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本編
番人と耳長種
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森に入っておよそ五分。
「なぁユーリア」
「なんだレィア」
「気色悪いぐらいくっつくのやめてくんね?」
ピタリ、という擬音がこれ程似合っている状況もあるまいと言わんばかりの密着度合い。
具体的に言えば、俺の二センチ後ろにユーリアの顔がある。正直歩きにくいったらありゃしない。
「し、しかしだな。こうも暗くて不気味で薄気味悪い所は体験したことがなくてな」
「お前アレか?お化け系苦手なのか?でもそんなの出られても、俺はどうしようもできないぞ?」
所謂霊体系。物理が一切効かないレアな魔獣で、もし仮にそれが来られたら俺じゃ絶対に対処出来ない。
物理で対処するには特殊なアイテム、聖水などを剣にかけてようやくダメージが通るようになる。
「まぁ…あまり得意ではないが対処はできるな。いや、ではなくてだな。普通にこの森がずっと嫌な…誰かに見られてるような怖気がな?」
「んー?」
『そんな事…んん…全力で周り探してるが、特に何も無いぞ』
カサカサっ、と音がしてユーリアが飛び跳ね、そちらの方へ火球を放とうとして慌てて素手で止める。
「馬鹿!トカゲだありゃ!普通のトカゲ!」
というか、森の中で炎の魔法なんか使うんじゃねぇ。万が一燃え広がったらどうすんだ。
「す、すまない…ちょっと敏感になっててな…」
『マジでこいつ置いてきた方がいいんじゃねぇか?』
どうすっかな、一旦家の中に通せば多少は落ち着くと思うんだが…
「両手を上げて動くな」
ピタリ、と。
俺とシャルの索敵の裏を突き、誰かが俺のすぐ後ろにくっついていたはずのユーリアに気付かれずに近づいて、首筋に磨き抜かれたナイフを当てていた。
「ッ!?」
パニックになりかけるユーリア。しかし動けば死ぬと即座に理解し、静かに両手をあげる。
「おいレィア、誰だこれ」
「随分早いな。それに元気そうだ。ヤツキ、久しぶり」
「そんなことはどうでもいい。これはなんだと聞いている」
「落ち着け、ヤツキもストップ。俺の知り合いでユーリアってんだ。本当は俺一人で来るつもりだったんだが、勝手に着いて来た。害とか無いから、とりあえずヤツキもそれ下ろしてくれ」
そう言うが、ヤツキは首にナイフをあてがったまま。そしてじっとユーリアの顔を見つめ、眉根を寄せながら俺に一言「耳長種だ」と言った。
「あぁそうだ。ユーリアは耳長種だ。それがどうかしたか?」
「どうかしたかだと?お前《ゆ──っ…知らないのか?」
「あ?何が?」
と言ってから、そう言えば昔、ヤツキ…というかその中のシャルとユーリアの先祖…いや原種?ともかく《勇者》と機人とで争っていた訳だが…まさかそれで敏感になってんのか?だが既にハーフとなって機人の血は薄まり、ヒトの血に限りなく近しいものになっている。ちょいと根が深すぎやしないか?
「…過去にいざこざがあったのは知ってるが…今はそう言ってる場合でもない。それに、ちょいとヤツキ安否確認と結界のチェックに来ただけだ。すぐ出てくから、少しの間勘弁してくれ」
そう言うと、ヤツキは短く「何日だ」と聞き、俺がそれに「一日、長くても二日だ」と答えると、舌打ちしてからナイフをユーリアの首筋から離した。
「後でお前と話がある。二人きりでだ。分かったな」
「あぁ分かった。後で必ず行く」
ヤツキはそのまま家の方角へ。ユーリアはくたっ、とその場に崩れ落ち、俺は慌ててユーリアのフォローに行く。
「悪いユーリア。アイツ、昔ちょいと耳長種…っつーか貴族連中全体と色々あってな。そのせいで…ユーリア?どうかしたか?」
「い、いやな、その、なんというかな、はは、あれが本物の殺気と言うものなのか。腰が抜けて膝が笑ってる。悪いがレィア、おぶってもらえるか?」
「………まぁ気持ちはわかるが…仕方ねぇな」
ヤツキってかナナキもそうだったが、本気で殺すという波動を出していると、魔獣ですら萎縮する。得物を喉に当てた状態でそうされてたのなら漏らさなかっただけマシか。
「じゃ、行くぞ」
「お、おぉ!?」
髪で彼女を引っ付かみ、ヤツキの後を追う。とりあえずは元気そうだったが…少し色々聞いた方がいいだろうな。
「なぁユーリア」
「なんだレィア」
「気色悪いぐらいくっつくのやめてくんね?」
ピタリ、という擬音がこれ程似合っている状況もあるまいと言わんばかりの密着度合い。
具体的に言えば、俺の二センチ後ろにユーリアの顔がある。正直歩きにくいったらありゃしない。
「し、しかしだな。こうも暗くて不気味で薄気味悪い所は体験したことがなくてな」
「お前アレか?お化け系苦手なのか?でもそんなの出られても、俺はどうしようもできないぞ?」
所謂霊体系。物理が一切効かないレアな魔獣で、もし仮にそれが来られたら俺じゃ絶対に対処出来ない。
物理で対処するには特殊なアイテム、聖水などを剣にかけてようやくダメージが通るようになる。
「まぁ…あまり得意ではないが対処はできるな。いや、ではなくてだな。普通にこの森がずっと嫌な…誰かに見られてるような怖気がな?」
「んー?」
『そんな事…んん…全力で周り探してるが、特に何も無いぞ』
カサカサっ、と音がしてユーリアが飛び跳ね、そちらの方へ火球を放とうとして慌てて素手で止める。
「馬鹿!トカゲだありゃ!普通のトカゲ!」
というか、森の中で炎の魔法なんか使うんじゃねぇ。万が一燃え広がったらどうすんだ。
「す、すまない…ちょっと敏感になっててな…」
『マジでこいつ置いてきた方がいいんじゃねぇか?』
どうすっかな、一旦家の中に通せば多少は落ち着くと思うんだが…
「両手を上げて動くな」
ピタリ、と。
俺とシャルの索敵の裏を突き、誰かが俺のすぐ後ろにくっついていたはずのユーリアに気付かれずに近づいて、首筋に磨き抜かれたナイフを当てていた。
「ッ!?」
パニックになりかけるユーリア。しかし動けば死ぬと即座に理解し、静かに両手をあげる。
「おいレィア、誰だこれ」
「随分早いな。それに元気そうだ。ヤツキ、久しぶり」
「そんなことはどうでもいい。これはなんだと聞いている」
「落ち着け、ヤツキもストップ。俺の知り合いでユーリアってんだ。本当は俺一人で来るつもりだったんだが、勝手に着いて来た。害とか無いから、とりあえずヤツキもそれ下ろしてくれ」
そう言うが、ヤツキは首にナイフをあてがったまま。そしてじっとユーリアの顔を見つめ、眉根を寄せながら俺に一言「耳長種だ」と言った。
「あぁそうだ。ユーリアは耳長種だ。それがどうかしたか?」
「どうかしたかだと?お前《ゆ──っ…知らないのか?」
「あ?何が?」
と言ってから、そう言えば昔、ヤツキ…というかその中のシャルとユーリアの先祖…いや原種?ともかく《勇者》と機人とで争っていた訳だが…まさかそれで敏感になってんのか?だが既にハーフとなって機人の血は薄まり、ヒトの血に限りなく近しいものになっている。ちょいと根が深すぎやしないか?
「…過去にいざこざがあったのは知ってるが…今はそう言ってる場合でもない。それに、ちょいとヤツキ安否確認と結界のチェックに来ただけだ。すぐ出てくから、少しの間勘弁してくれ」
そう言うと、ヤツキは短く「何日だ」と聞き、俺がそれに「一日、長くても二日だ」と答えると、舌打ちしてからナイフをユーリアの首筋から離した。
「後でお前と話がある。二人きりでだ。分かったな」
「あぁ分かった。後で必ず行く」
ヤツキはそのまま家の方角へ。ユーリアはくたっ、とその場に崩れ落ち、俺は慌ててユーリアのフォローに行く。
「悪いユーリア。アイツ、昔ちょいと耳長種…っつーか貴族連中全体と色々あってな。そのせいで…ユーリア?どうかしたか?」
「い、いやな、その、なんというかな、はは、あれが本物の殺気と言うものなのか。腰が抜けて膝が笑ってる。悪いがレィア、おぶってもらえるか?」
「………まぁ気持ちはわかるが…仕方ねぇな」
ヤツキってかナナキもそうだったが、本気で殺すという波動を出していると、魔獣ですら萎縮する。得物を喉に当てた状態でそうされてたのなら漏らさなかっただけマシか。
「じゃ、行くぞ」
「お、おぉ!?」
髪で彼女を引っ付かみ、ヤツキの後を追う。とりあえずは元気そうだったが…少し色々聞いた方がいいだろうな。
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