣が恐ろしい勢いで燃えた。
「…どういう魔法を作ったのやら」
金属すら燃やす炎とは。生身で受ければ《勇者》ですら危うい魔法だろう。
やっぱりすげぇな、アーネは。
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