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本編
訓練所と話
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という訳で、セラにメッセージを飛ばし、訓練所の鍵を借りて待っているとセラがやって来た。ちなみに、《臨界点》は気配遮断の障壁を張り、訓練所に潜んでいる。アーネもセラの事は気になるようで、一緒に入れてもらっているらしい。
「先輩!お久しぶりです!いつこっちに来たんですか?」
「よぉセラ、この前ぶり。元気そうだな。つい二、三時間ばかり前にな」
「本当についさっきですね。先輩もお変わり無いようで良かったです」
…ん、重心が少し違う?歩いて来たセラの動きに何となく違和感を感じる。
紅の森に籠った成果はあったということだろうか。
「休みの間、ずっと紅の森に居たのか?」
「あ、はい。あっちは日付という概念が無いので《星祭》の花火が見えるまで何日ぐらいか分からなかったんですよ。花火見えてから、慌てて荷造りして出てきました」
えへへ、と笑うセラ。以前と何ら変わらないように見える。
「…ちょいと小耳に挟んだんだが、魔族を倒したとかって話、本当か?」
そう聞くと、セラは笑みを消し、少し視線を下に逸らす。
「えぇまぁ、はい。確かに倒しましたが…」
「どうした?何かあったのか?」
「えっと、ヤツキさんの腕が…」
「持ってかれたか?」
セラがゆっくりと頷く。
「正体不明の魔法で…気がついたら右手腕が初めから無かったみたいに…」
『まぁ血界も無けりゃ魔法返しすらねぇしな。当たり前っちゃ当たり前か』
シャルがボソリと呟く。
「でも生きてはいるんだろ?」
「は、はい…腕も、残っていた義手を使ったらピッタリで不自由はないと言ってましたが…」
そりゃまぁ、元はナナキ用の腕だし、規格はピッタリ合うだろうが…壊れることも考えると数が少々心許なくなる。大丈夫だろうか。
「まぁ良くあることだ。そんな気にすんな」
むしろ腕一本で勝てたなら安いもんだ。そう思って慰める。
「ヤツキさんも同じことを言ってました。私が気に病む必要も無いと」
「その場にいて生きてただけ充分だと思うがな…というか、その話し方だと、魔族を倒したのはほとんどヤツキか?」
『だろうな。腕一本で済んだなら余程弱った魔族だったろうが良くやった、俺』
シャルも同意見らしい。そりゃそうか。
正直、そちらの方が有り得る。どんな魔族かにもよるが、勝算があるとすればヤツキの方だ。それでも勝機は三割程度だろうが。
セラはどうだろうか。俺が森に帰った時程度の実力なら、その場に居て生き残っているだけでも良くやったと拍手を贈るレベルだ。
今はどうか知らんが。
「あ、いえいえ。ヤツキさんが右腕を無くして戦えなくなったので、私が頑張って倒しました」
「………は?」
『………ん?』
セラが倒した?魔族を?
「待て。単独か?」
「流石に完全単独ではありませんよー。最後の一撃はヤツキさんでした。全部の手足が砕かれたら、流石にどうしようもありませんからね」
最後の一撃「は」ヤツキ。
という事はほとんど単独じゃねぇか。
「有り得るか?」
小さく呟いた俺の言葉に、シャルが同じく小さく返す。
『スペックはナナキ基準だから使いこなせばあるいは、じゃないか?』
それはつまり、今の義肢をそれほど完璧に使いこなせているという事の証左ともいえるか。
「やっぱりここに呼んで正解だった」
「はい?先輩、どうかしましたか?」
「セラ、構えろ。お前の成長を見たい」
「えっ、ちょ?」
まだ理解出来ていないセラを無視し、腰元のマキナを叩くと、反応して即座に全身を覆う。
半身を引き、軽く拳を握って構える。流石に剣を使うのはナシで行こう。
「来いよセラ、初手は譲ってやる」
「先輩!お久しぶりです!いつこっちに来たんですか?」
「よぉセラ、この前ぶり。元気そうだな。つい二、三時間ばかり前にな」
「本当についさっきですね。先輩もお変わり無いようで良かったです」
…ん、重心が少し違う?歩いて来たセラの動きに何となく違和感を感じる。
紅の森に籠った成果はあったということだろうか。
「休みの間、ずっと紅の森に居たのか?」
「あ、はい。あっちは日付という概念が無いので《星祭》の花火が見えるまで何日ぐらいか分からなかったんですよ。花火見えてから、慌てて荷造りして出てきました」
えへへ、と笑うセラ。以前と何ら変わらないように見える。
「…ちょいと小耳に挟んだんだが、魔族を倒したとかって話、本当か?」
そう聞くと、セラは笑みを消し、少し視線を下に逸らす。
「えぇまぁ、はい。確かに倒しましたが…」
「どうした?何かあったのか?」
「えっと、ヤツキさんの腕が…」
「持ってかれたか?」
セラがゆっくりと頷く。
「正体不明の魔法で…気がついたら右手腕が初めから無かったみたいに…」
『まぁ血界も無けりゃ魔法返しすらねぇしな。当たり前っちゃ当たり前か』
シャルがボソリと呟く。
「でも生きてはいるんだろ?」
「は、はい…腕も、残っていた義手を使ったらピッタリで不自由はないと言ってましたが…」
そりゃまぁ、元はナナキ用の腕だし、規格はピッタリ合うだろうが…壊れることも考えると数が少々心許なくなる。大丈夫だろうか。
「まぁ良くあることだ。そんな気にすんな」
むしろ腕一本で勝てたなら安いもんだ。そう思って慰める。
「ヤツキさんも同じことを言ってました。私が気に病む必要も無いと」
「その場にいて生きてただけ充分だと思うがな…というか、その話し方だと、魔族を倒したのはほとんどヤツキか?」
『だろうな。腕一本で済んだなら余程弱った魔族だったろうが良くやった、俺』
シャルも同意見らしい。そりゃそうか。
正直、そちらの方が有り得る。どんな魔族かにもよるが、勝算があるとすればヤツキの方だ。それでも勝機は三割程度だろうが。
セラはどうだろうか。俺が森に帰った時程度の実力なら、その場に居て生き残っているだけでも良くやったと拍手を贈るレベルだ。
今はどうか知らんが。
「あ、いえいえ。ヤツキさんが右腕を無くして戦えなくなったので、私が頑張って倒しました」
「………は?」
『………ん?』
セラが倒した?魔族を?
「待て。単独か?」
「流石に完全単独ではありませんよー。最後の一撃はヤツキさんでした。全部の手足が砕かれたら、流石にどうしようもありませんからね」
最後の一撃「は」ヤツキ。
という事はほとんど単独じゃねぇか。
「有り得るか?」
小さく呟いた俺の言葉に、シャルが同じく小さく返す。
『スペックはナナキ基準だから使いこなせばあるいは、じゃないか?』
それはつまり、今の義肢をそれほど完璧に使いこなせているという事の証左ともいえるか。
「やっぱりここに呼んで正解だった」
「はい?先輩、どうかしましたか?」
「セラ、構えろ。お前の成長を見たい」
「えっ、ちょ?」
まだ理解出来ていないセラを無視し、腰元のマキナを叩くと、反応して即座に全身を覆う。
半身を引き、軽く拳を握って構える。流石に剣を使うのはナシで行こう。
「来いよセラ、初手は譲ってやる」
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