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本編
魂と実験
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「まず、この方法じゃと問題がある。ひとつはそもそもの魂が非常に劣化しやすいことじゃ」
《臨界点》は厳しい顔つきのまま話を続けた。
「普通のヒトでは一日と経たずに魂が劣化し、いくら新しい肉体に死人の魂を吹き込んでも破損した状態になる。要は廃人しか出来上がらんのじゃよ」
「はぁん…魂ねぇ…どんだけやってもダメだったのか?」
「あぁ。ヒトならのう」
…ん?ヒトなら?
「じゃが、魔族なら既に成功したらしいの。あ奴らは身体だけでなく魂まで頑丈だったようじゃ」
「なるほど、ね…」
「故に今、研究所が躍起になって作っておるのは人工的な魂。それと──」
「魂の強度的に可能性がある半魔族のシエルか」
「………ハーフの身体は奴らにしたら宝の山じゃ。血肉は薬に、内臓と骨は魔法の儀式素材。死んだ後も魂さえ使い倒す。のじゃからな」
「随分と具体的な発言だな。見たのか?」
俺が知っているハーフは三人。シエル、《臨界点》、そしてゼランバで糸を引いていたあの神父。この三人しか知らないが、逆に言えば三人はいた。他にもハーフがいて、そのハーフが過去に研究所の奴らにやられたのだろうか。そう思って言ったのだが、返ってきた言葉は少々予想外だった。
「何、吾輩の身体を提供したまでよ。自分の意思での」
「………どれだけやったんだ」
「通算で血は五リットル、肉は二キロ程じゃな。あとは肝臓の一部と肋を一対抜いて、代わりに生体骨を使っておる」
「それを出して…お前は何を知りたかったんだ?」
「吾輩が何者なのか、じゃな。ヒトでもなく魔族でもなく、その間の半端者。当時は同類なんぞおらんと信じ切っとったからな。少しでも自分を調べて、自分が何なのかを知ろうとしておったわ」
正直ゾッとした。そこまでして自分とは何かを分類しようとする《臨界点》の執念にも似た意思に。
「答えは、出たのか?」
「ヒトより魔族に近しいが、魔族と呼ぶには脆すぎる。脆くなりすぎた。と言うのが結論じゃな。今となってはどうでも良い事じゃが」
一体何年前のことか。遠くを見るような目をした《臨界点》がそう言う。
「…話がズレたな。そんでなんだっけ。死者の蘇生には問題があるって話だっけ」
「そうじゃ。いくつか問題になる点はあるが、一番大きい障害は魂の劣化じゃな。それも、最近は何やら不味いものに手を出し始めていると、風の噂で聞いてな」
「不味いもの?」
「そこまでは知らん。が、吾輩が立ち入らなくなってからかなり変わったらしいと聞いた」
「ふん…そうか」
「どうした?何かあったのか?」
「いんや、なんでもない」
太陽が昇ってきた方角に目をやり、また《臨界点》の方を向く。
「ま、なんにせよ情報くれたのは感謝するわ。本気でどうすっかとかはまた別だけど」
「それで良い。吾輩には以前程の力はない。何かするなら、頼れる相手に頼るしかないのじゃからな」
「俺は頼れる相手なのか」
「でなければ顔を見せも事情を説明したりもせぬじゃろ」
「まぁ、そうか」
なら少しは考えといてやろう。
もう一度太陽の方を見る。太陽は既にかなり高くなり始めている。かなり時間もたっているようだ。
少しは考えといてやろうと言っても《臨界点》の事だ。多分俺に言ってないことも多い。それは俺に言う必要が無いからなのか、それとも隠しておきたいからなのか。
「じゃあな《臨界点》」
そう言って振り返ると、そこに彼女の姿はもうなかった。
《臨界点》は厳しい顔つきのまま話を続けた。
「普通のヒトでは一日と経たずに魂が劣化し、いくら新しい肉体に死人の魂を吹き込んでも破損した状態になる。要は廃人しか出来上がらんのじゃよ」
「はぁん…魂ねぇ…どんだけやってもダメだったのか?」
「あぁ。ヒトならのう」
…ん?ヒトなら?
「じゃが、魔族なら既に成功したらしいの。あ奴らは身体だけでなく魂まで頑丈だったようじゃ」
「なるほど、ね…」
「故に今、研究所が躍起になって作っておるのは人工的な魂。それと──」
「魂の強度的に可能性がある半魔族のシエルか」
「………ハーフの身体は奴らにしたら宝の山じゃ。血肉は薬に、内臓と骨は魔法の儀式素材。死んだ後も魂さえ使い倒す。のじゃからな」
「随分と具体的な発言だな。見たのか?」
俺が知っているハーフは三人。シエル、《臨界点》、そしてゼランバで糸を引いていたあの神父。この三人しか知らないが、逆に言えば三人はいた。他にもハーフがいて、そのハーフが過去に研究所の奴らにやられたのだろうか。そう思って言ったのだが、返ってきた言葉は少々予想外だった。
「何、吾輩の身体を提供したまでよ。自分の意思での」
「………どれだけやったんだ」
「通算で血は五リットル、肉は二キロ程じゃな。あとは肝臓の一部と肋を一対抜いて、代わりに生体骨を使っておる」
「それを出して…お前は何を知りたかったんだ?」
「吾輩が何者なのか、じゃな。ヒトでもなく魔族でもなく、その間の半端者。当時は同類なんぞおらんと信じ切っとったからな。少しでも自分を調べて、自分が何なのかを知ろうとしておったわ」
正直ゾッとした。そこまでして自分とは何かを分類しようとする《臨界点》の執念にも似た意思に。
「答えは、出たのか?」
「ヒトより魔族に近しいが、魔族と呼ぶには脆すぎる。脆くなりすぎた。と言うのが結論じゃな。今となってはどうでも良い事じゃが」
一体何年前のことか。遠くを見るような目をした《臨界点》がそう言う。
「…話がズレたな。そんでなんだっけ。死者の蘇生には問題があるって話だっけ」
「そうじゃ。いくつか問題になる点はあるが、一番大きい障害は魂の劣化じゃな。それも、最近は何やら不味いものに手を出し始めていると、風の噂で聞いてな」
「不味いもの?」
「そこまでは知らん。が、吾輩が立ち入らなくなってからかなり変わったらしいと聞いた」
「ふん…そうか」
「どうした?何かあったのか?」
「いんや、なんでもない」
太陽が昇ってきた方角に目をやり、また《臨界点》の方を向く。
「ま、なんにせよ情報くれたのは感謝するわ。本気でどうすっかとかはまた別だけど」
「それで良い。吾輩には以前程の力はない。何かするなら、頼れる相手に頼るしかないのじゃからな」
「俺は頼れる相手なのか」
「でなければ顔を見せも事情を説明したりもせぬじゃろ」
「まぁ、そうか」
なら少しは考えといてやろう。
もう一度太陽の方を見る。太陽は既にかなり高くなり始めている。かなり時間もたっているようだ。
少しは考えといてやろうと言っても《臨界点》の事だ。多分俺に言ってないことも多い。それは俺に言う必要が無いからなのか、それとも隠しておきたいからなのか。
「じゃあな《臨界点》」
そう言って振り返ると、そこに彼女の姿はもうなかった。
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