大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

名持ちと激突5

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「……………。」
カメレオンが無言で、構えも取らずにじっとユーリアを見つめる。
距離はざっと五メートル。すぐに詰めれはするが、詰める動きが必要な程度は間合いがある。
それ故か、両者がただただ静かに沈黙するだけという奇妙な時間が僅かに発生した。
「何故だ」
先に口を開いたのはカメレオン。
「何故とは?」
「何故追撃をしなかった?」
静かに腕を組み、乱れた呼吸を分からない程度に整えながら彼はそう聞いた。
「特に手加減せずにナイトの一撃を受けていたからな。もしこれで決着が着けばそれでいいと思っていた」
ユーリアがそう答える。
実際、無防備だった背面から、ナイトの一撃をモロに受けたのだから、むしろまだ動ける事が中々に驚きなのだが。
「…《貴刃》、お前は勝ち負けに執着していないのか?この戦いに負けてもいいと?」
「まさか。そんな奴はこんな所にいまい」
一方ユーリアは構えを解かず、カメレオンの一挙手一投足に目を向けたまま。いつでも斬りかかれるし、どんな行動にも即座に反応出来るようにしている。
「なら何故だ。何故俺に追撃をかけなかった?」
「だから言っただろう。そこで力尽きてくれていたら、それで終わらせていたと」
「馬鹿が。そこで立ち上がるから《二つ名》なのだろう?この場において、お前のその選択はただの慢心だ」
カメレオンがそう言った後、声を低くして続けた。
「お前らはいつもそうやって俺達を見下す…」
「…なんの事だ?」
「もっと貪欲になれよ!何故勝ちに拘らない!勝ちたいのなら何をしてでもそれを取りに行けよ!じゃないと聖学お前達を追いかける西学俺達がっ!あまりにもっ…!」
それから先は言葉にならない。
だから塗りつぶしたのだろう。
「《シェイプシフト》ッッッ!!」
より強い言葉で。
「《サイクロン》」
しかしユーリアも《シェイプシフト》で発生した煙を、一秒の間も無く風で吹き飛ばし、カメレオンを見逃さない。
煙に包まれそこなったカメレオンは、即座に前へ詰める。
「《シェイプシフト》って言う割に…動きは変わんねぇか」
むしろ速度は落ちた。全く遅くは無いのだが、あの超スピードは見る影もなく。
これならユーリアが戦うまでもなく、彼女の出した四体のナイトが囲んで叩いて終わり。そう思っていた。
だが。
ガァン!!と。
不可視のナイトが放った剣が、カメレオンの身体に弾かれた。
「硬い!」
先程は拳でも余裕で突き刺さった。しかし今は剣でも弾かれる。
よく見ればカメレオンの身体に鱗のような物が浮かび始めている。あれが本来の能力か?
「いや、鱗じゃねぇ…文字かあれ」
「文字?なんと書いてある」
《雷光》がそう聞くので一部読み上げるが、まるで意味がわからない。
意味がわからず音だけ拾って読んでいるので、聞く《雷光》も尚更分からないと言った感じ。
分かったのはシャルのみ。
『馬鹿かアイツ…ありゃ簡単に言えば《血呪》や《血鎧》と同じだ。多分皮膚の下に魔法陣を刻んである。魔力を通せばそれが反応して無詠唱、無動作で魔法が発動する』
そこだけ聞くと便利に思える。
だが勇者である俺ですらそこに違和感を感じる。
「自己対象の血界と同じ…?けどそれって」
『あぁそうだ。要は自分の魔力を体内で延々と回してる訳だ。多分身体中に制御用の石を幾つも埋め込んで、魔法陣を強引に切り替えているんだろう。それでも多分魔法陣は同系統の魔法二つが書き込める限度か。それに並列解放も出来ないだろうし、通常の魔法が一切使えないどころか、下手をすれば日常生活でも魔力が外に出ないだろうな』
「俺にはこれしか無かった!スキルも何も、他よりも秀でた所は無かった!だから切り捨て切り詰め!それでも上を目指す!お前みたいな奴を引きずり下ろすためにだッ!!」
絶叫と共にカメレオンが距離を詰める。
ユーリアもそれに気づいたのか、思い切り顔を顰めた。
「お前…そこまでして…」
「勝ちたいんだッ!!俺は!お前達にッ!!」
徐々にではない。凄まじい勢いで身体が膨張していくカメレオン。恐らく内蔵している魔法を最初の筋肉ダルマの方へと切り替えたのだろう。
ナイトの攻撃を頑丈な肌で受け止め、蹴散らし、強引に、無理矢理、我武者羅に。
速度は一歩目より二歩目が早く、三歩目は何よりも早い。
きっとカメレオンも限界に来ているのだ。走り方が若干おかしい。叩き落とされた時にどこかの骨をやったか。
それでも速い。既に先程までの超スピードへと追いつく加速度。そしてそれ以上に膨らんでいく体躯。拳だけで既にユーリアより大きい、最早ヒト型の化物といった風体か。
空いていた距離を一瞬で潰し、大きく拳を振り上げる。
「《デストロイ・スマッシュ》!!」
絶望的な質量、それを尋常ではない筋力で振り回し、ダッシュから繋げて威力を殺さずに叩きつける、ただただシンプルな拳。
それ故に莫大な威力を誇る拳を。
ユーリアはそれを全く回避しようとはしなかった。
当然カメレオンの拳はユーリアを真正面から捉え、鮮血がフィールドを濡らす。
「──え?」
拳を振り下ろした彼が一番困惑していた。
ユーリアは防御を固め、拳を真正面から受け、
「なるほど、傲慢か。そう言えば、いつだったかに私のスキルについて師匠が似たような事を言っていた。どこまで均して行けば対等な戦いができるのかと」
目の上を少し切ったか、眉の当たりからツゥ、と伝う血を親指で弾くように払う。
「個性というものがある以上、個人というものがある以上、それを無くして対等な戦いは出来ないし、対等に戦うというのは案外難しいものでな。だから私はこの場に限って、傲慢からなる対等を作った」
満身創痍にして、互いにあと一撃。そしてどちらもギアもかかっている。
「そんな…そんなもののためだけに俺の《デストロイ・スマッシュ》を受けたのか…?やはりお前は傲慢で俺達を見くびってる!」
「傲慢なのはどちらだ?カメレオン。まさかとは思うがお前…」
剣を敢えて下ろし、溜息をつき、そして言い放つ。
「お前と私が対等だとでも?随分と図々しいな」
「お前ッ!」
「構えろ《避役カメレオン》。どうせじきに終わるがな」
ユーリアがそう言った瞬間には、既にカメレオンは飛びかかっていた。
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