大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

紙と手紙

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その後の話だが、まず俺はルプセルから紙を一枚手渡された。木から作った良い奴だな。
ペラリと見てみると、そこに書いてあるのは中々お目にかかれないような数字。単位はお金と同じ。
下の方にはルプセルのサインと家紋が押されている。
「あー、えっと?」
「君が壊した家屋の損害賠償請求だ。ひとまずは立て替えたが、最終的には君に全て払ってもらう。期日は三年。利子は無しにしておこうか」
「そんがいばいしょう…」
そう言えば、最後の血界はまるでコントロール出来ていなかった。せいぜいが巫女の方へ落ちるよう大雑把に向けただけで、あとは何もしていない。
あんな暴れ狂う力の奔流みたいな物をぶっぱなしておいて、周りに被害が無いなどということは有り得ない。
「ちなみに死傷者ってのは…」
「幸いにも死者はいない。重軽傷者は合わせて八名。いずれも命に別状は無い上、既に治療済みで後遺症も無い。少し揉めたが、その辺も損害賠償の中に入っている」
死人が出なかったのは良かったが…うーん…高ぇ。
宝石を売れば多分賄えるが、一度に放出するのは不味いと言っていたし、出処も聞かれるか。
「ちなみに三年かかって払い切れない場合はどうなる?」
「ふむ…そうだな、では私の所で兵士として働いてもらう。給金をその分に宛てがうとしよう」
「うげ」
流石にそれは困る。三年後には──と、ここでふと思う。
三年後、俺は何をしているのだろうか。
英雄になるために森を出たが、英雄の座がすぐに空くとは限らない。空いても聖学の勇者もいるし、空いている椅子に入ろうとする輩も多いだろう。
森に戻るのか。
それとも、魔族を求めて外へ行くのか。
また、魔族を滅ぼした時、俺はどうなるのか。
分からない。分からないから──
「………。」
俺は髪の中から宝石を二つ出した。
「これならいくらで買う?」
ルプセルはそれを見て僅かに眉を動かしたが、それだけだった。
「残念だが私は宝石を買うような趣味を持っていない。龍人種ドラゴニアンなら話は別だろうが…他を当たりなさい」
「そうか」
出来るだけここにいる間に金は払ってしまっておきたい。貸し借りはかさむと面倒だし、ちゃんと果たせるかどうか分からないような話なら尚更だ。
ユーリアから先日受け取った金を、ほんの少しだけ手元に残して、残りを全てルプセルに渡す。
「ふむ。一割にも満たないが、ひとまずは受け取ろう」
「近いうちにある程度は先に払う。三年も待たせねぇ。絶対だ」
「一番簡単な方法として、ユーリアと結婚すると言う手があるが。どうするかね」
それを聞いた瞬間、俺は思わずルプセルの顔を二度見した。
「あいつにアゼロスを薦めたのはアンタだよな?」
「勿論。だが、ユーリアのメッセージに書いてあったように、あの子が君の事を好いているのであれば、そちらを優先しても構わない。アゼロス君には諦めてもらうか、君達が許すのなら内縁の夫としても構わない。逆もまた然りだ」
三年後どころかさらにその先の話までされて、少々混乱してきた。いや待て、よく考えりゃユーリアって確か二十歳近かったはず…いや、超えてたっけ?ならそんなに遠い話でもない…いやいや。
「……何が目的なんだ?」
「ただの父親として、娘の好きなようにさせてやりたいという事と、大貴族の長として、次世代のことも考えているだけだ」
その目は真っ直ぐで、とても嘘をついているようには見えない。
「婚約の事が嫌で、あいつがアンタに嘘をついて俺の事を報告したって知ってる?」
「知っているとも。だが、嫌いな相手にそういう頼み事をする訳もあるまい。多少なりとも好いていなければ、気を許していなければ頼めるはずもない。ましてや婚約ともなればね」
頭が痛くなる。右手を頭にやって、分かりやすくため息をつく。
「残念ながら答えはノーだ。俺とアゼロスなら、アゼロスの方がよっぽどいい」
「そうか。君自身がそう言うのならそうなのだろう」
あっさりと引くあたり、そこまで本気ではなかったか。嫌な冗談もあったものだな。
話はこれで終わりだろう。そう思って踵を返し、部屋に戻ろうとする。
「ところでもう一枚、今度は手紙を預かっている」
「あん?」
手紙?はて。誰からだろうか。
受け取って開いてみると、よほど慌てていたのか、それとも急いでいたのか、随分と乱れた字だけが書いてある。宛名も差出人も書いてないが、ルプセルに聞くまでもなく誰か分かった。
「ははっ」
思わず声を上げて笑う。
「何かあったかね」
「いんや、大した事じゃないさ」
手紙には一言「今度会ったら、事情を説明してもらいますわよ!」とだけ書いてある。よくよく見れば、何かが引っ掻いたような跡があり、どうやらそれは同じ筆跡の文字らしい。他の便箋に色々と書いた時に下に引いてあったからだろうか。変な所で抜けている。
ルプセルの話は今度こそ、これで終わりだったらしく、俺は部屋に戻ってベッドの上で仰向けに寝転がる。
そしてもう一度手紙を取り出して眺める。
よっぽど急いでいたのだろう、アイツらしからぬ字の暴れっぷりだ。
「また命を救ってもらったんだ、こりゃ行かにゃならんなぁ」
そう言ってひとしきり笑い、俺は再びベッドに入って朝まで過ごした。
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