大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,612 / 2,028
本編

着地と緋眼

しおりを挟む
「よし、頼むぞマキナ」
『了解。展開します』
真正面に立つ校舎、そこへ突っ込むように走る俺の前にマキナが即席の足場を作成。
そこに乗り、さらに足をグッとたわめた。
まぁ実際は。
即席の足場というより、もっと正確に言って射出機カタパルトなのだが。
『射出します』
マキナがそう言ったと同時に俺は跳ん──いや。
飛んだ。
「ィヤッハァー!!」
『大丈夫か?頭』
「よく分からんが最高にいい気分だ。今ならどんなことが起きても前向きに捉えられそうだ」
なんというか、幼い頃思い込んでいた全能感、万能感が身体を満たしているような気分。それでいて、心の底からプラスの感情がずっと湧き出し続けているような。
一瞬、校舎の上に陣取っている学校長と、そのサポーターだろうか。数人の先生や生徒と目が合った。
どデカい弓を構えて放つ先は訓練所方向。正面は完全に二つ名持ちに任せる形にしたか。
相当な初速で飛び出した俺にカタパルトとして置いてきたマキナがようやく追いつき、空中で鎧を纏い直す。さらに黒剣を再度腰に装備して完全武装。
落下地点は既に見えている。どころか、超速で近づいてくる。
無数の剣、飛び交う魔法。しかし、それらの量に見合わない少数の戦闘。
「派手に行くか」
『は?』
ポツリと呟いた俺の言葉に、シャルが一瞬呆けたように言った。
今までに無いような血呪の倍率を発動し。
握りしめた拳を遠慮なく、思い切り。着地と同時に叩きつけた。
「ハッハァ!!」
凄まじい破壊力の拳を地面に叩きつけると同時に、一度マキナが衝撃を吸収しきれずに爆散する。
しかし即座に再集合、再び俺の鎧に戻る。
「なん、だ?お前は…?」
俺の着地点は魔族と二つ名が戦っていた丁度ド真ん中。状況的には目の前に魔族がいて、すぐ後ろには仲間がいる。
それでも佇まいが少々異様だったのか、魔族がそう聞いてくる。
「さて、誰でしょう?」
肩をすくめてそう言うと、一瞬で距離を詰め、剣を抜く。
「速──!?」
長さはいつもの手頃な長さ。戦技アーツはまだ不要。
斬りかかった俺に対し、斬撃は効かないとでも思ったのか、魔族は横から叩き落とそうとする。
それを見て方向を微調整。腕に垂直に剣が落ちるよう直し、何の抵抗もなく腕をすり抜けるように振り抜く。
「え?」
まだ腕は落ちていない。だが剣がすり抜けるという異常な光景を見た魔族が不審に思う。
慌てて手を引き戻す隙が生まれ、その隙に逆の剣を抜いて胴を逆袈裟に切り裂く。
「あばよ」
なんの手加減もなくその魔族の胸を蹴り飛ばすと、斬られた腕と斜めの下半身だけが残って上半身が後方にすっ飛ぶ。
「…レィアか?」
ユーリアの困惑したような声が後ろからした。
「あぁその通り。よく見た格好だろうが」
そう言いながらゆっくりと振り返ると、何故か無数の剣が俺に向けられている。
「どうしたルーシェ?何で俺に剣を向けてんだ?」
「ッ………!」
ズタボロになりながらもこいつだけは、という決死の覚悟。しかしそれでいて、今の俺の反応で揺らいだような、謎の反応。
「率直に言うとだな、今の君からは人では考えられないような膨大な魔力を持っているのが感じられるんだ。それこそ魔族と見紛うような」
赤く光る緋眼でユーリアと《剣姫》を見ると、やはりどちらも満身創痍。特にユーリアは酷く、気のせいか熱もあるらしい。限界を超えて戦っていたようだ。
「あー?あぁ。まぁ。そいつはちょいと事情があってなぁ。気にすんな。そう問題は無い」
そう言って再度魔族の方を向く。魔族が動かなかったのは新しく乱入してきた俺を警戒していたせいだろうか。
魔族達の視線は俺に集められ──いや、俺の眼に集中しているような気がした。
それに気づいた俺は、黒剣にかけていた手を離して、腕を組んで名乗りをあげる。
「あぁその通り!俺はお前らの思っている通り、緋色の眼を持つ血塗られた殺戮者だ!千の怨みも万の呪詛も飲み干して、築いた屍の上でなおも剣を振る緋眼ひがんの騎士だ!かかってこいよ腰抜け魔族!震えて動けないなら──」
そっと腰に手を当てる。
数は残り五名。きっとこいつらが結界を破った奴らの最後の魔族。
「俺が行くッ!!」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました!

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

ボッチ英雄譚

3匹の子猫
ファンタジー
辺境の村で生まれ育ったロンは15才の成人の儀で「ボッチ」という聞いたこともないジョブを神様から授けられました。 ボッチのジョブはメリットも大きいですが、デメリットも大きかったのです。 彼には3人の幼馴染みと共に冒険者になるという約束がありましたが、ボッチの特性上、共にパーティーを組むことが難しそうです。彼は選択しました。 王都でソロ冒険者になることを!! この物語はトラブルに巻き込まれやすい体質の少年ロンが、それらを乗り越え、いつの日か英雄と呼ばれるようになるまでを描いた物語です。 ロンの活躍を応援していきましょう!!

どこにでもある異世界転移~第三部 俺のハーレム・パーティはやっぱりおかしい/ラッキースケベは終了しました!

ダメ人間共同体
ファンタジー
第三部 今最後の戦いが始る!!・・・・と思う。 すべてのなぞが解決される・・・・・と思う。 碧たちは現代に帰ることが出来るのか? 茜は碧に会うことが出来るのか? 適当な物語の最終章が今始る。 第二部完結 お兄ちゃんが異世界転移へ巻き込まれてしまった!! なら、私が助けに行くしか無いじゃ無い!! 女神様にお願いして究極の力を手に入れた妹の雑な英雄譚。今ここに始る。 第一部完結 修学旅行中、事故に合ったところを女神様に救われクラスメイトと異世界へ転移することになった。優しい女神様は俺たちにチート?を授けてくれた。ある者は職業を選択。ある者はアイテムを選択。俺が選んだのは『とても便利なキッチンセット【オマケ付き】』 魔王やモンスター、悪人のいる異世界で生き残ることは出来るのか?現代に戻ることは出来るのか?

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...