大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

雷光と救援 終

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振った黒剣が何かを裂いた。何かは分からないが、ともすれば見落としそうな微かな手応えを感じた。
だが、それによって起きた現象は劇的だった。
「な…!?」
身体にかかっていた重圧が全て解放され、一気に身体が軽くなる。それどころか、以前より多少軽くも感じる。
だが、一度に全ての重力が解放されたせいで、無理矢理促進させていた血流が過剰な速度をもってめぐり暴れた。
「かはっ!」
あまりと言えばあまりに急降下する環境に、上手く歯止めが効かなかった血が、傷ついた身体のそこかしこから吹き上がる。
『大丈夫か!?』
「全、然」
目から血が滲み、手足からは血が滴る。暴れ回る血を整えるためにゆっくりと、それでも俺は立ち上がり、大地を踏みしめる。
身体の痛みを遮断し、流れる血を消費し、鎧の中から魔族を睨めつける。
「馬鹿な!有り得るか!?そんな…重力を斬るだと?それも術式も完全に破壊して!」
喚く魔族を無視し、ゆっくりと柄に手をかける。
「ひっ」
その動きを見た瞬間、魔族は一目散に逃げ出した。
追うか、追わないか。
逃がせば奴は立て直して、確実に殺しにくる。
《勇者》に会った魔族は必ず殺さなくてはならない。それが出来なかったからこそ、勇者という存在が知られ、警戒されるようになったのだから。
追うしかない。
追うしかないが──追う足がない。
膝に貰った一撃と、先程の重力魔法。あれのせいで、恐らく辛うじて割れていなかった膝が割れた。
軽く処置はしたものの、血瞬など使おうものなら簡単に膝が逝く。マキナが今、足の辺りでなにかしているようだが、それが終わる頃には逃げられる。
距離およそ十メートル。そこからさらに離れようとする魔族。
「十五メートルクラスか…狙えるか?」
柄に手を乗せ、そしてその手を下ろした。
『どうした?』
「学校長が処理するってさ」
肩を竦めてそう言った次の瞬間、片腕の魔族に三本の矢が同時に突き刺さる。
「おぉ流石」
『助かりました。あそこまで強力な重力だと、流石に邪魔ですので』
「何、助けてもらった側だ。こっちも礼を言う」
気づけば、最初に四肢を落とした魔族もいつの間にか目、喉、心臓の三ヶ所を矢で貫いて死んでいる。一旦追撃の可能性は無くなったと見て大丈夫だろう。
『次は第一訓練所前に移動をお願いします』
「悪い、一分くれ。足を調節する」
『急いでください』
折れたらしいのは左膝。今マキナが何か調節しているが、黙ったままなのでよく分からん。右は少し痛むが折れてはいないらしい。鎧をしてなかったら折れてたどころか斬られてたかもしれん。
「《雷光》は?」
「か、構えたまま意識を失ってて…これ、近づいて大丈夫でしょうか…?」
困惑する救護班を後目に、無遠慮に間合いに入った。
瞬間、神速の勢いで刀が振り抜かれる。
流石に今は回避出来るような状態では無いとはいえ、意識を失った無意識の一撃。動きを予測して、鞘で叩き落とすぐらいなら簡単に出来る。
「なんだこりゃ」
まぁ、外して盛大に空ぶったのだが。
《雷光》の持つ刀に刃が無い。いや、よく見れば鋼の残りカスのようなものが柄にこびりついている。
「刀身が…溶けてる…?」
どんな状況だそれ。摩擦か、流れた電流のせいか、それとも元々そういう特殊な剣なのか分からないが、《雷光》はその振り抜いた形でピタリと静止し、動かなくなった。
「死んではない…な?けどかなりヤバい状態だと思う。処置頼んだ」
「あ、はい!ありがとうございます!」
適当に手をヒラヒラと振って、その場からさっさと離れる。
「次は訓練所の方だっけ?今から向かう」
『すみません、予定変更です。結界の境界方向から何か来てます。それの対処をお願いします』
「あ?」
なにか来てる?
「分かった、すぐ向かう」
そう応じると共に、マキナが短く『処置、完了しました』と答えた。
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