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本編
家族会議と誓約
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なんか騒ぎになった。
エルストイがいそいそと来た方向へと戻り、家族会議か、じゃあ俺関係ないなと思い、部屋に戻って五分もしないうちに、メイドさんが俺を呼びに来た。
なんで俺も呼ばれるんだろうと思いながら案内されると、神妙な顔をしたアーネの親父さんと、ニコニコと笑っているアーネの母親がいた。
「やぁレィア君。今朝ぶりだね。体調はもう良くなったのかい」
「あぁ。恥ずかしい話だが、ただの寝不足だったしな。多少寝りゃなんとか」
別に絶好調という訳では無いが、これぐらいなら問題は無い。
「そうか。ひとまず席に着きなさい」
「はぁ」
なんだろうか、座ったはいいが…いつもより距離が遠い。まるで尋問でも受けている気分だ。
…はて、家族会議…だよな?何故部外者の俺が渦中にいるようなことになっているのか。
そこで丁度エルストイが俺の後ろのドアから部屋に入ってくる。
「エル、アーネの様子は」
「まだ寝てるみたいだ。もう少しで起きると思うけど…無理矢理起こすかい?」
「いや、今はいい。それなら起き次第こちらに来るようアーネに伝えてくれ、モーリス」
「かしこまりました」
そういうやり取りをしつつ、エルストイも向こう側に座る。
「では先に彼の方から聞こう──レィア君」
「うん?」
「単刀直入に聞くが、君はアーネと付き合っているのかい?」
アーネの父親──というのも面倒だ、名前は確かニコラスだったか。ニコラスがそう聞いてきた。
俺はその問いに少し考え、
「多分違う」
と答えた。
「その言葉に裏の意味はあるのかい?」
「裏の意味ってのはよく分からないが…少なくとも、一般的な恋愛とかそう言うのじゃないと思う。断言出来ることは、俺はアーネを人物の好悪としては好きだが、アーネ個人を恋愛の対象としては見ていられない」
アーネから、あるいは聖学の図書館で借りた本でいくつか、そういう恋愛関係の本を読んだ。
もちろん、感情とはそれだけで分かるものでは無いだろう。だが、今俺が持っている感情は、きっとそれとはかけ離れている。
「なら…その、身体が目当てなのか?」
「生憎と、そういう目でも見ることは無いな。肉付きがいい事が悪いとは言わないが、個人的な趣味を言うならもっと引き締まっている方が好みだ」
あとは育った環境のせいか。女の裸程度じゃ何も思わんのよな。
「…なら、アーネから君に告白したのか?」
「まぁそうだな。昨日の帰りに急にキスされた」
そう言うと、アーネの母親が小さく「まぁ」と言って口元を軽く押さえる。
「な、なるほど。そうか。なら、さっきアーネにその答えを伝えたのかな?」
「あぁ。生憎と学も無けりゃ経験も無いもんで、言葉にはならなかったが、あいつの気持ちには出来るだけ応じるつもりだ」
「…どうして好きでもないのに付き合うと?言葉は悪いが、うちの娘をキープしようと言うのかい?」
「んー…あー…」
少しだけ考える。
あんな話をまたするのは流石に…小っ恥ずかしい。
「理由はいくつかある。けどひとつ言うなら、俺が死ぬ時に誰かに看取られて死ぬなら。そう思った時、アーネだといいと思えたから…かな」
ニコラスが僅かに目を見開く。
「残された側のことは考えないのか?」
「………その辺も考えて、俺も断るつもりだった。けど、アーネに押し切られた。あいつは俺を必ず助けると、助けられなくても、前に進むと、そう約束してくれた」
「あの子がどんな思いでそれを言ったか、君は理解しているのかね?」
「…変な言い方になるけど、わかるけどわかんねぇ。俺は多分、未だに死に囚われてる側だから。だから胸張ってアーネと付き合ってるって言えねぇ」
言おうか、言うまいか。一瞬悩み、そして言うと決めた。
「俺が聖学に入った理由は、目の前の女の子一人を悲しませる事が嫌だったからだ。昔、俺の家の近くで、ふとした拍子に聖女が泣いた。それが嫌で、彼女を守ろうとして、聖学に入った。それが理由だ」
その為だけに、檻のような森から飛び出した。
「だから俺はさっき、一人で勝手に俺のこの根っこのような感情に、ひとつ、新しく誓った。何があろうと、何が起きようと、アーネ・ケイナズを悲しませない。俺がアーネを絶対に悲しませない《緋眼騎士》になる」
たとえ瞳を灼かれても。
たとえ喉を裂かれても。
たとえ腕を捥がれても。
全ての艱難辛苦から彼女を守ろう。
「…君が死ぬ事が、アーネの一番の悲しみになるだろう」
「だったら俺は死なない。絶対に、どこへ行こうとも、必ず戻る。たとえ地獄の底へ行こうとも、天の彼方へ行こうとも。必ず生きて帰ってみせる」
悲しませない。ただそれだけのために、俺は最強という二文字にすら手を伸ばそう。
そして、いつか。
「そんで、いつかアーネが笑って俺を見送ってくれるまで、俺は生きてアーネを守り続ける」
アーネを幸せには出来ないとしても、俺は絶対に彼女を悲しませない。
それが俺が俺に誓った、新しい誓約だ。
エルストイがいそいそと来た方向へと戻り、家族会議か、じゃあ俺関係ないなと思い、部屋に戻って五分もしないうちに、メイドさんが俺を呼びに来た。
なんで俺も呼ばれるんだろうと思いながら案内されると、神妙な顔をしたアーネの親父さんと、ニコニコと笑っているアーネの母親がいた。
「やぁレィア君。今朝ぶりだね。体調はもう良くなったのかい」
「あぁ。恥ずかしい話だが、ただの寝不足だったしな。多少寝りゃなんとか」
別に絶好調という訳では無いが、これぐらいなら問題は無い。
「そうか。ひとまず席に着きなさい」
「はぁ」
なんだろうか、座ったはいいが…いつもより距離が遠い。まるで尋問でも受けている気分だ。
…はて、家族会議…だよな?何故部外者の俺が渦中にいるようなことになっているのか。
そこで丁度エルストイが俺の後ろのドアから部屋に入ってくる。
「エル、アーネの様子は」
「まだ寝てるみたいだ。もう少しで起きると思うけど…無理矢理起こすかい?」
「いや、今はいい。それなら起き次第こちらに来るようアーネに伝えてくれ、モーリス」
「かしこまりました」
そういうやり取りをしつつ、エルストイも向こう側に座る。
「では先に彼の方から聞こう──レィア君」
「うん?」
「単刀直入に聞くが、君はアーネと付き合っているのかい?」
アーネの父親──というのも面倒だ、名前は確かニコラスだったか。ニコラスがそう聞いてきた。
俺はその問いに少し考え、
「多分違う」
と答えた。
「その言葉に裏の意味はあるのかい?」
「裏の意味ってのはよく分からないが…少なくとも、一般的な恋愛とかそう言うのじゃないと思う。断言出来ることは、俺はアーネを人物の好悪としては好きだが、アーネ個人を恋愛の対象としては見ていられない」
アーネから、あるいは聖学の図書館で借りた本でいくつか、そういう恋愛関係の本を読んだ。
もちろん、感情とはそれだけで分かるものでは無いだろう。だが、今俺が持っている感情は、きっとそれとはかけ離れている。
「なら…その、身体が目当てなのか?」
「生憎と、そういう目でも見ることは無いな。肉付きがいい事が悪いとは言わないが、個人的な趣味を言うならもっと引き締まっている方が好みだ」
あとは育った環境のせいか。女の裸程度じゃ何も思わんのよな。
「…なら、アーネから君に告白したのか?」
「まぁそうだな。昨日の帰りに急にキスされた」
そう言うと、アーネの母親が小さく「まぁ」と言って口元を軽く押さえる。
「な、なるほど。そうか。なら、さっきアーネにその答えを伝えたのかな?」
「あぁ。生憎と学も無けりゃ経験も無いもんで、言葉にはならなかったが、あいつの気持ちには出来るだけ応じるつもりだ」
「…どうして好きでもないのに付き合うと?言葉は悪いが、うちの娘をキープしようと言うのかい?」
「んー…あー…」
少しだけ考える。
あんな話をまたするのは流石に…小っ恥ずかしい。
「理由はいくつかある。けどひとつ言うなら、俺が死ぬ時に誰かに看取られて死ぬなら。そう思った時、アーネだといいと思えたから…かな」
ニコラスが僅かに目を見開く。
「残された側のことは考えないのか?」
「………その辺も考えて、俺も断るつもりだった。けど、アーネに押し切られた。あいつは俺を必ず助けると、助けられなくても、前に進むと、そう約束してくれた」
「あの子がどんな思いでそれを言ったか、君は理解しているのかね?」
「…変な言い方になるけど、わかるけどわかんねぇ。俺は多分、未だに死に囚われてる側だから。だから胸張ってアーネと付き合ってるって言えねぇ」
言おうか、言うまいか。一瞬悩み、そして言うと決めた。
「俺が聖学に入った理由は、目の前の女の子一人を悲しませる事が嫌だったからだ。昔、俺の家の近くで、ふとした拍子に聖女が泣いた。それが嫌で、彼女を守ろうとして、聖学に入った。それが理由だ」
その為だけに、檻のような森から飛び出した。
「だから俺はさっき、一人で勝手に俺のこの根っこのような感情に、ひとつ、新しく誓った。何があろうと、何が起きようと、アーネ・ケイナズを悲しませない。俺がアーネを絶対に悲しませない《緋眼騎士》になる」
たとえ瞳を灼かれても。
たとえ喉を裂かれても。
たとえ腕を捥がれても。
全ての艱難辛苦から彼女を守ろう。
「…君が死ぬ事が、アーネの一番の悲しみになるだろう」
「だったら俺は死なない。絶対に、どこへ行こうとも、必ず戻る。たとえ地獄の底へ行こうとも、天の彼方へ行こうとも。必ず生きて帰ってみせる」
悲しませない。ただそれだけのために、俺は最強という二文字にすら手を伸ばそう。
そして、いつか。
「そんで、いつかアーネが笑って俺を見送ってくれるまで、俺は生きてアーネを守り続ける」
アーネを幸せには出来ないとしても、俺は絶対に彼女を悲しませない。
それが俺が俺に誓った、新しい誓約だ。
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