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本編
バケモンと鎧2
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幾つもの幸運が重なった。
ひとつは先程出していた《血鎖》がまだ残っていた事。
ひとつは魔族に対して常に発動を心がけている《血鎧》を今回も使っていた事。
そして、そもそもこの爆発が魔術ではなく、純粋な魔力を元に発動する魔法であった事。
「!?」
爆発の一部が背中から出ている《血鎖》によって弾かれ、そして《血鎖》が蒸発した。
それと同時に、大銀剣と大剣が交差したその瞬間から、俺の身体が限界を超えた熱を持つ。
爆発による熱ではない。それが届く前に《血鎧》によってエネルギーに変換され、その刻印が受け止めきれずに身体を直に焼いているのだ。
そして遅れて届く爆風と熱波。
鎧を上から焼き溶かし、渇ききった凶暴な風が目を枯らし、鼻や食いしばった歯の隙間から中へ入り込んで体内を焼く。
着込んでいる鎧も当然熱を持ち、包帯越しに異様な熱を感じる。いや、もしかすると表面が既に焼けてそれ以上感じないのかもしれない。
魔法返しも発動しているはずだが、ここまでの破壊力を持つ爆発にどこまで効いているのか。
だが。
「耐えきった…ぞ!!」
爆風と剣の重さに耐えかねて吹っ飛ばされた。
それでも五体満足で生きている。身体が動かないということも無い。
あぁそうだ、これは俺の身体だ。
俺の身体なら、俺が命じたままに動くのだ。動かない訳が無い。
素早く身を起こし、最早完全に勢いを消し飛ばされた大銀剣の切っ先を、焼け抉れた大地に軽く突き刺しながらも立ち上がる。
一方、大銀剣の一撃と《血鎖》の反射によって僅かに押され、よろけた魔族。
それでも彼は笑いながら
「やるやんけ」
と言うだけ。心なしか嬉しそうな気さえする。
俺と魔族が同時に体勢を立て直しにかかるが、僅かに仰け反った魔族と吹っ飛ばされた俺では、明らかにあちらの方が早い。
間合いも空いた。もう一度今の爆発を起こされれば、こちらもたまったものではない。
けど。
「《血瞬》」
禁じ手の加速を発動し、持ち上がらない大銀剣を引きずり回しながら接近。
「速!」
魔族の驚く声。その声には間違いなく喜びが混じっている。
遊ばれているのだ。ここまで俺が必死であるのに、この魔族にとっては遊びにしかならない。
なら。
笑っていられないような攻撃を叩き込むしかない。
「第四血界《血鎧》──解放ッ!!」
白銀の大剣が輝きを増す。
それは先程の黄金の輝きよりもなお強い、太陽すらも霞むような輝き。
《勇者》が持つ対魔術、対魔法のカウンター技。
そこに合わせて輝くのは、銀剣の輝きにも劣らない真紅の輝き。
俺が元々大剣で使える戦技は、たったの四つ。
縦振りの《破断》。横振りの《剛砕》。空中からの《潰断》……──そして、ただ鞘から剣を抜き放つだけの動作を戦技とした、戦うための技として見るにはあまりに異端の戦技。
もう二度と撃つ事は無いと思っていたそれが──放たれた。
「《煌覇》ッ!!」
「は!?」
ここに来て、初めて魔族が焦ったような声を出した。
ほぼ零距離で振り抜いた大銀剣、回避は不可能。
「オオオオオッ!!」
魔族は雄叫びを上げつつ、ややくすんだ大剣でこれに応じる。
《血鎧》のカウンター、戦技の後押し。この二つが最大まで乗った大銀剣の一撃は、魔族の大剣を叩き折り、鎧に食らいつく。
「おおおおおおおおおおおおおおお!?」
「ッ!」
ここまで目視し、戦技の硬直が解除され始めた瞬間、無理矢理身体を動かしてステップ。僅かに位置を変える。
俺の手には一対の黒剣。触れる物を全て断ち切る、諸刃ならぬ脆刃の剣。
防御不可の黒剣を構え、腰を落とす。
既に先程の《煌覇》で傷が開いており、血が止まらない。髪で縫い直したいが、そんな余裕もない。
それでも続ける。
「続けて戦技──《終つ」
「ダラッシャッ、セェヤッ!!」
ゴガン!と。
俺の位置から辛うじて見えたのは魔族の拳。
鎧に包まれたその拳が、俺の銀剣を真横からぶっ叩いた。
「!?」
左手の鎧が弾け、それでも抑えきれなかったダメージがそのまま肉体に反映され、魔族の手がひしゃげ、真っ赤に染まる。
だがそのせいで、逸らされた銀剣が位置を移動した俺の方へと飛んでくる。
「ッッッ!!」
戦技を強制中断、そのせいで生まれた大きな隙。
間に合え、間に合え、間に合え!
「ッ、ア…!!」
今までに無いほど大量に《血鎖》を発動。
数は十や二十では効かない。質も量も過去最高。
さっきの血壊で溜め込んだ血の半分を使って放った鎖は、その全てを消し飛ばされた代わりに銀剣を受け止めた。
しかし──
「いやぁ、あっぶなかったわ」
その次に迫る黄色の大剣には間に合わない。
ひとつは先程出していた《血鎖》がまだ残っていた事。
ひとつは魔族に対して常に発動を心がけている《血鎧》を今回も使っていた事。
そして、そもそもこの爆発が魔術ではなく、純粋な魔力を元に発動する魔法であった事。
「!?」
爆発の一部が背中から出ている《血鎖》によって弾かれ、そして《血鎖》が蒸発した。
それと同時に、大銀剣と大剣が交差したその瞬間から、俺の身体が限界を超えた熱を持つ。
爆発による熱ではない。それが届く前に《血鎧》によってエネルギーに変換され、その刻印が受け止めきれずに身体を直に焼いているのだ。
そして遅れて届く爆風と熱波。
鎧を上から焼き溶かし、渇ききった凶暴な風が目を枯らし、鼻や食いしばった歯の隙間から中へ入り込んで体内を焼く。
着込んでいる鎧も当然熱を持ち、包帯越しに異様な熱を感じる。いや、もしかすると表面が既に焼けてそれ以上感じないのかもしれない。
魔法返しも発動しているはずだが、ここまでの破壊力を持つ爆発にどこまで効いているのか。
だが。
「耐えきった…ぞ!!」
爆風と剣の重さに耐えかねて吹っ飛ばされた。
それでも五体満足で生きている。身体が動かないということも無い。
あぁそうだ、これは俺の身体だ。
俺の身体なら、俺が命じたままに動くのだ。動かない訳が無い。
素早く身を起こし、最早完全に勢いを消し飛ばされた大銀剣の切っ先を、焼け抉れた大地に軽く突き刺しながらも立ち上がる。
一方、大銀剣の一撃と《血鎖》の反射によって僅かに押され、よろけた魔族。
それでも彼は笑いながら
「やるやんけ」
と言うだけ。心なしか嬉しそうな気さえする。
俺と魔族が同時に体勢を立て直しにかかるが、僅かに仰け反った魔族と吹っ飛ばされた俺では、明らかにあちらの方が早い。
間合いも空いた。もう一度今の爆発を起こされれば、こちらもたまったものではない。
けど。
「《血瞬》」
禁じ手の加速を発動し、持ち上がらない大銀剣を引きずり回しながら接近。
「速!」
魔族の驚く声。その声には間違いなく喜びが混じっている。
遊ばれているのだ。ここまで俺が必死であるのに、この魔族にとっては遊びにしかならない。
なら。
笑っていられないような攻撃を叩き込むしかない。
「第四血界《血鎧》──解放ッ!!」
白銀の大剣が輝きを増す。
それは先程の黄金の輝きよりもなお強い、太陽すらも霞むような輝き。
《勇者》が持つ対魔術、対魔法のカウンター技。
そこに合わせて輝くのは、銀剣の輝きにも劣らない真紅の輝き。
俺が元々大剣で使える戦技は、たったの四つ。
縦振りの《破断》。横振りの《剛砕》。空中からの《潰断》……──そして、ただ鞘から剣を抜き放つだけの動作を戦技とした、戦うための技として見るにはあまりに異端の戦技。
もう二度と撃つ事は無いと思っていたそれが──放たれた。
「《煌覇》ッ!!」
「は!?」
ここに来て、初めて魔族が焦ったような声を出した。
ほぼ零距離で振り抜いた大銀剣、回避は不可能。
「オオオオオッ!!」
魔族は雄叫びを上げつつ、ややくすんだ大剣でこれに応じる。
《血鎧》のカウンター、戦技の後押し。この二つが最大まで乗った大銀剣の一撃は、魔族の大剣を叩き折り、鎧に食らいつく。
「おおおおおおおおおおおおおおお!?」
「ッ!」
ここまで目視し、戦技の硬直が解除され始めた瞬間、無理矢理身体を動かしてステップ。僅かに位置を変える。
俺の手には一対の黒剣。触れる物を全て断ち切る、諸刃ならぬ脆刃の剣。
防御不可の黒剣を構え、腰を落とす。
既に先程の《煌覇》で傷が開いており、血が止まらない。髪で縫い直したいが、そんな余裕もない。
それでも続ける。
「続けて戦技──《終つ」
「ダラッシャッ、セェヤッ!!」
ゴガン!と。
俺の位置から辛うじて見えたのは魔族の拳。
鎧に包まれたその拳が、俺の銀剣を真横からぶっ叩いた。
「!?」
左手の鎧が弾け、それでも抑えきれなかったダメージがそのまま肉体に反映され、魔族の手がひしゃげ、真っ赤に染まる。
だがそのせいで、逸らされた銀剣が位置を移動した俺の方へと飛んでくる。
「ッッッ!!」
戦技を強制中断、そのせいで生まれた大きな隙。
間に合え、間に合え、間に合え!
「ッ、ア…!!」
今までに無いほど大量に《血鎖》を発動。
数は十や二十では効かない。質も量も過去最高。
さっきの血壊で溜め込んだ血の半分を使って放った鎖は、その全てを消し飛ばされた代わりに銀剣を受け止めた。
しかし──
「いやぁ、あっぶなかったわ」
その次に迫る黄色の大剣には間に合わない。
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