大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

緋眼と雷光 終

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「はぁ?何を急に…?」
「仕切り直すのも面白くないし、元々お前はそっちの方がメインだろ」
《雷光》は神速の居合とその速度自体が武器。対する俺は、持っている武器や防具の使い方でどうにかする「器用な」戦い方。
もしも命の取り合いのような、最初から手加減ができない戦いだったなら、間違いなく《雷光》は間合いに入った瞬間に戦技アーツを放って終わらせている。
そうしなかったのは、単に《雷光》が俺の動きにある程度合わせているから。いつでも雷速になれる彼女がそうならないのは、そうとしか思えない。
もちろん駆け引きもあるし、こちらが出来るだけスキルを使わせないよう立ち回ってもいるのだが、どちらかと言うと《雷光》がその動きを見て、こちらを異常に警戒してスキルを使っていないという形。
それも当然。俺の剣は受けるだけでも至難な超重の剣。それが二本も襲いかかっているのだから、万が一にも受ける訳にはいかない。
一方でまた、それに手一杯になっている俺も決め手がない。銀剣は当たれば超重の一撃を入れることが出来るが、それ故に動きが遅い。しかし、攻撃を弾けるのはこの剣しかなかった。
黒剣なら攻められるが、攻められた場合はどうなるか少し分からない。反応出来ても、黒剣では剣を受けられない。
だったらいっそ、全てをかなぐり捨ててこちらが相手の土俵に乗る。
「確かに私は一撃必殺を狙った技を多く持っているが…」
《雷光》としては膠着状態を一気に抜け出す好条件。故に強く警戒するのだろう。
だが、俺に裏も何も無い。
「あぁ何…単純だ、お前の最強と真っ向からぶつかってみたい」
敢えて気を弛めるため、腰元の柄から手を離してわかりやすく、肩を竦めるジェスチャーも混じえてそう言う。
なんということはなくそう言うと、予想外の答えだったのか《雷光》がポカンとこちらを見つめ、そして溜息をつく。
「後悔するなよ」
そう言った瞬間、彼女の身体からその二つ名の所以たる雷が迸った。
思わず口笛を吹きながら「流石ぁ」と言う言葉が口から出てしまった。
細く長く息を吸い始め、ゆっくりゆっくりと刀の柄に手をかけた《雷光》。そのまま体勢を低く、集中を深くすると同時に、身体にバネの如く力を貯め始める。
『おい!何か策はあるんだろうな!?』
「いや?無いが」
『はぁ!?』
「あいつの最強に俺の最高をぶつける。ただただ、それだけだ」
つまり、今ある《音狩り》を《雷光》に叩き込む。それがあいつの動きにどこまでついていけるのか。
俺の剣が先か、彼女の雷が先か。
「じきか」
黒剣をさっと引き抜き、長さを五十センチ程に絞る。そして剣をかまえ、腰を僅かに落とす。
直後、《雷光》が息を吸う音が止まった。
「「戦技アーツ──」」
「《雷霆一閃》」「《音狩り》」
互いに戦技アーツの名を宣言した瞬間、俺の身体から血が吹き上がって倒され、同時に落雷を切り裂く音が響いた。
鎧をぶち抜かれたとは言え傷は浅い。だが胸元から脇腹にかけて斜めに胴を斬ったその軌跡は、明らかに勢いよりも威力が低い。模擬戦でなければ死んでいた。
しかし、こちらもタダではやられない。
戦技アーツが発動し、敵を斬ったのは《雷光》だけではない。
「なるほど、これが斬ったという結果を残す戦技アーツの力か」
そう言って、寝転がったままの俺を見下ろすのは《雷光》。
「そう言う割には…どこも斬られてないみたいだが?」
「この角度からは見えにくいか?髪が半分ほど斬られた」
「…ハハッ」
詰まるところ実害はナシか。視界に入った高速で動く何かをとにかく斬ったのだが、尾のようにたなびく《雷光》の後ろ髪だったとは。緋眼でもそこまでしか見えないほど速かったのか。
上半身を起こして立ち上がろうとすると、傷が思った以上にパックリと割れて血が流れ出す。だがそれを無視して立ち上がってみると、なるほど確かに、うなじあたりで束ねて伸ばしていた髪が半分ほどに短くなってしまっている。
「悪いな。わざとそこ切ったつもりじゃなかったんだが」
「あぁまぁ。気にするなとは言わないが、身を斬られているお前にそう言われると文句も言えないな」
やはり勝てないか。
だが。触れはする。届きもする。ならば次は掴み取る。
そのために──強く。
「ははっ」
「どうした?《緋眼騎士》?さっきからずっとおかしいぞ?」
「いや、何、こっちの話だ。気にしないでくれ」
ヒトであるように生きる。そう決めてもやはり、強さを求める。物でなくとも、ヒトとして強さを求めるのは、俺が《勇者》だからなのか、それとも俺が俺だからなのか。
この答えはまだまだ出そうにないが、やはり強さは求めてしまうものらしい。
「変わんねぇんだなぁ、って」
最強にならなくとも、強く在ることは出来るのか。
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