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本編
血と生死
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そこでは、尋常の戦いでは起こり得ないことが起こっていた。
互いの刃が互いの命を狙って繰り出されるというのに、互いがまるで防御をしない。
だから自身の身体が切り刻まれる──という事は、しかしながら全く起きない。
俺は今までの戦闘経験故に。
女は過去に死んだ亡霊達の助言故に。
互いの動作を読み合い、最適な一手を打つが、それすらも尋常ではない速度で反応し、回避される。
見るものが居れば恐らく見惚れるだろう。命のやり取りであるというのに、いや、だからこそこの一進一退の攻防が美しく見えるのだ。
相手のリーチは俺より長い。それは持つ武器の差でもあるし、平均より若干低い俺自身の背丈のせいもある。
だからこそ踏み込み、回避し、肉薄して相手を斬ろうとする。
しかし、向こうもそれをわかっている。百戦錬磨の亡霊達の助言を全て受け止め、尚且つその指示通りに行動出来る肉体と反応。
そして、互いの目的が『相手を殺す』という一点に絞られている以上、何百何千と殺してきた俺達にはどうすれば殺されるかが分かる。
そういった読み合いも含めて。
限界が先に来たのは俺の方だった。
汗が止まらない。それはスキルを使う余裕が無いからという事もあるが──手足がゆっくり冷えている感覚。
血が足りない。
そう自覚した瞬間、血刃が揺らいだ。
当たり前と言えば当たり前。元々俺の血界の燃費は良くない。それをマキナを使って補ったり、どうにかして血界の使用量を減らして誤魔化していただけ。
しかし今回は常時全力戦闘。マキナの助力もない。
ペース配分を間違えたか?いや、こうでもしないと追いつけなかった。
対する向こうの勇者はまるで問題無さそうだ。ぐらついた俺の姿勢を見て、罠かどうか一瞬疑う素振りを見せた後、血刃を真っ直ぐに振り下ろす。
『レィアっ──!!』
回避は出来ない。血が足りないとか力が入らないとか、そういう問題ではない。姿勢を崩した瞬間自体が、回避をし損ねて行った転倒だからだ。
ぞぶり、と。
自分ではない冷たい何かが左の鎖骨を切断し、胸を切り裂く。肺に血が流れ込み、陸で溺れる。
大量の血が血管から外れ、外へと漏れ出る。身体の温度は急激に下がり、肌は青白く、視界は狭まる。意識もやがて手放されるだろう。それは失血故か、それとも死に至るからか。
この間僅かに半秒。
そこまで来て、ようやく間に合った。
女勇者の血刃が突如解ける。
「!?」
当然俺の身体を斜めに斬っていた刃も消え、ただの血の塊になる。
突然の出来事に相手が驚き、しかし死に体の俺のことを思い出したのか、蹴りを放つ。
が、遅い。
「!」
常人から見れば充分過ぎるほど早いが、先程までの速度は無い。
俺はまだ第二血界が発動している身体でそれを受け止め、血が溢れ出る身体を起こす。
「シね」
肺に血があるせいだろうか。酷く息苦しい。
血を体内に戻しつつ、握った足をそのまま握り折る。
俺がした事は単純明快。
相手の血界を血海で取り込んだだけ。
そのせいで血刃が。いや、それと一緒に血呪まで消えたのだろう。
それに気づいた相手が再び第二血界を張り、一度距離を取る。しかし俺はもう一度刃で切り合いをする気は無い。
「《遺された泡沫の夢》」
詠唱短縮。魔法は門外漢だが、アーネやユーリア達のような達人が周りにいれば、嫌でもこれぐらいの事は出来るようになる。
奪った物を含め、膨大な量に膨れ上がった血。そこに合わせるのは第一の鎖。
「起動…《血鎖》」
発動直後、俺の左の鎖骨辺りから大量の鎖が飛び出、勇者に殺到する。
増幅魔法の効果は十秒程度。その間ありったけの鎖を叩き込み、魔法が掻き消え、反動で俺は倒れた。
互いの刃が互いの命を狙って繰り出されるというのに、互いがまるで防御をしない。
だから自身の身体が切り刻まれる──という事は、しかしながら全く起きない。
俺は今までの戦闘経験故に。
女は過去に死んだ亡霊達の助言故に。
互いの動作を読み合い、最適な一手を打つが、それすらも尋常ではない速度で反応し、回避される。
見るものが居れば恐らく見惚れるだろう。命のやり取りであるというのに、いや、だからこそこの一進一退の攻防が美しく見えるのだ。
相手のリーチは俺より長い。それは持つ武器の差でもあるし、平均より若干低い俺自身の背丈のせいもある。
だからこそ踏み込み、回避し、肉薄して相手を斬ろうとする。
しかし、向こうもそれをわかっている。百戦錬磨の亡霊達の助言を全て受け止め、尚且つその指示通りに行動出来る肉体と反応。
そして、互いの目的が『相手を殺す』という一点に絞られている以上、何百何千と殺してきた俺達にはどうすれば殺されるかが分かる。
そういった読み合いも含めて。
限界が先に来たのは俺の方だった。
汗が止まらない。それはスキルを使う余裕が無いからという事もあるが──手足がゆっくり冷えている感覚。
血が足りない。
そう自覚した瞬間、血刃が揺らいだ。
当たり前と言えば当たり前。元々俺の血界の燃費は良くない。それをマキナを使って補ったり、どうにかして血界の使用量を減らして誤魔化していただけ。
しかし今回は常時全力戦闘。マキナの助力もない。
ペース配分を間違えたか?いや、こうでもしないと追いつけなかった。
対する向こうの勇者はまるで問題無さそうだ。ぐらついた俺の姿勢を見て、罠かどうか一瞬疑う素振りを見せた後、血刃を真っ直ぐに振り下ろす。
『レィアっ──!!』
回避は出来ない。血が足りないとか力が入らないとか、そういう問題ではない。姿勢を崩した瞬間自体が、回避をし損ねて行った転倒だからだ。
ぞぶり、と。
自分ではない冷たい何かが左の鎖骨を切断し、胸を切り裂く。肺に血が流れ込み、陸で溺れる。
大量の血が血管から外れ、外へと漏れ出る。身体の温度は急激に下がり、肌は青白く、視界は狭まる。意識もやがて手放されるだろう。それは失血故か、それとも死に至るからか。
この間僅かに半秒。
そこまで来て、ようやく間に合った。
女勇者の血刃が突如解ける。
「!?」
当然俺の身体を斜めに斬っていた刃も消え、ただの血の塊になる。
突然の出来事に相手が驚き、しかし死に体の俺のことを思い出したのか、蹴りを放つ。
が、遅い。
「!」
常人から見れば充分過ぎるほど早いが、先程までの速度は無い。
俺はまだ第二血界が発動している身体でそれを受け止め、血が溢れ出る身体を起こす。
「シね」
肺に血があるせいだろうか。酷く息苦しい。
血を体内に戻しつつ、握った足をそのまま握り折る。
俺がした事は単純明快。
相手の血界を血海で取り込んだだけ。
そのせいで血刃が。いや、それと一緒に血呪まで消えたのだろう。
それに気づいた相手が再び第二血界を張り、一度距離を取る。しかし俺はもう一度刃で切り合いをする気は無い。
「《遺された泡沫の夢》」
詠唱短縮。魔法は門外漢だが、アーネやユーリア達のような達人が周りにいれば、嫌でもこれぐらいの事は出来るようになる。
奪った物を含め、膨大な量に膨れ上がった血。そこに合わせるのは第一の鎖。
「起動…《血鎖》」
発動直後、俺の左の鎖骨辺りから大量の鎖が飛び出、勇者に殺到する。
増幅魔法の効果は十秒程度。その間ありったけの鎖を叩き込み、魔法が掻き消え、反動で俺は倒れた。
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