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本編
瞳と痕
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見た瞬間わかった。あれがシエルの中に巣食う存在。
《魔王》だ。
瞳は何かする訳でもなく、ただじっとこちらを見下ろしているだけだ。
次の瞬間、厚い雲が空を一瞬だけ覆った。
たったそれだけで雲も消え、空に浮かぶ瞳も消えた。
それ以降、最早もう一度それを臨む事は出来ない。
空は晴れ、心地よい風が俺の肌を擽る。
それこそ夢ではないか、幻術ではないか。そう思えるような。いや、そう思えるような、ではなく。そう思いたいのだ。
一目見てここまでゾッとする事もそう無い。
だが、確かにあれはそこにあった。
空が戻っても草木は戻らない。枯れたまま、死んだままのこの空間が、あれのいた事を証明している。
そして何より、ついさっきまで笑っていたシエルが、怯えて縮こまり、膝を抱えてカタカタと震えているのがその証拠だ。
やがてシエルの精神が限界に来たのか、それとも他の要因か、空間がほつれるように端から霧になっていく。
せめてもとシエルの手を取って落ち着けようと手を伸ばす。
その瞬間、シエルと目が合った。
金に輝き、縦に割れた爬虫類のようなその目と。
「っ」
身体から立ち上る濃い死の気配、これはシエルではない。違う別の何かだ。
伸ばす手を止め、しかしそれを掴み返される。
ギリギリと万力のような力で手首を握られ、思わず呻き声を上げる。
手首が砕ける。そう確信めいた予感を感じた瞬間、ふっと全てが消える。
「………!…………!」
誰かの声が聞こえる。シエルとは別の誰かだ。
「ッ、はーッ、はーッ、はーッ、はーッ…」
起きた瞬間、そんな荒々しい呼気と共に身を起こす。寝ていたことすら知らなかったが。
危なかった。あと一秒でも長く握られていたら、間違いなく手が逝っていた、いや、それどころでは無い、もっと不味いことが起きていた気さえする。
「だ、大丈夫ですの!?」
発した声は、自分で笑ってしまいそうになるほど声が震えていた。
「……アーネか。俺は大丈夫…シエルは?」
そう言うと、視界の隅にやや苦しそうな面持ちで頭を振りながら身を起こすシエルが見えた。かなり辛そうだが、あちらにはモーリスさんがついている。恐らく大丈夫だろう。
「一体何があったんですの?」
「………シエルが魔法を使って暴発した。詳しくないからわからんが、多分そうだろう」
そう言って少し痛む頭を押さえる。半分ぐらいは本当だし、間違ってもいない。
「……その手、どうしましたの?」
「あ?」
アーネに指をさされてからそれに気づく。
頭を押さえようと伸ばした右の手、その手首のあたり。
黒い何かが纏わりついており、一目見て誰もが異様だと気づくだろう。
髪で触れても特に痛くはない。感覚もある。日常生活には何の問題も無さそうだ。
ただ、それが《魔王》につけられたものであるのは明白。
それだけで嫌な予感しかしない。
《魔王》だ。
瞳は何かする訳でもなく、ただじっとこちらを見下ろしているだけだ。
次の瞬間、厚い雲が空を一瞬だけ覆った。
たったそれだけで雲も消え、空に浮かぶ瞳も消えた。
それ以降、最早もう一度それを臨む事は出来ない。
空は晴れ、心地よい風が俺の肌を擽る。
それこそ夢ではないか、幻術ではないか。そう思えるような。いや、そう思えるような、ではなく。そう思いたいのだ。
一目見てここまでゾッとする事もそう無い。
だが、確かにあれはそこにあった。
空が戻っても草木は戻らない。枯れたまま、死んだままのこの空間が、あれのいた事を証明している。
そして何より、ついさっきまで笑っていたシエルが、怯えて縮こまり、膝を抱えてカタカタと震えているのがその証拠だ。
やがてシエルの精神が限界に来たのか、それとも他の要因か、空間がほつれるように端から霧になっていく。
せめてもとシエルの手を取って落ち着けようと手を伸ばす。
その瞬間、シエルと目が合った。
金に輝き、縦に割れた爬虫類のようなその目と。
「っ」
身体から立ち上る濃い死の気配、これはシエルではない。違う別の何かだ。
伸ばす手を止め、しかしそれを掴み返される。
ギリギリと万力のような力で手首を握られ、思わず呻き声を上げる。
手首が砕ける。そう確信めいた予感を感じた瞬間、ふっと全てが消える。
「………!…………!」
誰かの声が聞こえる。シエルとは別の誰かだ。
「ッ、はーッ、はーッ、はーッ、はーッ…」
起きた瞬間、そんな荒々しい呼気と共に身を起こす。寝ていたことすら知らなかったが。
危なかった。あと一秒でも長く握られていたら、間違いなく手が逝っていた、いや、それどころでは無い、もっと不味いことが起きていた気さえする。
「だ、大丈夫ですの!?」
発した声は、自分で笑ってしまいそうになるほど声が震えていた。
「……アーネか。俺は大丈夫…シエルは?」
そう言うと、視界の隅にやや苦しそうな面持ちで頭を振りながら身を起こすシエルが見えた。かなり辛そうだが、あちらにはモーリスさんがついている。恐らく大丈夫だろう。
「一体何があったんですの?」
「………シエルが魔法を使って暴発した。詳しくないからわからんが、多分そうだろう」
そう言って少し痛む頭を押さえる。半分ぐらいは本当だし、間違ってもいない。
「……その手、どうしましたの?」
「あ?」
アーネに指をさされてからそれに気づく。
頭を押さえようと伸ばした右の手、その手首のあたり。
黒い何かが纏わりついており、一目見て誰もが異様だと気づくだろう。
髪で触れても特に痛くはない。感覚もある。日常生活には何の問題も無さそうだ。
ただ、それが《魔王》につけられたものであるのは明白。
それだけで嫌な予感しかしない。
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