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本編
腐屍者と勇者 終
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どうやら夢の中では血が流れないらしい。
その癖に血を媒体にした血界が作用するのは不思議な感覚だが──。
そんな事をぼんやりと立ちながら考えていた。
「レィアッ!!」
俺の右半身は無残な姿を晒していた。
具体的に、右腕はすべて消え、右肩、右胸の一部を丸く抉られていた。
それに、直前まで圧殺されそうな程強烈に潰されていたため、身体のいたるところにヒビや痣があるのだろう、右半身だけでなく、全身が熱を持って痛みを訴えている。
が、しかし。
「──何と、何とも。いやはや」
そう呟く物体を、俺は見下ろす。
「見事。見事だったぞ。お主は見事この腐屍者、ジェルジネン・クラヴジェールを倒したのだ。その矮小なる身で、未熟なる技術で。よくぞやってのけた」
ジェルジネンの魔術は俺の右半身を吹き飛ばしたが、血鎧はしっかりと作用していた。それでも右腕が消滅したのは流石という所か。
血鎧が集めた魔術は俺の内側を通り、左の手のひらを通じて金剣に収束。
絶大なる一撃を繰り出した。
その結果、ジェルジネンの胸から下、腹や腰や足、更には巻き添えを食った腕までが消し飛んでいた。
胸から上の首と顔だけになってもそれでも喋り続けるジェルジネン。
「──お主、名は何と言ったか」
「あ?最初に名乗ったろうが」
金剣を地面に突き刺し、それを支えにする。じゃなきゃ今にも倒れそうだ。
「──済まない。何百年、何千年と生き続けるうちに、記憶が曖昧になっているのだ。故に、先程聞いたお主の名前を忘れてしまった」
何百、何千年と生き続けてきた。
彼はそう言った。それが最古の魔族、という事なのだろう。
「そうか。なら改めて名乗ってやる。二度と忘れるんじゃねぇぞ」
ふぅ、と一度息を吐く。
「レィア・フィーネ。テメェら妖魔族を滅ぼす、《勇者》に選ばれた英雄志望者だよ」
「──成程、覚えた」
そう言うと同時に、サラサラと腐屍者の端から砂のようになって消えていく。
「また会おう、レィアよ。次に会うのは何時になるだろうか?だが構わない。必ずお前の前に現れ、次は──」
「ッ!!」
ジェルジネンが力を解放したのだろう。最初にここへ現れた時の数倍にもなるであろう、純然たる力が溢れる。
「──次は、本気で相見えられるを祈る。あぁ、それと」
「あん?」
「──シャルレーゼに、良い後継者を見つけたな、と言っておいてくれ」
そう言うと、ジェルジネンは完全に砂になり、消えた。
「シャルレーゼ?誰だそれ?」
そう呟いた瞬間、乳白色の世界が一瞬歪んだような錯覚を受ける。
「なんっ──」
が、即座にそれが修正される。
「今ので…ドレインライフの魔法が消えた…のか?」
「じゃねぇの?」
チャチ、チャリと後ろから誰かが近づいて来る音がする。
「シャル?」
「おう。…あ、待て。振り向くなよ」
「…なんでダメなんだよ」
「色んな事情だ」
聞き慣れた声が後ろから聞こえる。
そして。
「のわっ」
「良くやった」
後ろから抱き着かれたらしい。
銀色の篭手と引き締まった左腕が俺の後ろから回され、背中に金属らしい物で出来た胸当てが当たる感触がある。
「本当に、良くやった」
「………なぁシャル、お前ってもしかして」
「んー?なんか言ったー?」
「…聞こえないフリですか、そうですか」
そう言った所で身体に異変が起きた。
身体に書き込まれた魔方陣もどきが、光を発したのだ。
「レィア」
「あん?」
「忘れるなよ?魔族はしぶとく、執念深く、何より計算高い。アレは絶対に倒しきれていない。それを絶対、絶対に忘れるなよ?」
「…分かってるさ」
──「また会おう」
腐屍者の声が俺の頭の中で響いた丁度その時、魔法陣が発動し。
俺は再びあの気持ち悪い空間に放り込まれた。
その癖に血を媒体にした血界が作用するのは不思議な感覚だが──。
そんな事をぼんやりと立ちながら考えていた。
「レィアッ!!」
俺の右半身は無残な姿を晒していた。
具体的に、右腕はすべて消え、右肩、右胸の一部を丸く抉られていた。
それに、直前まで圧殺されそうな程強烈に潰されていたため、身体のいたるところにヒビや痣があるのだろう、右半身だけでなく、全身が熱を持って痛みを訴えている。
が、しかし。
「──何と、何とも。いやはや」
そう呟く物体を、俺は見下ろす。
「見事。見事だったぞ。お主は見事この腐屍者、ジェルジネン・クラヴジェールを倒したのだ。その矮小なる身で、未熟なる技術で。よくぞやってのけた」
ジェルジネンの魔術は俺の右半身を吹き飛ばしたが、血鎧はしっかりと作用していた。それでも右腕が消滅したのは流石という所か。
血鎧が集めた魔術は俺の内側を通り、左の手のひらを通じて金剣に収束。
絶大なる一撃を繰り出した。
その結果、ジェルジネンの胸から下、腹や腰や足、更には巻き添えを食った腕までが消し飛んでいた。
胸から上の首と顔だけになってもそれでも喋り続けるジェルジネン。
「──お主、名は何と言ったか」
「あ?最初に名乗ったろうが」
金剣を地面に突き刺し、それを支えにする。じゃなきゃ今にも倒れそうだ。
「──済まない。何百年、何千年と生き続けるうちに、記憶が曖昧になっているのだ。故に、先程聞いたお主の名前を忘れてしまった」
何百、何千年と生き続けてきた。
彼はそう言った。それが最古の魔族、という事なのだろう。
「そうか。なら改めて名乗ってやる。二度と忘れるんじゃねぇぞ」
ふぅ、と一度息を吐く。
「レィア・フィーネ。テメェら妖魔族を滅ぼす、《勇者》に選ばれた英雄志望者だよ」
「──成程、覚えた」
そう言うと同時に、サラサラと腐屍者の端から砂のようになって消えていく。
「また会おう、レィアよ。次に会うのは何時になるだろうか?だが構わない。必ずお前の前に現れ、次は──」
「ッ!!」
ジェルジネンが力を解放したのだろう。最初にここへ現れた時の数倍にもなるであろう、純然たる力が溢れる。
「──次は、本気で相見えられるを祈る。あぁ、それと」
「あん?」
「──シャルレーゼに、良い後継者を見つけたな、と言っておいてくれ」
そう言うと、ジェルジネンは完全に砂になり、消えた。
「シャルレーゼ?誰だそれ?」
そう呟いた瞬間、乳白色の世界が一瞬歪んだような錯覚を受ける。
「なんっ──」
が、即座にそれが修正される。
「今ので…ドレインライフの魔法が消えた…のか?」
「じゃねぇの?」
チャチ、チャリと後ろから誰かが近づいて来る音がする。
「シャル?」
「おう。…あ、待て。振り向くなよ」
「…なんでダメなんだよ」
「色んな事情だ」
聞き慣れた声が後ろから聞こえる。
そして。
「のわっ」
「良くやった」
後ろから抱き着かれたらしい。
銀色の篭手と引き締まった左腕が俺の後ろから回され、背中に金属らしい物で出来た胸当てが当たる感触がある。
「本当に、良くやった」
「………なぁシャル、お前ってもしかして」
「んー?なんか言ったー?」
「…聞こえないフリですか、そうですか」
そう言った所で身体に異変が起きた。
身体に書き込まれた魔方陣もどきが、光を発したのだ。
「レィア」
「あん?」
「忘れるなよ?魔族はしぶとく、執念深く、何より計算高い。アレは絶対に倒しきれていない。それを絶対、絶対に忘れるなよ?」
「…分かってるさ」
──「また会おう」
腐屍者の声が俺の頭の中で響いた丁度その時、魔法陣が発動し。
俺は再びあの気持ち悪い空間に放り込まれた。
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