大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,445 / 2,027
本編

突撃と跳躍

しおりを挟む
少しでも猶予が出来るようにとニケが速度を上げ続け、ガラガラガタガタと鳴っていた荷車はついに限界直前まで来た。
このままでは間違いなく高壁に着く前に荷車が崩壊する。しかし、一秒でも早く着かなくてはならないというニケの気持ちもよくわかる。
『…おいレィア』
「あんだ?」
小声でそう聞き返す。きっとニケの耳に届く前に、悲鳴のようにすら聞こえる荷車の音でこの声はかき消されるのだろうが。
しかしシャルにはちゃんと聞こえていたようで、聞き返すことはしなかった。
『偶数番の血界を許可する。気を抜くなよ』
「…珍しいな。お前から先に言うなんて。魔族絡みでも狭間の子関係でもないのに」
『流石に今回ばかりは特例だ。ヒトにすら寄生する虫が、もしも俺達に寄生出来たら一番まずい。そのための自己強化系偶数番の許可だ』
どのような手段で寄生するのか全く想像がつかないが、とにかく可能性は少しでも排除したいのだろう。まぁ、仮に乗っ取られたら本当に不味いからな。
いや、もしかしたら俺には効かない可能性が僅かにあるのか。しかしそれに賭けるのはあまりに危険だ。
「了解。気を引き締めていきますか」
そう言った時、荷車を引くニケが声を上げた。
「見えてきました!魔法に注意を!」
「おう!だがな、他人より自分の心配しとけよ!ニケ!」
前方には魔法の光が音と破壊を撒き散らしているのがよく見える。あれだけの魔力を景気よくぶっ放ししているという事は、宿主の魔力が多かったのか、それとも宿主など気にもせず魔法をただ撃ち続けているだけなのか。
もしそうなら、いずれ魔力が枯渇する。いや、むしろ良く持っていた方だろう。
「ニケ!お前はどうすんだ!?残るのか!?」
「下がります!僕の剣ではどうしても彼らを殺してしまうので!」
確かに彼女の剣はヒトを気絶や捕縛するのに絶望的に向いていない。
「賢明な判断だ!んじゃ早く下がれよ!」
そんじゃ、許可も出てるし時間もないし、気兼ねなく。
「あ!それとニケ!」
「はい!?なんでしょうか!?」
第二血界起動──
「この荷車壊してすまん!」
《血呪》!
直後、俺の跳躍のせいでが木っ端微塵になる荷車が後ろに見えた。
『《血鎧》張っとけ一応。何が来てもおかしく──』
突如落ちたのは落雷。空を割る乾いた破裂音と共に俺のすぐ脇を通って落ちた。
「っぶね」
『…なぁ、レィア。ついさっきまで雲なんてあったか?』
「あ?そういや無かっ──」
二発目の雷撃。今度も俺のすぐ横を通って地面に落雷。さらに間髪入れずに三発目──
「いやいやおかしい、って!」
咄嗟に第四血界《血鎧》を発動。落雷が俺に当たるが、当の俺は無傷。
やはり天然の落雷ではなく魔法によるものだったらしい。
「随分と刺激的な歓迎だな。俺じゃなきゃそのまま昇天コースだった──ぞっ、と」
マキナを纏い、ガリガリと地面を削りながら着地。目の前には無差別に魔法を放つ人影。手始めにこいつか。
「さぁ、かかってこい」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記

スィグトーネ
ファンタジー
 ワンルームの安アパートに住み、非正規で給料は少なく、彼女いない歴35年=実年齢。  そんな負け組を絵にかいたような青年【海渡麒喜(かいときき)】は、仕事を終えてぐっすりと眠っていた。  まどろみの中を意識が彷徨うなか、女性の声が聞こえてくる。  全身からは、滝のような汗が流れていたが、彼はまだ自分の身に起こっている危機を知らない。  間もなく彼は金縛りに遭うと……その後の人生を大きく変えようとしていた。 ※この物語の挿絵は【AIイラスト】さんで作成したモノを使っています ※この物語は、暴力的・性的な表現が含まれています。特に外出先等でご覧になる場合は、ご注意頂きますようお願い致します。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...