1,446 / 2,027
本編
雷と勇者
しおりを挟む
先に動いたのは相手の方。幾分距離が空いてしまっているので、向こうの方が早く動いた。
寄生されて意識がないであろうに、それでも滑舌はしっかりとしているのか、凄まじい勢いで魔法が完成。
豪雨のように撃ち込まれる雷撃。それは先程俺に雷を撃ち込んでいた雲から降り注いだ。
しかし。
「効かないっての」
雷撃の中、それをものともせずに進む俺。血鎧は魔族の魔法や魔術にすら耐える。この程度なら全く通らない。
「そら、返すぞ」
マキナで作った細身の直剣を一本握り、下から上へ切り上げるような一撃を放つ。
距離は明らかに魔法使いの間合いだが、今回に限って言うならこれでいい。
剣を振り抜くと、俺の剣の軌跡に合わせて黄金の柱が天を貫かんと立ち上り、進路上の物を飲み込みながら直進していく。
血鎧の能力で溜め込んだ魔力は、勇者が持つ唯一の付与強化として変換される。今のはさんざん叩き込まれた雷撃の魔法を血鎧で受けた分、全てを相手に返したのだ。
しかし、非常に強力なエンチャントであるとは言え、所詮は勇者のもの。爆発力はあっても持続力は無く、この距離ならあの雷の柱も随分と減衰するだろう。
「詰めるか」
腰を落とし、一気に踏み込む。
未だ血呪は四肢に刻まれており、俺の身体能力を爆発的に上昇させている。
当然、踏み込みも尋常ならざる踏み込みであり、大地を割り、さらにぐんと相手に近づいた。
雷の柱に触れるほど近づいた時、相手が魔法を撃ったのだろう、俺が撃った雷の柱が掻き消え、閃光が視界を塗りつぶした。
だが。
「危ねぇなぁ、本当に」
そもそも、ただ受けるだけなら血鎧も必要ない。アーネが例外なだけで、ヒトの魔法ならばほぼ全て魔法返しで充分相殺出来るのだ。
それでも血鎧を使った理由は二つ。
ひとつは、あわよくば今の雷柱で痺れてもらうため。
もうひとつは、凌がれたとしても、目隠しにして接近出来ると踏んだため。
「ちょいと悪いが、これも依頼なんでな」
視線は相手の持つ杖。宝石のはめ込まれたそれは、実に高価そうであり、事実高価なものだ。
そして、魔法使いが魔法を使うための必須アイテムでもある。
通常ならば決して破壊されないように強固な防御策が施されているであろうそれに狙いを定め、相手がまだ魔法の準備をしている隙に戦技を叩き込む。
ただただ単純な袈裟斬り。しかし、それは何千回、何万回、何十万回と振られ、染み付き、最適化された完全な一撃。
それは名もなき戦技に昇華され、故に名を呼ばずともその力を発揮する。
雷の如き金の燐光を剣身に纏い、最速で放たれる最高の一撃は、見事杖を半ばから両断し、宝石のついた先端部分が地面に落ちる。
即座にそれを踏み砕き、魔法を撃つ手段を無くすも、相手もそのまま組み伏せようと突っ込んでくる。
それをいなして手足を縛り、後ろから押さえつけてじっと見つめる。
『…なんか見えるか?』
「それっぽいものは。あの虫、もしかしなくても魔力の塊か?」
今だなお暴れる魔法使いを押さえつけつつ、緋眼で見える世界を再確認する。
普段以上に見えているのは、魔法使い特有の太く強化された魔力の通り道。
そして、それとは別の色をした、細長い針金のような白い魔力。
「多分こいつだな…だがこれは…」
『どこにいるんだ』
「位置的におそらく…背骨。絡みつくようになってんな」
まさか口や尻から入り込んだ訳ではあるまい。一番ありそうなのは傷口から滑り込み、背骨まで食い進んで来たか。
いずれにしろ、今取り出すのは困難か。
今は周りに魔獣が居ないとはいえ、いつ来てもおかしくない。それに、壁の上から見える魔法がいつこちらに落ちるか分からない。その時、当たったのが俺だけなら問題は無いが、こいつにも当たったら…
「チィッ!!」
マキナを使い、ニケにメッセージを飛ばす。
『どうしましたか!?』
「一人捕まえた。だがこの場で虫を引っ張り出すのは無理だ、一旦誰もいない安全な所に匿ってくれ」
『早…!?わかりました!すぐ行きます!』
「お前も乗っ取られないよう気をつけろよ」
そう言ってメッセージを切る。もう既にニケが見えてきた。
音源からするに、暴れているのはあと二人か?魔力が枯渇する前に早く行かなくては。
寄生されて意識がないであろうに、それでも滑舌はしっかりとしているのか、凄まじい勢いで魔法が完成。
豪雨のように撃ち込まれる雷撃。それは先程俺に雷を撃ち込んでいた雲から降り注いだ。
しかし。
「効かないっての」
雷撃の中、それをものともせずに進む俺。血鎧は魔族の魔法や魔術にすら耐える。この程度なら全く通らない。
「そら、返すぞ」
マキナで作った細身の直剣を一本握り、下から上へ切り上げるような一撃を放つ。
距離は明らかに魔法使いの間合いだが、今回に限って言うならこれでいい。
剣を振り抜くと、俺の剣の軌跡に合わせて黄金の柱が天を貫かんと立ち上り、進路上の物を飲み込みながら直進していく。
血鎧の能力で溜め込んだ魔力は、勇者が持つ唯一の付与強化として変換される。今のはさんざん叩き込まれた雷撃の魔法を血鎧で受けた分、全てを相手に返したのだ。
しかし、非常に強力なエンチャントであるとは言え、所詮は勇者のもの。爆発力はあっても持続力は無く、この距離ならあの雷の柱も随分と減衰するだろう。
「詰めるか」
腰を落とし、一気に踏み込む。
未だ血呪は四肢に刻まれており、俺の身体能力を爆発的に上昇させている。
当然、踏み込みも尋常ならざる踏み込みであり、大地を割り、さらにぐんと相手に近づいた。
雷の柱に触れるほど近づいた時、相手が魔法を撃ったのだろう、俺が撃った雷の柱が掻き消え、閃光が視界を塗りつぶした。
だが。
「危ねぇなぁ、本当に」
そもそも、ただ受けるだけなら血鎧も必要ない。アーネが例外なだけで、ヒトの魔法ならばほぼ全て魔法返しで充分相殺出来るのだ。
それでも血鎧を使った理由は二つ。
ひとつは、あわよくば今の雷柱で痺れてもらうため。
もうひとつは、凌がれたとしても、目隠しにして接近出来ると踏んだため。
「ちょいと悪いが、これも依頼なんでな」
視線は相手の持つ杖。宝石のはめ込まれたそれは、実に高価そうであり、事実高価なものだ。
そして、魔法使いが魔法を使うための必須アイテムでもある。
通常ならば決して破壊されないように強固な防御策が施されているであろうそれに狙いを定め、相手がまだ魔法の準備をしている隙に戦技を叩き込む。
ただただ単純な袈裟斬り。しかし、それは何千回、何万回、何十万回と振られ、染み付き、最適化された完全な一撃。
それは名もなき戦技に昇華され、故に名を呼ばずともその力を発揮する。
雷の如き金の燐光を剣身に纏い、最速で放たれる最高の一撃は、見事杖を半ばから両断し、宝石のついた先端部分が地面に落ちる。
即座にそれを踏み砕き、魔法を撃つ手段を無くすも、相手もそのまま組み伏せようと突っ込んでくる。
それをいなして手足を縛り、後ろから押さえつけてじっと見つめる。
『…なんか見えるか?』
「それっぽいものは。あの虫、もしかしなくても魔力の塊か?」
今だなお暴れる魔法使いを押さえつけつつ、緋眼で見える世界を再確認する。
普段以上に見えているのは、魔法使い特有の太く強化された魔力の通り道。
そして、それとは別の色をした、細長い針金のような白い魔力。
「多分こいつだな…だがこれは…」
『どこにいるんだ』
「位置的におそらく…背骨。絡みつくようになってんな」
まさか口や尻から入り込んだ訳ではあるまい。一番ありそうなのは傷口から滑り込み、背骨まで食い進んで来たか。
いずれにしろ、今取り出すのは困難か。
今は周りに魔獣が居ないとはいえ、いつ来てもおかしくない。それに、壁の上から見える魔法がいつこちらに落ちるか分からない。その時、当たったのが俺だけなら問題は無いが、こいつにも当たったら…
「チィッ!!」
マキナを使い、ニケにメッセージを飛ばす。
『どうしましたか!?』
「一人捕まえた。だがこの場で虫を引っ張り出すのは無理だ、一旦誰もいない安全な所に匿ってくれ」
『早…!?わかりました!すぐ行きます!』
「お前も乗っ取られないよう気をつけろよ」
そう言ってメッセージを切る。もう既にニケが見えてきた。
音源からするに、暴れているのはあと二人か?魔力が枯渇する前に早く行かなくては。
0
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記
スィグトーネ
ファンタジー
ワンルームの安アパートに住み、非正規で給料は少なく、彼女いない歴35年=実年齢。
そんな負け組を絵にかいたような青年【海渡麒喜(かいときき)】は、仕事を終えてぐっすりと眠っていた。
まどろみの中を意識が彷徨うなか、女性の声が聞こえてくる。
全身からは、滝のような汗が流れていたが、彼はまだ自分の身に起こっている危機を知らない。
間もなく彼は金縛りに遭うと……その後の人生を大きく変えようとしていた。
※この物語の挿絵は【AIイラスト】さんで作成したモノを使っています
※この物語は、暴力的・性的な表現が含まれています。特に外出先等でご覧になる場合は、ご注意頂きますようお願い致します。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる