1,335 / 2,027
本編
咆哮と暴力
しおりを挟む
唸る猛獣のような声が絶えず響くトンネルを走ると、すぐにその場所に着いた。
不思議なことに、ちょうど動きやすい広間のようになっているが…誰かが意図的に作った?肉塊が作っただけのトンネルに?それとも肉塊がなにか理由があって自分で作った空間なのか?
あるいは──既にあったトンネルを肉塊が利用しただけ、とか。
いや、変な予想を今している訳では無い。
話を戻そう。
そこには明らかに身体が一回りほど大きくなったウィルがいた。明らかにスキルを使っている。
そしてそのウィルがスキルを維持したままという事は、その状態で対峙するべき敵がいるはずだ。
「っ!」
おっと危ない。慌てて急ブレーキをかけ、壁の僅かな窪み出っ張りに身を隠す。
緋眼でも辛うじて見える距離まで近づき、目を凝らしてよく見る。耳を澄ませる。
まず、声のようなものはほとんど聞こえない。強いて言うならウィルの叫び声だが、これは除外。他に聞こえるのはウィルが暴れる音だけ。次いで出っ張りから顔だけをひょこりと出し、何が起きているのか確認する。
狂化ウィルが暴れ、攻撃が外れ、地面が──というかトンネル全体が揺れる。
「………?」
おかしい。俺の目には少なくともこの空間にはウィルしか見えない。ウィルは一体何と戦ってるんだ?
さらにウィルが暴れ、トンネルが削れる。ここだけ少し広いのはそうやって拡がったからだろうか。
『んー…俺にも何も見えんな。ウィル一人だ』
となると、一番有り得そうなのがウィルが幻術か何かを食らっているという可能性。
さて、どうして止めてやろうかと少し考える。幻術はやや特殊な魔法なので、食らっている誰かをどうやって止めればいいか正直よく分からない。
『一番簡単なのは相手を気絶させることだな。そうすりゃ大抵の幻術は消せる』
ほう。でもあれの中をかいくぐって気絶させるのか。骨が折れるぞ。
『血呪ぐらいなら許可してやる。とっとと行ってこい』
やれやれ。人使いの荒い亡霊様で。
『はっ。時間があんまりないのはお前が一番よくわかってんじゃねぇか。あの身体を見たんだろ?』
まぁ。見たというより見えた。
狂化のせいなのだろう。限界を超えて肉体が強化され、野獣の如く荒々しく使われ続けた身体からは、何もしていないのに血が流れ始めていた。なるほど、前に言っていたスキルで身体が云々と言うのはこういう事だったか。
あの調子だと、遠からず体力の損耗と流れ出る血で倒れるのは馬鹿でもわかる。
流石にそうなる前にウィルを止めなくてはならない。
止めなくてはならないのだが…まぁいい、とりあえず止めよう。考えるのはそれからだ。
俺はマキナを纏い、その下の身体に黒い紋様を走らせる。これで恐らくウィルと対等。金剣を抜き、ふらりと物陰から出る。とりあえず声をかけてみて反応を確認しようか
「よぉウィル、どうしたそんな格好──でっ!」
恐ろしく早い盾の一撃。そこに言葉はない。そして今の行動のせいで、こっちに狙いが定まったらしい。
よし、とりあえず気絶させよう。じゃないとこっちが危ない。
不思議なことに、ちょうど動きやすい広間のようになっているが…誰かが意図的に作った?肉塊が作っただけのトンネルに?それとも肉塊がなにか理由があって自分で作った空間なのか?
あるいは──既にあったトンネルを肉塊が利用しただけ、とか。
いや、変な予想を今している訳では無い。
話を戻そう。
そこには明らかに身体が一回りほど大きくなったウィルがいた。明らかにスキルを使っている。
そしてそのウィルがスキルを維持したままという事は、その状態で対峙するべき敵がいるはずだ。
「っ!」
おっと危ない。慌てて急ブレーキをかけ、壁の僅かな窪み出っ張りに身を隠す。
緋眼でも辛うじて見える距離まで近づき、目を凝らしてよく見る。耳を澄ませる。
まず、声のようなものはほとんど聞こえない。強いて言うならウィルの叫び声だが、これは除外。他に聞こえるのはウィルが暴れる音だけ。次いで出っ張りから顔だけをひょこりと出し、何が起きているのか確認する。
狂化ウィルが暴れ、攻撃が外れ、地面が──というかトンネル全体が揺れる。
「………?」
おかしい。俺の目には少なくともこの空間にはウィルしか見えない。ウィルは一体何と戦ってるんだ?
さらにウィルが暴れ、トンネルが削れる。ここだけ少し広いのはそうやって拡がったからだろうか。
『んー…俺にも何も見えんな。ウィル一人だ』
となると、一番有り得そうなのがウィルが幻術か何かを食らっているという可能性。
さて、どうして止めてやろうかと少し考える。幻術はやや特殊な魔法なので、食らっている誰かをどうやって止めればいいか正直よく分からない。
『一番簡単なのは相手を気絶させることだな。そうすりゃ大抵の幻術は消せる』
ほう。でもあれの中をかいくぐって気絶させるのか。骨が折れるぞ。
『血呪ぐらいなら許可してやる。とっとと行ってこい』
やれやれ。人使いの荒い亡霊様で。
『はっ。時間があんまりないのはお前が一番よくわかってんじゃねぇか。あの身体を見たんだろ?』
まぁ。見たというより見えた。
狂化のせいなのだろう。限界を超えて肉体が強化され、野獣の如く荒々しく使われ続けた身体からは、何もしていないのに血が流れ始めていた。なるほど、前に言っていたスキルで身体が云々と言うのはこういう事だったか。
あの調子だと、遠からず体力の損耗と流れ出る血で倒れるのは馬鹿でもわかる。
流石にそうなる前にウィルを止めなくてはならない。
止めなくてはならないのだが…まぁいい、とりあえず止めよう。考えるのはそれからだ。
俺はマキナを纏い、その下の身体に黒い紋様を走らせる。これで恐らくウィルと対等。金剣を抜き、ふらりと物陰から出る。とりあえず声をかけてみて反応を確認しようか
「よぉウィル、どうしたそんな格好──でっ!」
恐ろしく早い盾の一撃。そこに言葉はない。そして今の行動のせいで、こっちに狙いが定まったらしい。
よし、とりあえず気絶させよう。じゃないとこっちが危ない。
0
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。
夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。
陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。
「お父様!助けてください!
私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません!
お父様ッ!!!!!」
ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。
ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。
しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…?
娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。
隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。
婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。
しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる