大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

チェックと宿屋

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今年の聖学祭は二日に分けて行う。
初日は一般生徒から選別した余興戦エキシビションマッチ。二日目は俺達二つ名持ちから選別された本戦メインマッチ。正直なぜ一日にまとめて入れないのかと思うのだが、その辺は多分色々と問題があるんだろう。
まぁ何が言いたいのかと言うと、実際に俺達が戦うのは二日後で、別に今急いでここのチェックをする必要は無いという話だ。ついでに言うと、当日の午前はその日戦う生徒達が優先的にここで練習出来る。手の内がバレたりしないのだろうかと少し気になるが、多分対策なりなんなりしてあるのだろう。
「ふぅん…」
軽く闘技場の床を叩くと、コンコン、と硬い音。これ多分聖学の謎床とか謎壁と同じ材質か。
「よっ」
試しに踵で蹴飛ばして、軽く地面を削ってみる。破片がコロリと削れ落ち、一秒程で地面に溶け消える。それに合わせて穴も塞がった。
「何してるんだレィア…?」
「いや、ちょいと実験。なるほどな」
聖学の物よりかなり再生が早いな。咄嗟に地面に穴を掘って隠れたり、地面を剥がして壁を出したりなんてことは出来そうにないか。つっても、俺もそんなこと一回しかしたことないが。
「で、障壁は攻撃系の特級でも何発か耐えるんだったな。物理系は大丈夫なのかね」
「物理系と言いはするが、基本は剣や槍だろう?普通に考えれば観客まで届かないだろうし、その場合もせいぜいが弾き飛ばされた武器が当たる程度。多めに見積もっても特級魔法ほどの威力はないから、それなりに強い障壁を張っておけば問題ないだろうな」
観客まで届かないというのは、この闘技場にはリングと観客席の間にかなり広い空間が空いているからだ。
面倒なことに、今回の聖学祭のルールは決闘とは違うルールが存在する。
そのうちの一つ、『場外に本人、もしくは本人が手にしている武器が場外及び観客席に五秒以上触れた場合は敗北とする』という文がある。
場外ルールは別に問題ないのだが、何故五秒?と素直に思ったことを口にすると、シャルが『誰が風魔法使ってすっ飛ばし合うだけのクソ試合を見たいんだ?』とわかりやすい答えを言ってくれた。まぁ、場外だけを狙った戦いなんざ白けるしな。
「障壁の重ねがけって出来んのか?」
「普通はまず出来ないな。特に同方向へ干渉する障壁なら尚更。ただ、耳長種エルフなら話は別だ」
なるほど、闘技場という土台は槌人種ドワーフが、防御に対する策は耳長種エルフが行ったと言うことだろうか。槌人種ドワーフも決して魔法が出来ない訳では無いのだろうが、耳長種エルフの魔法で右に出る者はそう居ない。
「さて、一旦宿に行ってくるかな。客が来てるかもしんねぇし」
「む、そうか。私はもう少しいることにする」
と言ってユーリアと別れる。宿屋は確か少し中心から離れた…あぁ、あれか。数日前に把握した宿屋の名前が下がった看板が見えた。
そして、その看板の下で何やら言い争っている人影。
近づいていくと、聖学の生徒と、それとは違う服を着た誰かが言い争っているようだった。
「んー?」
確か話に聞くと、宿屋ひとつを丸々貸し切ったので聖学の生徒ぐらいしか来ないはず。そういやどっかで見たことある服だな。
「よぉ悪い、中に入りたいから入口を塞がないでくれ」
「あっ、《緋眼騎士》!」
「あ?どうしたナツ。あとレィアでいいって毎回言ってんじゃん」
クラスメイトにそう言うと、聖学の生徒ではない誰かがこちらへばっ!と振り返る。
「…なんだ?」
「な?言ったろ?今《緋眼騎士》は出かけてるって。そんな訳でお前に客だってさ」
「客?つっても俺こんな知り合い居ないんだが──」
という俺の言葉も虚しく、ナツがそのまま宿屋から出ていく。
「…で、オタク誰?」
仕方なくそう聞くと、今まで無言だった男は静かに懐から手紙を出し、それを手渡して俺に親指を立ててから帰っていった。本当になんだったんだ?
『今の奴、西学の服じゃねぇか?』
「あ?あー…」
言われりゃ確かにそうだったかもしれない。だとしても何故俺に手紙?
とりあえず後で開けてみるか。
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