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本編
名持ちと激突2
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《避役》と名乗った男は、それから一変してユーリアを攻め始めた。
あろう事か武器も何も装備せず、素手と足のみでユーリアに殴りかかり始めたのだ。
「どうしたどうした!耳長種の嬢ちゃんよォ!?」
「っ……」
一言で言うなら小さな嵐。間断なく攻め続けるそれは暴力による災害とでも言うべきか。
それをユーリアは魔法を使う余裕もないのか、剣だけでどうにか応戦する。
しかし攻めへの起点が見つからず、じんわりと押され始めた。
「バケモンかよ」
思わずそう呟いた。
音が響く。剣と拳がぶつかり合う音だ。
しかしその音は決して一方的なものではなく、聞き慣れた対等な音。
即ち、金属同士がぶつかり合うギィンという音が響いていた。
どう考えても普通ならありえない光景。だが一度や二度ではなく、何度も起こってるこの現象を否定することは出来ない。
西学の制服も俺達と同じ仕組みらしいので、制服の下に見えない鎧がある可能性もあるのだが、完全に身体に触れた、という位置まで剣が降りているのに弾かれている。これでは鎧が間に挟まる隙間がない。
なら答えはひとつ、カメレオンは現在、皮膚の硬さが金属を超えている。
そんなことをすりゃ、そもそも関節とか曲がんないだろうに。
だがカメレオンはなんの不自由もなく動いているし、ユーリアが何度か関節を狙って攻撃しても、多少入りが浅かったにしろ無傷というのはひっかかる。
「そういうスキルか?」
「あながち間違いでは無いだろうが、正確には違うだろう。スキルと言うなら、先の《シェイプシフト》の方だ」
《雷光》が断言する。
「見ろ、奴の身体」
「言われなくても見てるよ。観客だってとっくのとうに気づいてる」
この短時間でカメレオンの身体が膨らんでいるのだ。それもモニターの映像を見るまでもなく、直にフィールドの方を見ても分かるほど明確に。
「シェイプシフトが魔法の可能性は?」
「無いだろう。私もそこまで魔法に明るくないが、詠唱を破棄して肉体にあそこまで強力な影響を出せる魔法なら、とっくの昔に耳長種が禁呪指定しているはずだ」
「なるほどね」
だからこそユーリアも慎重なのか。
パワーアップしているのは見た目だけではなく、当然拳の威力も増しているし、瞬発力も増す。
速度も少し上がっているようだが、他と比べれば緩やかか。と言っても、あれだけの質量がそこそこでも高速で動けば尋常ではない驚異になるのだが。
だが、やっている事は単調の極み。威力と速度を上げてひたすら距離を詰めて殴る。近接というのはなるほど、確かにそれに尽きるというのは間違いでは無い。
しかし。
「はぁ──────あ」
と。
ユーリアがため息をついた。
「多少は武錬になるかと思ったが。なんというか、存外面白くないな」
「何ィ…?」
ユーリアが突如、左の長剣を上に投げた。
その投げた剣、そして握る右の剣に同じ赤の燐光。
右の剣を両手で握り、真横に振り抜くモーションは非常に見覚えのある動き。
「げ、まさか」
「どうした?」
「いや…」
げんなりしつつ、ユーリアの動きを見守る。
左から右へと抜ける赤の一撃を、カメレオンは当然のように腕で受け止めようとして──失敗。
長剣があっさりと鋼の如き皮膚を切り裂き、カメレオンの右腕から血が迸る。
「なんっ!?」
慌てて下がるカメレオン。しかしその動きは悪手。なぜなら戦技はまだ終わっていないのだから。
振り抜いた勢いを殺さず、その場で横に一回転しつつ前へ踏み込む。
さらに左手を高々と上げ、振りかぶったユーリアに驚いたカメレオンがさらに後ろへ回避しようとするも、顔に笑みが広がる。
「剣は投げ捨てたんだったよなぁ!?」
カメレオンの言う通り、ユーリアの手には剣が無い。右の剣もあるにはあるが、あの体勢とは噛み合わない。
だがカメレオン。
その戦技はまだ終わっていない。
カメレオンが向かい打とうと拳を握りしめ、前に一歩踏み出す。カウンター気味に放つ戦技は黄色の輝き。引き絞った拳は下手な魔法よりも威力があるのだろうと一目で分かるほど輝き、もはや名すら呼ばない。
「吹っ飛び──あ?」
そこになって初めて気づく。
ユーリアの左手に、再び長剣が収まっていることに。
「曲芸師かテメェはッ!?」
投げた剣が遅れて彼女の手に飛んで来た。ここまで戦技に組み込まれている。そう理解したのは既に遅い。
発動した戦技は、もはや緊急停止した所で意味を成さない。
そして今から放つ拳よりも、既に放たれている剣の方が早い。
カメレオンの身体に深々と左の斬撃が叩き込まれ、ユーリアがその戦技を添えるように言った。
「戦技──《我断》」
あろう事か武器も何も装備せず、素手と足のみでユーリアに殴りかかり始めたのだ。
「どうしたどうした!耳長種の嬢ちゃんよォ!?」
「っ……」
一言で言うなら小さな嵐。間断なく攻め続けるそれは暴力による災害とでも言うべきか。
それをユーリアは魔法を使う余裕もないのか、剣だけでどうにか応戦する。
しかし攻めへの起点が見つからず、じんわりと押され始めた。
「バケモンかよ」
思わずそう呟いた。
音が響く。剣と拳がぶつかり合う音だ。
しかしその音は決して一方的なものではなく、聞き慣れた対等な音。
即ち、金属同士がぶつかり合うギィンという音が響いていた。
どう考えても普通ならありえない光景。だが一度や二度ではなく、何度も起こってるこの現象を否定することは出来ない。
西学の制服も俺達と同じ仕組みらしいので、制服の下に見えない鎧がある可能性もあるのだが、完全に身体に触れた、という位置まで剣が降りているのに弾かれている。これでは鎧が間に挟まる隙間がない。
なら答えはひとつ、カメレオンは現在、皮膚の硬さが金属を超えている。
そんなことをすりゃ、そもそも関節とか曲がんないだろうに。
だがカメレオンはなんの不自由もなく動いているし、ユーリアが何度か関節を狙って攻撃しても、多少入りが浅かったにしろ無傷というのはひっかかる。
「そういうスキルか?」
「あながち間違いでは無いだろうが、正確には違うだろう。スキルと言うなら、先の《シェイプシフト》の方だ」
《雷光》が断言する。
「見ろ、奴の身体」
「言われなくても見てるよ。観客だってとっくのとうに気づいてる」
この短時間でカメレオンの身体が膨らんでいるのだ。それもモニターの映像を見るまでもなく、直にフィールドの方を見ても分かるほど明確に。
「シェイプシフトが魔法の可能性は?」
「無いだろう。私もそこまで魔法に明るくないが、詠唱を破棄して肉体にあそこまで強力な影響を出せる魔法なら、とっくの昔に耳長種が禁呪指定しているはずだ」
「なるほどね」
だからこそユーリアも慎重なのか。
パワーアップしているのは見た目だけではなく、当然拳の威力も増しているし、瞬発力も増す。
速度も少し上がっているようだが、他と比べれば緩やかか。と言っても、あれだけの質量がそこそこでも高速で動けば尋常ではない驚異になるのだが。
だが、やっている事は単調の極み。威力と速度を上げてひたすら距離を詰めて殴る。近接というのはなるほど、確かにそれに尽きるというのは間違いでは無い。
しかし。
「はぁ──────あ」
と。
ユーリアがため息をついた。
「多少は武錬になるかと思ったが。なんというか、存外面白くないな」
「何ィ…?」
ユーリアが突如、左の長剣を上に投げた。
その投げた剣、そして握る右の剣に同じ赤の燐光。
右の剣を両手で握り、真横に振り抜くモーションは非常に見覚えのある動き。
「げ、まさか」
「どうした?」
「いや…」
げんなりしつつ、ユーリアの動きを見守る。
左から右へと抜ける赤の一撃を、カメレオンは当然のように腕で受け止めようとして──失敗。
長剣があっさりと鋼の如き皮膚を切り裂き、カメレオンの右腕から血が迸る。
「なんっ!?」
慌てて下がるカメレオン。しかしその動きは悪手。なぜなら戦技はまだ終わっていないのだから。
振り抜いた勢いを殺さず、その場で横に一回転しつつ前へ踏み込む。
さらに左手を高々と上げ、振りかぶったユーリアに驚いたカメレオンがさらに後ろへ回避しようとするも、顔に笑みが広がる。
「剣は投げ捨てたんだったよなぁ!?」
カメレオンの言う通り、ユーリアの手には剣が無い。右の剣もあるにはあるが、あの体勢とは噛み合わない。
だがカメレオン。
その戦技はまだ終わっていない。
カメレオンが向かい打とうと拳を握りしめ、前に一歩踏み出す。カウンター気味に放つ戦技は黄色の輝き。引き絞った拳は下手な魔法よりも威力があるのだろうと一目で分かるほど輝き、もはや名すら呼ばない。
「吹っ飛び──あ?」
そこになって初めて気づく。
ユーリアの左手に、再び長剣が収まっていることに。
「曲芸師かテメェはッ!?」
投げた剣が遅れて彼女の手に飛んで来た。ここまで戦技に組み込まれている。そう理解したのは既に遅い。
発動した戦技は、もはや緊急停止した所で意味を成さない。
そして今から放つ拳よりも、既に放たれている剣の方が早い。
カメレオンの身体に深々と左の斬撃が叩き込まれ、ユーリアがその戦技を添えるように言った。
「戦技──《我断》」
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