大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

音と影 終

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「なんっ!?」
自分の声が自分自身にすら聞こえない程の爆音。反射的に両手で耳を塞いで目を閉じ、一瞬身を屈める。
恐る恐る身を起こすと、タイミングがちょうど重なったのか、「ヒ」という声の第二波。
「なんだアレ…」
ん、マキナがメッセージを伝えている。髪で千切って素早く耳に詰める。
『聞こえるか《緋眼騎士》、《貴刃》』
「聞こえる。ユーリアは?」
『あぁ聞こえるぞ。鼓膜が破れるかと思った』
『悪い。まさかこんな場で広範囲かつ高威力の魔法を使うとは思っていなかった』
「どんな魔法か知ってるっぽいな。なんなんだ《ハヒフヘホウ》ってのは」
フィールドの中では西学の生徒がすっ飛ばされ、フィールド自体が割れ、パートナーのセンブルスすらも巻き込まれる。
『《貴刃》なら知っているだろう。拡声系の魔法を』
『あぁ、周りの人に呼びかけたりする時に使うヤツだな。出した音をコピーして拡大する事で音を大きくする魔法』
『魔法の中身はアレと同じだ。拡声の魔法よりずっと数は多いらしいが。それにセレーネのスキルが乗って今の魔法が出来上がっている…らしい』
「どういうスキルなんだ?」
『それは私も知らん。ともかく、私達は障壁の外にいるから「うるさい」程度で済むが、その威力は見た通りだ』
それは爆発よりも威力を持った爆音。闘技場全てを震わせるただただ馬鹿デカい声。
馬鹿デカいだけの声だと言うのに、その声は周りのありとあらゆるものを破壊した。
割れたフィールドは彼女を中心に外へと亀裂を入れ、近くにいたセンブルスすらも巻き込むが、彼はそこまでのダメージは受けていないらしい。
一方で西学の生徒はこの魔法に対する防御策は一切取れておらず、一撃目で吹き飛ばされ、残る音をどうにか防御しようとしたが…純粋な音の暴力を防御するなど、どうやって出来ようか。
高威力、広範囲、防御不可の音による大破壊魔法。
それでも西学の生徒は立ってみせた。
耳から血を流しつつ、ふらりふらりと女魔法使いが身を起こす。
「まだやるの?降参は受け付けるわよ?」
既にセルはフィールドに倒れ伏し、ピクリとも動かない。終始サポートに回っていた彼女が要であるセルを失えば勝ち目はない。
セレーネもそう思い、降参を勧めたのだろう。
それに対し、リィンは一言こう返した。
「《大暴れランペイジ》」
スキルのトリガーか、あるいはこっそりと裏で魔法を組んでいたのか。
リィンの周りから黒い影が湧き上がり、一気に駆け出した。
「何──」
数は五、六、七…もっと。今まで戦っていたセルの幻影、それが彼女の影から湧き出始める。
しかし幻影と分かっていれば対処も簡単。
「センブルス!」
「応とも!」
振り上げた槌を振り下ろし、既に割れているフィールドの破片を幻影達に向かって飛ばす。
幻影は回避すら取らず、ただひたすらにこちらへ走ってくるだけ。
当然破片を回避しようともせず、無数の破片が身体を貫く。しかし当たった瞬間、幻影達は消えていくのではなく、それと同時に耳障りかつ異常に大きな音と共に爆破する。
「面倒な魔法ね!」
舌打ちをしつつセレーネがそう言う。
「下がって!」
しかし、その僅かな隙で再び魔法を組み直したのか、セレーネが前に出て大きく息を吸う。
「「《破非腑減砲》」──え?」
その名前を言ったのは二人。
セレーネとリィン。
直後、爆発の音。文字通りの爆音がフィールドに響く。
「あの女…まさかこの短時間で魔法をコピーしたのか!?」
いや、だがそれだけでは意味が無い。
《雷光》の話の通りなら、《破非腑減砲》はセレーネのスキルも絡む魔法。
魔法だけをコピーした所で大した威力も出ないただの爆音。
だが魔法によって拡張された音はリィンの声ではなく、耳障りな音を立てて爆発する幻影の音だった。
ただの音でも、それに光が伴って目の前で弾ければ、ほんの一瞬、咄嗟の防御反応として隙が生まれる。
その隙を縫って二体のセルが肉薄する。
「させぬッ!!」
センブルスが爆破覚悟でセルの幻影に槌を落とす。
その瞬間、その二体のセルはひょい、と。
槌を避けた。
「な──」
「まさかアイツ」
倒れ伏していたセル本人。その姿は既にもう同じ場所には無かった。
俺もセンブルスも、気づいた時にはもう遅い。
「「戦技アーツ《バックバイター》」」
正面と背面、本体と分身によって同時に突き刺された短剣。
そのままぐるりとセンブルスの身体の周りを走るように切り、そして短剣を抜く。
「センブルスっ!!」
セレーネが目を開けた瞬間に映ったのは崩れ落ちるセンブルスの姿。
そしてその奥から迫り来るセルとその幻影。
「ッ、あ──」
大きく息を吸い直し、しかしセレーネの動きが、センブルスを見て止まった。
その隙を西学が逃す訳が無い。
セレーネの身体に短剣が突き立ち、セレーネもセンブルスも戦闘続行が不可能と見なされ、試合が終了した。
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