大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

戦技と極

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あれは今から何年前だったか。森に日にちという概念はほとんどなかったから正確ではないのだが、まぁ結構前だったのは覚えている。
当時の俺の予定では、先程ユーリアが言っていたように、まず一組分の連戦技アーツ・コネクトを習得し、さらにまた別の戦技アーツに合わせて再度、連戦技アーツ・コネクトを習得するつもりだった。
しかし、実際は連戦技アーツ・コネクトを習得した時点で全ての戦技アーツが繋がるようになったのだ。
その時の俺はふと思ったのだ。
今までの戦技アーツは『特定の動きをする』戦技アーツで、俺が新しく作った連戦技アーツ・コネクトは『その特定の動きを繋げる』技である。
つまり、戦技アーツというものによって起こされる行動は、細かく設定された『横薙ぎの一撃を出す』といった動きではなく、もっとシンプルに『斬る』という設定もできるはずだと。
森にいた頃は分からなかったが、今ならそれが今で言うところの『魔法と魔術の違い』のようなものだと簡単に言える。
つまり、《音狩り》と《終々》のこの二つの戦技アーツは、どちらも言ってしまえば非常にシンプル。
戦技アーツを撃って、それで斬るんじゃない。戦技アーツを撃った時点で斬ったことは確定している。それが連戦技アーツ・コネクトと方向性が真逆でありながら技の極地に至る戦技アーツだ」
そう言うと、ユーリアが見たことも無い生物を見るような目でこちらを見ていた。
「毎度思うが、レィアの発想はどこかズレてると思う。しかもそれを実現するというのがまた天才的変態だな」
「褒めてんのか?貶してんのか?」
「褒めてるに決まっているだろう。少々引くが」
やっぱりどっちかってーと貶してないか?
「斬撃を出すのでは無く、ただ純粋に『斬る』という戦技アーツか。その割には……」
そう言ったのは《雷光》。腰の刀に手をやりつつ、壁の方へとつかつかと歩いていく。
彼女の身体からパチバチと雷が放たれ始め、腰を落として構えに入る。
「《雷刀一閃》」
そう言って放たれた戦技アーツは俺がつけた斬痕の横に深々と刻まれ、《雷光》が息を吐きながらこちらを振り返る。
「私なら一撃でこれぐらい出来るが。戦技アーツの極地と言うには無駄が多いと思うのだが」
「まぁ正直な所を言うと、《音狩り》は未完成な技というか、本当にそう言う戦技アーツがあるのかどうかって事を知るために習得した戦技アーツでもあるしな。やってる事も《斬る》じゃなくて、ありゃ厳密に言うと《斬れるまで斬るから斬った》だし」
だからこの戦技アーツは何十回も斬撃を叩き込む必要が出てくるのだ。
「とはいえ、ただ一点をぶった斬るだけなら発動した時点で絶対に斬れる。ここの壁だろうと、魔族の障壁かべだろうと、龍種の鱗だろうと関係なくな」
雑に手順を説明すると、斬れるまで斬る、それを戦技アーツを撃った時間(一秒未満)に圧縮する。それだけの戦技アーツだ。
早すぎるが故に音が重なってひとつしか鳴らず、斬痕も重なってひとつしか残らない。
斬れるはずもない音ですら斬っているように感じるから《音狩り》。それが名前の由来だ。
ちなみに《終々》は少し違う。
説明が長くなるので軽く省くが、《音狩り》が『ひとつの斬痕最低限のダメージを出すために行う最低限の動き』だとするなら、《終々》は『目標を倒す最大限のダメージを出すために行う最低限の動き』だ。
だが本質は似たようなもので、どちらも撃った時点で戦技アーツが完結し、《終々》も相手が細切れになる。
はず、なのだが。
あの英雄は耐えきった。最強であると自負していた己が技術。決して歯が立たない訳では無いのだが、同時にこの技が絶対ではないと裏付けられてしまった。
だからもっと強く、鍛えなくてはならない。
その為に、まずは一度自身を見つめ直す必要があるかもしれな──ん?
「うーん?」
「どうした《緋眼…ほう?」
「二人ともどうした?何か面白いものでも…これは?」
《雷光》もユーリアも気づいたらしく、俺と一緒に眉根を寄せる。
この訓練所はどれだけ激しく戦ってボロボロにしても、放っておけば勝手に直る。さすがに崩壊目前ぐらいまで行くと本格的に手を加える必要があるが、半壊ぐらいまでなら問題は無い。
壁も同様で、魔法で吹き飛んだらどうかは知らないが、切りつけた程度なら放っておけば直る。事実、《雷光》が戦技アーツでつけた傷は既にほぼ直っており、うっすらと傷跡が残るだけ。もう数分もすればそれも消えるだろう。
だが、俺が《音狩り》でつけた傷はやたらと直るのが鈍い。直っているのは間違いないのだが、見比べれば明らかなレベルで《雷光》のつけた傷より直るのが遅い。
「…なんか俺変なことしたっけ?」
そう言って俺は首を傾げた。
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