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本編
双刃と双剣 終
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停止状態かつ低姿勢の状態から、突如トップスピードに乗るかのような急加速。小柄な身体も相まって、普通ならば彼女の姿を視界に移すこともなく一撃を貰い、そこから血を抜かれてダウンとなるだろう。
だが俺なら。
緋の眼を持つ俺なら、その動きを見落とすこと無く行動に移れる。
しかしそれを差し引いても彼女の動きは早い。対するこちらは銀剣の重量ゆえに軽快な動きは不可能。マキナの装着を前提とした剣だ、当然と言えば当然だろう。
金剣を使わないのは双剣でシエルと戦いたかったから。そして、マキナを使わないのは今の俺の地力がどれだけか知りたいから。
不利になるとわかっても。それでも俺は戦う。
急加速したシエルは俺の右横、大腿部を狙ってナイフを振り下ろす。
対する俺は前へ大きく前転するように回避。一撃入れさえすれば勝ちがほぼ確定する彼女の戦闘スタイル的に、正面はありえないと判断。
動いた瞬間から既に前方向へと動いていた俺は、超速のシエルの一撃から辛うじて回避を成功させる。
「あっぶね!」
そして両足が再び地面へ着いた瞬間、ぐるりと身体を半回転。これで剣の回転の最初のエネルギーを確保。
そのままやや回転速度が遅いものの、一撃の重さを武器にシエルとしばらく勝負し続けた。
切って突いて弾いて避けて。
蹴って躱して受けてぶつけて。
加速し続ける俺の攻撃をシエルはなんとか捌き、対する俺も決して一撃も貰わないよう注意して戦う。
スキルの対象は俺は身体全体。シエルは『血』という一点。
《血海》も使えばおそらく彼女のスキルのコントロールと拮抗、もしくはコントロールを奪えるかもしれない。しかし逆に言うなら、素のスキルであるなら血という一点に絞ったシエルの方が俺のスキルより強い。
遅らせる事は出来るかもしれないが、止めることは不可能だろう。
「ふっ!」
「……ッ!」
加速した銀剣の一撃をシエルのナイフが真正面から受けた。
半魔族である彼女自身の骨や筋肉はなんとかその衝撃に耐えきったようだが、武器はそうもいかない。
度重なる剣戟、疲労が溜まるのはシエルだけではなく、武器にも疲労は蓄積される。
「…!」
折れるどころの話ではなく、刀身が砕け散って柄だけが残った。まだ一振り残っているとはいえ、これはかなり厳しいだろう。
そして俺の剣は双剣。シエルが一撃耐えた所で終わるものでもない。
体勢が崩れたシエルにさらにもう一撃叩き込む。
もちろん峰打ちだが、シエルはこれをナイフを立てて防ごうとする。しかし当然その程度では銀剣は止まらず──彼女の身体を吹き飛ばした。
手応えあり。壁まで吹き飛んだ彼女が起き上がるのはまず無理だろう。
「……やっぱ伸びてんなぁ。シエルも」
ふと自分の身体を見下ろす。
そこに映るのはいつもの黒い服。
そして、よくよく見ればその服の至る所に新しい切り傷がある。間違いなく今の戦闘でついたものだ。
首の皮一枚繋がったという表現があるが、今回に関して言うなら布切れ一枚で助かったと言った所か。あんま上手くねぇな。
さて、気絶したシエルを担いで出ていきますか。
そう思って壁にもたれ掛かるようにして気絶している彼女の手をぐい、と掴んだ瞬間。
この前の会話が脳裏を過った。
アーネがシエルの腕に何か巻いてあると言っていた話。ウィルが傷を隠すためになにか貼っているという話。
…まさかな、と思いながら。それでも確かめたいと思った自分もいた。
意識のないシエルの手から五指の腹で触りながら、胴体の方へと手を這わせていく。
手の甲、手首、滑らかな肌を伝って肘、そして二の腕に届いた瞬間。
なにか明らかにつるつるとしたヒトの肌ではありえない、がさついた独得の感触が伝わってきた。
だが俺なら。
緋の眼を持つ俺なら、その動きを見落とすこと無く行動に移れる。
しかしそれを差し引いても彼女の動きは早い。対するこちらは銀剣の重量ゆえに軽快な動きは不可能。マキナの装着を前提とした剣だ、当然と言えば当然だろう。
金剣を使わないのは双剣でシエルと戦いたかったから。そして、マキナを使わないのは今の俺の地力がどれだけか知りたいから。
不利になるとわかっても。それでも俺は戦う。
急加速したシエルは俺の右横、大腿部を狙ってナイフを振り下ろす。
対する俺は前へ大きく前転するように回避。一撃入れさえすれば勝ちがほぼ確定する彼女の戦闘スタイル的に、正面はありえないと判断。
動いた瞬間から既に前方向へと動いていた俺は、超速のシエルの一撃から辛うじて回避を成功させる。
「あっぶね!」
そして両足が再び地面へ着いた瞬間、ぐるりと身体を半回転。これで剣の回転の最初のエネルギーを確保。
そのままやや回転速度が遅いものの、一撃の重さを武器にシエルとしばらく勝負し続けた。
切って突いて弾いて避けて。
蹴って躱して受けてぶつけて。
加速し続ける俺の攻撃をシエルはなんとか捌き、対する俺も決して一撃も貰わないよう注意して戦う。
スキルの対象は俺は身体全体。シエルは『血』という一点。
《血海》も使えばおそらく彼女のスキルのコントロールと拮抗、もしくはコントロールを奪えるかもしれない。しかし逆に言うなら、素のスキルであるなら血という一点に絞ったシエルの方が俺のスキルより強い。
遅らせる事は出来るかもしれないが、止めることは不可能だろう。
「ふっ!」
「……ッ!」
加速した銀剣の一撃をシエルのナイフが真正面から受けた。
半魔族である彼女自身の骨や筋肉はなんとかその衝撃に耐えきったようだが、武器はそうもいかない。
度重なる剣戟、疲労が溜まるのはシエルだけではなく、武器にも疲労は蓄積される。
「…!」
折れるどころの話ではなく、刀身が砕け散って柄だけが残った。まだ一振り残っているとはいえ、これはかなり厳しいだろう。
そして俺の剣は双剣。シエルが一撃耐えた所で終わるものでもない。
体勢が崩れたシエルにさらにもう一撃叩き込む。
もちろん峰打ちだが、シエルはこれをナイフを立てて防ごうとする。しかし当然その程度では銀剣は止まらず──彼女の身体を吹き飛ばした。
手応えあり。壁まで吹き飛んだ彼女が起き上がるのはまず無理だろう。
「……やっぱ伸びてんなぁ。シエルも」
ふと自分の身体を見下ろす。
そこに映るのはいつもの黒い服。
そして、よくよく見ればその服の至る所に新しい切り傷がある。間違いなく今の戦闘でついたものだ。
首の皮一枚繋がったという表現があるが、今回に関して言うなら布切れ一枚で助かったと言った所か。あんま上手くねぇな。
さて、気絶したシエルを担いで出ていきますか。
そう思って壁にもたれ掛かるようにして気絶している彼女の手をぐい、と掴んだ瞬間。
この前の会話が脳裏を過った。
アーネがシエルの腕に何か巻いてあると言っていた話。ウィルが傷を隠すためになにか貼っているという話。
…まさかな、と思いながら。それでも確かめたいと思った自分もいた。
意識のないシエルの手から五指の腹で触りながら、胴体の方へと手を這わせていく。
手の甲、手首、滑らかな肌を伝って肘、そして二の腕に届いた瞬間。
なにか明らかにつるつるとしたヒトの肌ではありえない、がさついた独得の感触が伝わってきた。
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