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本編
秘密と彼女
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その後、アーネとあちこちを歩き回り、それなりに楽しんでから家に戻った。三日目は少々地味だという話を聞いていたが、俺からしたら充分楽しめたし派手だったと思う。
夜も祭りに行くのかと思っていたが、どうやら祭りはあれで終わりらしく、夕方頃から撤収に入るらしい。店も出すものを出し切りたいのか、若干安くなってる気がした。
………気分が変わらんうちに言っとくか。
そう思い、夕食の時にアーネに後で俺の部屋に来るよう伝える。それと、今日から飯を食う時の並びが変わって、アーネが俺の隣に来た。別に、だからと言って何か大きな変化がある訳じゃないが、認めてくれたという認識でいいんだろう。多分。
「そんな急に言わなくてもいいんですわよ?」
少々驚いたように言うアーネに、
「逆だ。いっそ勢いつけて言っちまった方がいい」
と答える。
少し早めに夕食を終え、風呂なども済ませて一人自室で天井を見上げていると、ノックの音がした。
静かに扉を開けると、デカい胸が視界に広がり、そのまま視線を上にずらすとアーネと目が合う。
「本当に、話してくださいますのね?」
「どこまで話すかは分からんし、そもそも聞き取れるかどうか分からんがな。とりあえず、俺が今から話すことは嘘偽りのない話だって思ってくれて結構だ」
そう言って部屋にアーネを招き入れる。
続いてマキナを使って誰かに見られていないか、聞かれていないかを探ると、二つほど反応があった。天井裏と隣部屋に何か、あるいは誰かいるようだ。
マキナに魔力の使用を解放した上で全力で処理に当らせ、俺はアーネとテーブルを挟んで向かい合う。
「とりあえず…まず最初に、俺はヒトじゃない。ヒトを模して作られた駒、人造じゃなくて神造のユニット。種別は《勇者》。それが俺だ」
「…貴方の身体を幾度となく診ましたけれど、少々変わった体質以外、普通の人の身体と何一つ変わりませんでしたわよ?」
「神が作ったんだ。それぐらいは当たり前だろう。ただ、根本としてヒトとは違う存在だから、限りなくヒトに近いのに、決してヒトとは同じじゃない」
「じゃあ、人と貴方はどこが違うんですの?」
「そう言われると大差はない。ただ、多少はある。例えば、そもそもヒトじゃないからヒトがかかる病気にはならないとか、ヒトじゃないからヒトとの間に子供が出来ない、とかな」
「………。」
あまりにも荒唐無稽な話。予想の外側に行き過ぎた言葉ばかりで、アーネも若干戸惑うように黙る。
だが俺の舌は止まらない。
「《勇者》は別に俺一代って訳じゃない。必要な時に神が作って、死んでいく。今の世に《勇者》が必要だったから、俺が生まれた。それだけだ」
「…貴方の親は…産んだ親は、どこにいらっしゃるんですの?」
「居ない。《勇者》ってのは全部そこに要るってなったらそこに産まれる…らしい。だから親は居ない。普通に考えて、紅の森まで子供を捨てに来る親も居ないだろうし、まぁそういう事だな」
だからまぁ、と言葉を続ける。
「お前の親父さんの言ってた道具云々の話な、俺ちょっと納得しちまったんだよ。俺は生まれた時から死ぬまで多分、ずっと《勇者》だ。剣士である以前に、ヒトである以前に、《勇者》なんだ」
だから俺はヒトに憧れてしまった。
ヒトとしての死を求めてしまった。
そのためにアーネにレィアを背負わせた。
後出しじゃんけんじみた卑怯な手だと我ながら思う。
彼女が決めてから俺がこんなことを言うのは。
でも、それぐらい。
ただの名前として死んでいくのが──怖い。
誰も俺の事を覚えていない世界は、俺がいた記録すらない世界は、俺が居たのにいなかった。そういう世界だ。
生きていた《勇者》が死ねば《亡霊》になるのだと、俺は知ってしまった。
「………だからなんですの?」
アーネはそれを分かった上で、そう言ってくれた。
否、言わせたのだろう、俺が。
俺がそう求めたから。
「貴方が剣士である以前に、ヒトである以前に《勇者》とやらだとしても、それ以上に貴方は貴方、レィア・シィルでしょう?なら、私は貴方の全てを受け止めますわ」
「…少し長いぞ」
「構いませんわ。その程度の覚悟が無くて貴方を愛そうとは思っていませんもの」
夜も祭りに行くのかと思っていたが、どうやら祭りはあれで終わりらしく、夕方頃から撤収に入るらしい。店も出すものを出し切りたいのか、若干安くなってる気がした。
………気分が変わらんうちに言っとくか。
そう思い、夕食の時にアーネに後で俺の部屋に来るよう伝える。それと、今日から飯を食う時の並びが変わって、アーネが俺の隣に来た。別に、だからと言って何か大きな変化がある訳じゃないが、認めてくれたという認識でいいんだろう。多分。
「そんな急に言わなくてもいいんですわよ?」
少々驚いたように言うアーネに、
「逆だ。いっそ勢いつけて言っちまった方がいい」
と答える。
少し早めに夕食を終え、風呂なども済ませて一人自室で天井を見上げていると、ノックの音がした。
静かに扉を開けると、デカい胸が視界に広がり、そのまま視線を上にずらすとアーネと目が合う。
「本当に、話してくださいますのね?」
「どこまで話すかは分からんし、そもそも聞き取れるかどうか分からんがな。とりあえず、俺が今から話すことは嘘偽りのない話だって思ってくれて結構だ」
そう言って部屋にアーネを招き入れる。
続いてマキナを使って誰かに見られていないか、聞かれていないかを探ると、二つほど反応があった。天井裏と隣部屋に何か、あるいは誰かいるようだ。
マキナに魔力の使用を解放した上で全力で処理に当らせ、俺はアーネとテーブルを挟んで向かい合う。
「とりあえず…まず最初に、俺はヒトじゃない。ヒトを模して作られた駒、人造じゃなくて神造のユニット。種別は《勇者》。それが俺だ」
「…貴方の身体を幾度となく診ましたけれど、少々変わった体質以外、普通の人の身体と何一つ変わりませんでしたわよ?」
「神が作ったんだ。それぐらいは当たり前だろう。ただ、根本としてヒトとは違う存在だから、限りなくヒトに近いのに、決してヒトとは同じじゃない」
「じゃあ、人と貴方はどこが違うんですの?」
「そう言われると大差はない。ただ、多少はある。例えば、そもそもヒトじゃないからヒトがかかる病気にはならないとか、ヒトじゃないからヒトとの間に子供が出来ない、とかな」
「………。」
あまりにも荒唐無稽な話。予想の外側に行き過ぎた言葉ばかりで、アーネも若干戸惑うように黙る。
だが俺の舌は止まらない。
「《勇者》は別に俺一代って訳じゃない。必要な時に神が作って、死んでいく。今の世に《勇者》が必要だったから、俺が生まれた。それだけだ」
「…貴方の親は…産んだ親は、どこにいらっしゃるんですの?」
「居ない。《勇者》ってのは全部そこに要るってなったらそこに産まれる…らしい。だから親は居ない。普通に考えて、紅の森まで子供を捨てに来る親も居ないだろうし、まぁそういう事だな」
だからまぁ、と言葉を続ける。
「お前の親父さんの言ってた道具云々の話な、俺ちょっと納得しちまったんだよ。俺は生まれた時から死ぬまで多分、ずっと《勇者》だ。剣士である以前に、ヒトである以前に、《勇者》なんだ」
だから俺はヒトに憧れてしまった。
ヒトとしての死を求めてしまった。
そのためにアーネにレィアを背負わせた。
後出しじゃんけんじみた卑怯な手だと我ながら思う。
彼女が決めてから俺がこんなことを言うのは。
でも、それぐらい。
ただの名前として死んでいくのが──怖い。
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生きていた《勇者》が死ねば《亡霊》になるのだと、俺は知ってしまった。
「………だからなんですの?」
アーネはそれを分かった上で、そう言ってくれた。
否、言わせたのだろう、俺が。
俺がそう求めたから。
「貴方が剣士である以前に、ヒトである以前に《勇者》とやらだとしても、それ以上に貴方は貴方、レィア・シィルでしょう?なら、私は貴方の全てを受け止めますわ」
「…少し長いぞ」
「構いませんわ。その程度の覚悟が無くて貴方を愛そうとは思っていませんもの」
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