大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

回想と犠牲

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「お前、なんかまだ隠してんだろ」
「はい?なんの事ですか?」
一戦交えた後、その日の夕方にセラからメッセージが入った。
内容は義肢を酷使したせいで所々おかしい気がするので、俺に見てほしいというもの。
丁度いいと思って、その日の夜にとっとと来いと言い、今は自室でセラの義肢をアーネと一緒に弄っている所だ。
「とぼけんな。魔族の話だ。今日のお前の動きを見て確信したが、あの程度で魔族は倒せん」
アーネにそこのピンセットくれ、とくいくい指を曲げると、黙って渡してくれた。
「でしたらよっぽど弱ってたんですかね?私結構ギリギリだったんですけど──」
「そんだけ弱ってるならヤツキが大体何とか出来る。両腕が無くなるかもしれんが、あいつなら躊躇なく突っ込んで、最後にお前が首を取る」
ん、ハサミか。アーネの手に載せる。
「切り札も決まりましたし──」
「決められるほど追い詰められる技量は今のお前にはない。どれだけ上手くいっても掠る程度だ。なまじ威力はあるからダメージは通るが、左腕一本がほぼ使えなくなるんだからトントンだな」
そう断言すると、セラはしばらく黙る。
「何が言いたいんですか」
「最初に言ったろ、何隠してんだお前」
とりあえず左腕は直ったか。つけてやる代わりに、右腕を預かる。
「四肢が壊れたのは構わんさ。やった宝石が全部どっか行ったのも気にしない。だがな、お前の行動で俺の家族の腕が無くなったんだ。もしかしたらお前はヤツキの名誉の為に黙ってんのかもしれん。だとしても、悪意だとか善意だとかそう言うのはどうでもいい。俺はただ真実を知りたい。魔族が来た時、お前の目の前で何が起きた?」
斧と盾を取り外し、右腕の調整をする傍ら、ふとセラの顔を見る。
だが、俯いた彼女の顔を窺う事は出来ない。しばらくは俺も彼女同様に黙るしかない。
「あの日、結界がいつもより大きく揺れました」
アーネが右脚を取り付け、左脚を回収してからようやく口を開いた。
「ヤツキさんが焦って出ていって、私が遅れてそこに向かうとヤツキさんと魔族が既に戦闘を始めてました。私も慌てて参戦して、しばらくは優勢だったんです。けれど…」
そこで一度セラは口ごもる。
なにか言おうかと思ったが、言葉を飲み込んでただ待つ。
「私が魔族の魔法を受けて、なんとか右の盾で受けたんですけど、それすら貫いて肩を抉られて…炎が身体をジュウっ、て…」
明らかに声が震えている。顔を見るまでもない。恐怖の声音だ。
止めようと口を開くより先に、セラが続きを一気に捲し立てた。
「私はその音を聞いた瞬間、匂いを嗅いだ瞬間、思わず悲鳴を上げて──スキルを…使い、ました…」
「………。」
「スキル名は《悪魔の取引》。願い事を叶える代わりに、それに応じた代償を消費する能力です。私は目の前の魔族に出来るだけ大きなダメージを与える事と、この痛みから離れたいというを反射的にしていました」
痛みから離れる…つまりは傷の治癒だろうか。今見た右肩に傷跡すらないのはそういう理由か。
「スキルは私の願いを叶えました。私の四肢の完全破壊と中にあった宝石四つ全ての消費、私が着ていた鎧、持っていた槍、斧の破壊。それだけの代償を払って、引き換えに魔族の下半身が吹き飛びました。そして、私の傷を治すために、ヤツキさんの腕が…」
「代わりに無くなった、と」
セラが小さく頷く。
片腕が無くなろうと、半身を無くした魔族なら左腕だけでも対処出来るだろう。
なるほど、スキル自体は強力だが、代償が大きめに設定されているようだ。今思えば、こいつの班が全滅した時もセラだけ生き残っていたのはこの能力のおかげだったのかもしれない。
その時の代償はさて、一体なんだったのだろうか。
「ヤツキにはこの話を?」
「しました。流石に隠せる事じゃなかったので…」
「その上で気にすんなって?」
チラリとセラの方を見ると、小さく頷いた。
「そうか、なら俺からは何もねぇな。本人がそう言ってんだし。ほれ」
と言って右腕を付け直す。アーネの方もじきに終わりそうだ。
「ま、そういう事もあるさ。生きて帰って来れたなら、次は確実に、一人で、何も犠牲にせず、魔族を倒せるようになればいい。俺だって初めて魔族と会った時は──」
「…?どうかしたんですか?」
「いや、なんでもない。とにかく、強くなれって話だ」
そう話を強引に切り上げ、アーネの調整が無事終わり、セラは帰って行った。
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