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本編
赤髪と闘技場
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湧き上がる歓声と共にアーネがフィールドへ乗り、同時に向こう側の選手も入場。ド真ん中で喋り散らしていた司会者もいつの間にか移動しており、観客席より前に出た実況席とでも言うのだろうか。そこへと移っていた。
『さぁ──!!両者構えて!それでは第一試合、聖学のアーネ・ケイナズ選手対西学のトイ・ブロン選手、開幕です!!』
そう言った瞬間、西学のトイが距離を詰めにかかる。手には蒼銀の剣と同じ色の盾。オーソドックスな剣士型か。
互いに円の端同士、とはいえ多少は内側に入っているので距離はざっと二十メートル程か。この間合いは完全に魔法使いであるアーネの間合いだが、一流の戦士なら他愛もなく踏み潰せる間合いでもある。
実際、トイは盾を構えて一直線に突進。残像が残るほどの瞬発力で一気に間合いを詰めた。
対するアーネは未だ一言も喋っておらず、ロクに動いてすらいない。杖も無ければ剣もない。周りから見ればただただ無防備なこの状態。
「食らえッ!!」
なんの遠慮もない刺突。突進の勢いを乗せた致命の一撃。トイはそれをアーネの腹へ向かって放った。
魔法使いであれば真っ向から防ぐ事は出来ないような刺突、それをアーネはひらりと避けた。
「ッ!」
そして、すれ違うと同時にトイの身体が突進の向きとはまるで関係の無い真横へと吹っ飛ばされた。
「グゥッ!?」
「あら、防ぎましたのね。流石ですわ」
「『こっわ…』」
俺とシャルが思わず声を揃えてそう言った。
アーネがやったのは実にシンプル。相手の攻撃をスレスレで回避し、代わりに手が触れる程の近距離で無詠唱の火球を圧縮して放っただけ。
それをトイは盾で受けつつ真横に飛び直し、衝撃を和らげつつも盾で弾いたのだ。
その判断は全てが正しい。受け止めたのでは無く盾の表面で滑らせるように弾く。そうしたのに、トイの盾の表面が溶け抉れていた。
「かかって来なさいな。いくらでも相手をして差し上げますわ」
「………。」
そう言ってもトイは反応しない。盾を構え、その奥からアーネを見つめる。
「来ないのなら、こちらから行きますわよ?」
余裕の笑みすら見せつつ、彼女が魔法使いの本領である詠唱を始めた。
「《炎の顎、燃え立つ牙、姿を借りるは灼熱の竜──」
それが始まった瞬間、トイが突っ込んだ。
魔法使いの代名詞でもある詠唱。しかしそれは術式の構築に集中する以上、どうしても生まれる隙でもあり、誰もが狙う当たり前の弱点。
だから魔法使いは詠唱を少しでも短くするか、分からないように隠す。無詠唱や韻を踏むのはそれらの集大成。
だがアーネはそれを使わない。いや、ともすれば使えないのかもしれない。どちらも相当に高度な技術。魔法の難度が上がれば、当然無詠唱や韻の難易度も跳ね上がる。
トイが攻め込み、しかしアーネは慌てた様子も焦る様子もない。
横薙ぎで胴を裂く剣に対し、彼女はどこからともなく、短剣を取り出した。
「あれは──」『──!!』
しゃおん、と。
涼やかな音が響いた。
彼女が手にしていたのはずっと昔にも見た、文字が刻まれた厚めの短剣。
それがまるで流れるように動き、振られた剣の軌道を滑らせるように変えて、弾いた。
そして今だから一目見て分かった。あの短剣は魔導具としての意味を持ち、同時にユーリアの剣のように杖としても機能する触媒であると。
どういう能力があるかは不明だが、相当な代物だろう。
さらにアーネの詠唱は終わっていない。
「──それは涙すら焼き尽くす。生まれ落ちるは破壊の化身》」
そっと、剣を受け流された影響で無防備なトイに手のひらを向ける。
「《炎竜の顎》」
直後、彼女の手から身の丈を超える巨大な炎の竜の顔が飛び出し、そして大口を開けてトイを丸ごと喰らい尽くすように口を閉じた。
『さぁ──!!両者構えて!それでは第一試合、聖学のアーネ・ケイナズ選手対西学のトイ・ブロン選手、開幕です!!』
そう言った瞬間、西学のトイが距離を詰めにかかる。手には蒼銀の剣と同じ色の盾。オーソドックスな剣士型か。
互いに円の端同士、とはいえ多少は内側に入っているので距離はざっと二十メートル程か。この間合いは完全に魔法使いであるアーネの間合いだが、一流の戦士なら他愛もなく踏み潰せる間合いでもある。
実際、トイは盾を構えて一直線に突進。残像が残るほどの瞬発力で一気に間合いを詰めた。
対するアーネは未だ一言も喋っておらず、ロクに動いてすらいない。杖も無ければ剣もない。周りから見ればただただ無防備なこの状態。
「食らえッ!!」
なんの遠慮もない刺突。突進の勢いを乗せた致命の一撃。トイはそれをアーネの腹へ向かって放った。
魔法使いであれば真っ向から防ぐ事は出来ないような刺突、それをアーネはひらりと避けた。
「ッ!」
そして、すれ違うと同時にトイの身体が突進の向きとはまるで関係の無い真横へと吹っ飛ばされた。
「グゥッ!?」
「あら、防ぎましたのね。流石ですわ」
「『こっわ…』」
俺とシャルが思わず声を揃えてそう言った。
アーネがやったのは実にシンプル。相手の攻撃をスレスレで回避し、代わりに手が触れる程の近距離で無詠唱の火球を圧縮して放っただけ。
それをトイは盾で受けつつ真横に飛び直し、衝撃を和らげつつも盾で弾いたのだ。
その判断は全てが正しい。受け止めたのでは無く盾の表面で滑らせるように弾く。そうしたのに、トイの盾の表面が溶け抉れていた。
「かかって来なさいな。いくらでも相手をして差し上げますわ」
「………。」
そう言ってもトイは反応しない。盾を構え、その奥からアーネを見つめる。
「来ないのなら、こちらから行きますわよ?」
余裕の笑みすら見せつつ、彼女が魔法使いの本領である詠唱を始めた。
「《炎の顎、燃え立つ牙、姿を借りるは灼熱の竜──」
それが始まった瞬間、トイが突っ込んだ。
魔法使いの代名詞でもある詠唱。しかしそれは術式の構築に集中する以上、どうしても生まれる隙でもあり、誰もが狙う当たり前の弱点。
だから魔法使いは詠唱を少しでも短くするか、分からないように隠す。無詠唱や韻を踏むのはそれらの集大成。
だがアーネはそれを使わない。いや、ともすれば使えないのかもしれない。どちらも相当に高度な技術。魔法の難度が上がれば、当然無詠唱や韻の難易度も跳ね上がる。
トイが攻め込み、しかしアーネは慌てた様子も焦る様子もない。
横薙ぎで胴を裂く剣に対し、彼女はどこからともなく、短剣を取り出した。
「あれは──」『──!!』
しゃおん、と。
涼やかな音が響いた。
彼女が手にしていたのはずっと昔にも見た、文字が刻まれた厚めの短剣。
それがまるで流れるように動き、振られた剣の軌道を滑らせるように変えて、弾いた。
そして今だから一目見て分かった。あの短剣は魔導具としての意味を持ち、同時にユーリアの剣のように杖としても機能する触媒であると。
どういう能力があるかは不明だが、相当な代物だろう。
さらにアーネの詠唱は終わっていない。
「──それは涙すら焼き尽くす。生まれ落ちるは破壊の化身》」
そっと、剣を受け流された影響で無防備なトイに手のひらを向ける。
「《炎竜の顎》」
直後、彼女の手から身の丈を超える巨大な炎の竜の顔が飛び出し、そして大口を開けてトイを丸ごと喰らい尽くすように口を閉じた。
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