大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

魂と命

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「なるほど、確かに強い生命力を持つ魔族と、唯一スキルを所持できる種族であるヒト。両方の特徴を持つハーフなら研究所の標的にされてもおかしくは無い。ましてや研究所の目的が人工生命っつう、生命そのものの研究なら魔族とのハーフは貴重なサンプルって訳だ。そりゃ分かる。が」
「なんじゃ」
「お前、留年して何年もこの学校にいたんだろ?ならお前もとっくの昔にハーフだってバレて実験コースじゃないのか?それとも今更になってバレたのか?お前はそんなヘマをするような奴じゃないと思ってたんだが」
研究所の入口のひとつは訓練所から繋がっていた。ならきっと、あそこから情報を集める手段があってもおかしくはない。というか、スキルについて研究しているのなら、そうしない理由がない。
「吾輩と学校長の関係を知っておるなら無闇に手は出せまい?いくら手を出したくとも、あそこの所長はその辺りを弁えておる」
「はぁん、つまり研究所の連中は俺を舐めてるのか」
「間違いではあるまい。お前と学校長では権力という点でどう足掻いても研究所側に被害は与えられん」
確かにその通りなのだが。
「まぁ、研究所の目的っつーか目標はわかった。で、どうすりゃいいんだ」
「何、簡単じゃ。《緋眼騎士》、お前ちょっと研究所を荒らして来い」
「あぁん?」
前々から頭のおかしいやつだと思っていたが、今回はぶっちぎりで頭がおかしい。
「なんでまた」
「あそこの研究は色々と厄介なものが多いんじゃ。一度ほぼリセットされたが、それでもまたこの二十年で追いつきおった。持ち出した輩は勝手に死によったからもう良いものの、このままでは少し不味いことになる」
「不味いって…何が」
「研究内容は『スキルの複製と付与』、そして『人工生命』じゃ。どれだけ研究がまた進んでおるかは分からんが、この二つの研究が成就した場合どうなるかわかるかの?」
「あ?俺らが更に新しいスキルとか使えるようになるんじゃねぇの?」
「阿呆、それは複製と付与の話だけじゃろう。両方ともじゃ両方」
「両方…?」
しばらく考え、ピタリと答えが出た。気がする。もしかして。
「なんだ、人工生命の方にスキルをつけるのか?」
「やっと理解出来たか。両方が成功した場合、確実に強いスキルを持った人工生命が完成する」
「別にいいじゃん。むしろ沢山作って魔族との戦いで活躍してもらおうぜ」
量産は出来るのだろうか。そうなら良い。出来なくとも、一人でも強い仲間がいるならそれだけで安心出来る要因の一つになる。
そう思ったのだが。
《臨界点》が声を落とした。
「…実を言うとな、既に肉体は仕上がっておる。だが厄介な話での、研究では生命と呼ぶために必要なものが三つあるという」
すっ、とゴツい革手袋をつけた指を三本立てる。
指をひとつ折り。
「一つは肉体。行動する手足、生きるための血に内臓。身体を支える骨」
指をふたつ折り。
「一つは魔力。世界に干渉する力、言い換えるのなら、運命に触れる力」
みっつ、折った。
「一つは記憶。あるいは魂。己こそが己であるという、強い意思の存在」
手をおろし、真剣な眼差しをじっと俺に向けながら《臨界点》は話を続けた。
「一つ目はまだよい。そもそも肉体を作る程度ならば奴らも何十年も前にやっておる。二つ目は難しいじゃろうが、出来なくはない。そして最後じゃ。実はこれが一番簡単でな」
「魂が?一番面倒そうじゃねぇか」
「簡単じゃよ。そこらの墓地へ行って墓を掘れば良い。後はその者の遺骨を使って魂を呼び寄せる」
「…墓荒らしか」
「包み隠さずいえばそうなるの。新しい肉体に魔力を通し、死人の魂を入れて動かす…」
あぁなるほど。そういう事ね。
だから《臨界点》はこんなにも忌避感を抱いてるのな。
「死人の黄泉還りなわけだ」
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