大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

話と神父

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動かしてわかったが、やはり身体が鈍っている。
そんなに簡単に鈍るのかって?短期間なら問題は無いだろうが、ずっと寝こけてたり、ほとんど片腕しか使わなかったせいで身体のバランスがおかしい。
双剣を使う以上、その違いは癖になる。癖として定着してしまえば、その動きは最早単なるパターンと同じ。
簡略化した思考が悪いとは言わないが、それ故の脆弱さは思考の固定化を生み、やがて致命的な失敗を起こす。
何が言いたいのかと言うと、変な癖は無くしたいという話だ。
「まぁた身体の鍛え直しだよ。ふざけやがって」
『文句を言うならもっと自分の身体を大切にしろ』
「ありゃ相手も悪いだろ…」
いやまぁ、命があっただけ感謝か。普通なら死んでるし。
「さーてと、居るかね」
一応時間を告げ、その時間通りに来たのだが、向こうは忙しいらしいし、その辺は運試しか。
扉を開くと、やはり先程来たように数人の信者が祈りを捧げている。
少し見渡すが、やはり神父はいない。
ハズレか。ならとっとと帰って身体を鍛え直すか。
そう思って教会を出ようとすると、ちょうど神父と鉢合わせた。
「よう。一昨日ぶり」
「…やはり貴方でしたか」
「姿が見えないから忙しいんだと思って帰るところだった。今暇か?」
「暇…ではありませんが、あなたの為に三十分程用意しました。その時間内であれば、なんとか」
分刻みのスケジュールって奴かね。神父様も大変そうだ。
「んじゃ十五分で終わらせよう。そんな難しい話でもないし、ちょいと話を聞きたいだけなんだ」
「話を…?別室に行きますか?」
「んー…まぁそうだな、立ち話もなんだし、そっちの方がいいか」
そう言うと、神父は教会の奥へと俺を案内する。キッチンがあり裏口があり、窓の外には小さいながら畑が見える。見た感じは彼の居住空間だろうか。それにしては何とも狭く寂しい。
多分奥へと通じるドアは寝室だろうか。などと思っていると、神父がマグカップに入ったコーヒーを持ってきてくれた。
「どうぞ。あまりいいものでは無いですが」
「ん、あぁ」
コーヒーか。匂いはいいんだが味がなぁ…けど断るのも悪いしと悩んでいると、神父が先に口を開いた。
「それで、話とは?」
「…お前の前任者の話だ。何か聞いてるか?」
「前任者…というと、この都市の…ですか?」
「あぁ。仕組みは詳しく知らんが、確か神父ってのは大元の教会から派遣された奴なんだろ?なら何か知ってないかと思ってな」
教会の詳しい体系は知らんが、上の方に聖女とか大司教とかそんな感じのエラい奴らがいて、神父は確か一番下っ端とかその一歩手前ぐらいだった気がする。三聖学で何となく聞いた気がしないでもない。
「……前任者の事は正直よく知りません。教会の上司も私に何も伝えませんでしたし、調べるのもはばかられる雰囲気でしたしね」
「…調べるのも?普通はそんなことないのか?」
「えぇ、むしろ同じ失敗をしないよう、あるいは引き継ぎで失敗しないよう、何があったか覚えさせられるぐらいですね」
教会が知らないのはともかく、調べさせない雰囲気を出していた?
何故。
あの男が半魔族だったと知った。そうとしか考えられない。
だが知ったとして、どのタイミングで?
この都市から去ってから知り、恥を隠すために隠蔽しているのか。
あるいは、この都市にいる時から敢えて泳がせていた?
──最悪のケースを考えるのなら、教会の中に半魔族の協力者がいるまで考えられる。
だが何にせよ、あの男がどういう存在か、教会側が知っているのは確定しているらしい。
「…そうか、わかった。ありがとう」
そう言って席を立つ。
「あっ、ちょっ、もういいんですか?」
「あ?あぁ。ちょっと前任者の事を聞きたかっただけだ。でもまぁ、知らないなら仕方ない。ところでアンタ、ここの前の神父がどんなだったか、信者にも聞いてないのか?」
「え?あぁはい。時折前の神父はああだったこうだったと聞きはしますが、自分からは…」
「その評判は?」
「評判、ですか…悪くはなかったそうですよ。ただ、一定距離は置いていたような節はあったそうですが」
「ふーん…そうか。わかった。じゃあな」
「あっえ、はい。あの、お名前を伺ってもいいですか?」
そう神父に聞かれ、俺は手をヒラヒラと振るだけで返した。
別に名乗るほどのモンじゃねぇしな。
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